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【ショートショート】#139 青春

「今年もう半分過ぎたの?はや!」

毎年恒例のセリフが聞こえてくるようになる6月。木々を照らす太陽と揺らす風が心地よいとはもう言ってらんない。準備運動を始めた夏は、アップでもこのくらいの実力はありますよと余裕をかましてくる。部活の嫌な先輩みたいだ。


汗とシーブリーズを継ぎ足しながら過ごす一年の折り返し地点。学校まで登りの坂道は、朝から私の心を折ってくる。アドバンテージになるはずの愛車が、修学旅行に持って行くバスタオルくらい大荷物になるからより最悪だ。


でもそんな坂道は夕方になると姿を変える。あんなに私を苦しめていたのに一気に味方になる。

「大富豪で革命起きた時みたいじゃない?」

と後ろに乗るあいつに話しかけてみたけど、いまいちピンと来てないみたいだ。風がうるさいから聞こえなかったんだよね。きっとそうだ。

2人で乗る自転車は、なぜか1人で乗った時よりペダルが軽くなる。不思議だ。


大人になって青春時代を思い返すとしたら、絶対今のこの時間が1番最初に出てくると思う。だってきっとこれからも何回も思い出して、脳の引き出しの1番取り出しやすいところにあると思うから。

"青春"ってなんで"青"って感じが入っているんだろう。


この若さが、心も体も追いつかないスピードで日に日に勢いを増していく今を色で表すとしたら"赤"の方がイメージに合っている気がする。今の私たちだったらなんでもできる。比喩じゃなく本当に。

だから、信号の"赤"だって私たちには関係ない。

物書きになりたいという夢を叶えます