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特別展〈癒やしの日本美術〉/山種美術館 感想

1月に、山種美術館の特別展〈癒やしの日本美術〉を観ました。2023年はろくに美術展に行けなかったので、とても久しぶりの美術展でした。

山種美術館は初めてです。浮世絵は好きで時々見に行きますが、日本美術全般にはあまり関心が持てずにいました。しかし最近、近代日本美術の本をいくつか読んだこともあり、〈癒やしの日本美術〉というキャッチーで軽い響きに惹かれて、今回鑑賞に行きました。「癒やし」というテーマなので、時代も作風も幅広く、いろいろなものが見られるのが面白かったです。
以下、いいなと思った画家や作品について、その場で残されたメモとともに書き出します。

・柴田是真〈墨林筆哥〉
漆絵の画帖です。「すべてのバランスがとれすぎ」とメモされていました。是真の絵を見ると、いつも「すべてのバランスがとれすぎ」と思います。黄金比とか、そういうやつなのでしょうか。

・河合玉堂〈山雨一過〉
「動画っぽい、ジブリ」とあります。あとで画像を見ても、やはり動画っぽいと思いました。山水画のように、日本美術は一瞬を切り取るというよりも、絵の中で遊べるような、時間空間を行き来できることが特徴かと思います。そうした時空間の描き方と、なじみやすい写実風の描写が組み合わさって、ジブリっぽいという感想に至ったのかなと思います。

・松尾敏男〈緑枝翠影〉
「銀がきれい。屏風だから囲まれているみたい」とあります。本当にとてもきれいで、水の中にいるような気分になります。癒やし度では1位を争う作品だと思います。

・千住博〈光〉
本当にきれいでした。光を感じます。ずーっと眺めていたかったです。

・上村松園〈杜鵑を聴く〉
耳をそば立てる女性のしぐさで杜鵑を感じさせる、おしゃれな作品です。「襦袢と髪飾りの質感」とメモしました。襦袢の模様が浮き出た感じが、本当にレースを切り貼りしているかのようでした。松園はもう一点〈折鶴〉が展示されていましたが、そちらには「やっばキレイ」と語彙力ゼロの感想がメモされています。図版で見ただけでは、こういうよさに気付けなかったです。今回で松園のファンになりました。

・林功〈月の音〉
「かわいい!キレイ!チェレスタの音」とメモしていました。今回知ることができてよかったと一番思う画家です。ひんやりとした空気感と、椿のかわいらしさ、透けて重なる葉がとてもよかったです。チェレスタのような、キラキラとした不思議な音が聞こえる気がしました。隣にあった〈凍音〉は、〈月の音〉よりは渋い感じでしたが、やはりキラキラときれいで、鋭利な三日月が素敵でした。ほかの作品も見てみたいです。

・猪熊佳子〈太古の森の〉
とても緻密できれいです。癒やし度1位争い作品です。

・伊藤小坡〈虫売り〉
虫売りの女性の着ている透けた上着のグラデーションがすごいです。主モチーフと上部の余白とのバランスもとても気持ちがいいです。

・川﨑小虎〈ふるさとの夢〉
眠るこどもの上に、漫画のようにもくもくと、故郷の情景が浮かんでいる面白い作品です。解説に「角兵衛獅子」とあったので、なんだろうと調べてみました。新潟県の月潟村を発祥とする大道芸で、飢饉の多いこの地域の副業のようなものとして、子供を旅稼ぎさせたそうです。江戸時代は全国で人気があったらしいですが、文明開化後の社会は子供の大道芸を認めず、すたれていきました。現在は伝統芸能として保存されています。動画を見ると、かなりアクロバティックな組体操という感じです。川﨑小虎はこの作品を昭和3年に描いており、画家自身も明治生まれですから、このような子供の芸に親しんだわけではないでしょう。民俗学などが確立されるころなので、こうした過去を懐かしむような時代だったのかもしれません。背景を知ると、この子供は故郷に帰ることができたのだろうか、と切ない気持ちになります。


全体として、(私の無知はさておき)初めて知った画家の作品にとても好きなものが多かったです。一方で、教科書に載っているような超有名どころの作品は、それほど響かなかったです。
章立ての順に観たのですが、第1章で展示される伊藤若冲、長澤芦雪でくじけそうになりました。有名な画家で、本展のメイン所です。くじけそう、と言いましたが、鑑賞の最中は「ふむふむ」という顔で見ていました。こんなに有名な美術家の作品で、この展覧会のメインなのだから、「わからない」わけにはいかない、と思ったのです。
しかし、第2章以降、心から「素晴らしい!」と思える作品にたくさん出会うことができ、第1章で自分が直観的にいいと思えないものを無理にわかろうとしていたことに気が付きました。
美術史を勉強すれば、教科書に載っているような有名な美術家の作品がどれだけすごいのか、よくわかるようになると思っていました。しかし、美術史を勉強するほど、美術史を信用できない気持ちが強くなります。美術史は日々アップデートされていますが、やはり偉い人が評価したものが語られ、偉い人がルールを決めた、美術という競技種目にエントリーした人から評価される世界です。有名な人の作品にも、駄作はたくさんあるでしょう。勉強中の身ですから、やはり教科書を指標にはします。しかし、自分がいいと思えるものは、自分しか見つけられません。自分の眼でいいものを見つけたいです。

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