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SS 花魁淵 【ブックエンド&リニューアル&急ブレーキ】三題噺

暗い道を車で飛ばす。俺は逃げたい。リニューアルしたばかりの車は調子が良いのか新品のように走る。

「俺は関係ない、俺のせいじゃない」

彼女は、俺と別れたがっていた。俺はつなぎ止めようと必死だ。いいクルマを買って見せた。中古だがメンテした車に彼女を乗せる。そんな事じゃ何も変わらない。彼女から別れの言葉。哀願して怒って激怒して俺は彼女の首をしめた。彼女の死体を乗せて俺は車を走らせる。

「別れるなんて言うから……」

死体を捨てる場所を探す。そうだ深い淵がある。旧道に入ると江戸時代に花魁おいらんが大量に死んだと噂される因縁の場所に行く。死体をここから落とせば、発覚しない。彼女を車から降ろして引きずり、ガードレールの下から蹴落とした。しばらくすると水音がした。

住んでいるマンションに戻ると、俺は泣いた。警察が来るのか?それが心配だ。彼女の持ち物が残って無いか調べた。

タンスや食器棚から彼女の持ち物を取り出す。本棚も見る。ブックエンドにはさまっている本を取り出す。日記を見つけた。俺は中身を見る。別れる理由を知りたい。

「○月×日 検査の結果で子供が作れない事が判る、彼は子供が欲しいと思う、彼のために別れた方が……」

俺はもう何も言えない。ふと気がつくと気配がある。後ろを振り向くと花魁おいらんがいた。江戸時代の花魁おいらんだ。それが何人も居る。指さすと笑い出す。俺は……俺は悪くない。

車に乗ると走る。行く場所なんてない。バックミラーで後ろの席に花魁おいらんが居るのが判る。逃げ場なんてない。俺は山道を走る。腕が勝手に動く。俺は運転してない。あの場所だ。花魁おいらんの居る場所だ。ガードレールが闇夜に浮かぶ。

急ブレーキをかける。間に合わないと思う。ゆっくりと断崖絶壁へ突っ込む。俺は笑う。花魁おいらんも笑う。きっと花魁淵おいらんぶちに居る彼女も笑っている。

終わり


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