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【ショートショート】#133 紫が灯る

「やっぱ向いてないのかなぁ。」

今日も一つも契約を取れないまま会社へ戻る。


信号待ちをしていると、隣に2年前に別れた彼女が
立っていた。いや"元"彼女か。

あの時と全然変わってない。

向こうもまた僕に気づいたようで話しかけてきた。


「変わんないね。」


「君もね。」


「いや、信号が。」


「あ、そっちか...。」


「…変わったよ。」


「え?まだ赤だよ?」


「いや、私は。」


信号が青に変わり、僕たちは歩き出した。


「そうかなぁ。全然変わってない気がするけど。」


「ちゃんと幸せになったよ。」


「え?…あぁ、まだ覚えてたんだ。」


横断歩道を渡り終えると、彼女は立ち止まり

僕たちは向かい合った。

「だからさ、あなたも幸せになりなよ。

 言い出しっぺなんだから。」

そう言うと、振り返って歩き出した。

しばらくすると男性と合流し、

結婚式場に入っていった。


「…うん。」

そう呟いて、僕も振り返り、ゆっくりと歩き出した。

物書きになりたいという夢を叶えます