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【ショートショート】#30 タンマ

僕は時間を止めることができる。
最初に気づいたのは小学生の頃だ。


鬼ごっこ中、鬼に捕まりそうになった時
「タンマ!」と心の中で叫んだら
本当に鬼になった友達が止まっていたのだ。


止められる時間は10秒ほどで
10秒経つと時間はまた動き出した。


時間を止めた後
腕に今までなかった傷が付いていることに気づいた。
どうやら、時間を止めた代償らしい。


代償は回数を増すごとに大きくなっていった。
傷の範囲も深さも大きくなり
ついには骨折するまでになった。


だから余程のことがないと時間は止められなくなった。



そのまま数十年が経ち僕は結婚し子供ができた。
少しやんちゃだが優しい息子と
キャッチボールをしている時が一番幸せな時間だ。


大切な家族との幸せな日々が続いていたある日
悲劇が訪れた。
       

いつものように息子とキャッチボールをしている時
僕が投げたボールが取れなかった息子は
後ろに転がったボールを取りに走っていった。


そんなに走らなくても、と思った瞬間
道路に出てしまったボールを追いかけた息子が
トラックの前に飛び出してしまったのだ。
息子の姿がスローモーションに見えた。


クラクションの音で我に返ると
トラックはもう息子にぶつかる寸前だった。


「タンマ!」


僕は心の中で叫んだ。すると時は止まった。
息子をすぐに抱きかかえ、歩道に戻った。


10秒後、僕は全身傷だらけで、歩道に倒れていた。
これが時間を止められる最後だったのかもしれない。
すると、トラックの後ろからバイクが飛び出してきた。


トラックの急ブレーキに
咄嗟にハンドルを切ったバイクが
僕たちの元へ向かって来るのだった。


ここまでか...と目を瞑った...。

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