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SS アデルと剣豪少女 #むつぎ大賞用 サイエンス・ファンタジー参加用

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別式女として私は死ぬ運命だ。某城が攻め落とされるのは必然で敵はもう階下に到着していた。私は太刀を何本か用意をして畳に突き刺す。鎧武者が部屋に入ると「女がいるぞ、城主はどこだ」と叫ぶ。袴を履いて腰に刀を差した私は長巻を使い敵の首を切り裂く。何人か倒すと血脂で切れ味が悪くなった長巻を捨てて刀に切り替える。はじめは女と油断した相手だが前後や左右からの同時攻撃で私は疲弊をした。最後は槍を使われて倒れた。城主様に少しでも恩返しは出来ただろうか。子供の頃から女であっても主君を守れと教えられた、私は虚空を掴む用に手を伸ばす。とどめの太刀が私の喉を切り裂く。

気がつくと草原の中で寝ていた。そばには傷だらけの馬車がある。「城主様は……」ゆっくりと立ち上がると私の手足が小さい事に気がついた。幼い子供のようだ。これがあの世なのだろうか?死ぬ間際を思い出す。私は地獄に来たのか?と思うと子鬼が居る。そばに近づくと威嚇をする、口が血だらけだ。どうやら人を襲って食っているらしい。「地獄の獄卒か?私はまだ閻魔にもお目通りしていないが」苦笑していると子鬼が襲ってきた。子鬼が動く前から殺気は出ていた、すぐに周囲を見回して武器を確認する。薪割り用の斧だろうか、重量はあるが重心を調整すれば力が弱くても使える。体を回転させながら私は斧を取ると、そのままぐるりと体を回す。斧の重さと回転の力で子鬼の頭が飛んだ。

何匹か殺すと男女の死体がある。無惨な状態を見て私は合掌をする。「大丈夫か、誰か居るか」別の馬車が来ると私を見つけた。「こんな小さい子が……両親はもう駄目か」私の体を持ち上げると、彼らの馬車に乗り私は助かる。養父母に預けられると私は戦士として修行をした。どうやらここは来世のようだ。輪廻転生なのだろう。町並みや食べ物は全て見たことがない目新しいもので異国に思えた。私は成長をすると魔物を退治する部隊に志願をする。国を守るために働く仕事だ、天職だと思う。

 ◇◆◇◆

「アデルまた魔物だって」冒険者のアイラが小間使いの俺を呼ぶ。「なんですかアイラ様」冒険者に負けた魔王の俺は、アイラの奴隷として頑張っているが、なにしろ人使いが荒い。「その魔物が転生者みたいで大変なのよ」なるほど普通の魔物と違い面倒なのか。「それでね 私は別の魔物退治するから あなたが一人で退治して」丸投げですかそうですか。「判りました まかせて下さい」ニコニコと笑う俺はサラリーマン時代のスキル、おべっか笑いを使う。なんだったら手をスリスリしてもいいくらいだ。「そうだ 新人さんが案内するって」アイラは手を振ると急いで部屋から出た。「私はアデル君といくわよ」共感魔法使いのサリアだ。俺はこいつは苦手だ。なにしろショタ好きなのだ、やたらと触ってくる。

サリアに「わかりました よろしくお願いします」と挨拶して、俺は所定の場所までテレポで移動をする。前線の兵舎だろうか、粗末な丸太の小屋があるだけの場所に到着する。サリアと一緒に隊長らしき人を探す。案内された部屋に入ると、一人の黒髪の少女がいる。隊長が「この娘はムラサキと言う名前だ 案内役だ」細身で短髪な彼女は黙って頭を下げる。その様子を見て転生者だと判る。この国の挨拶の仕方では無い。ムラサキが「魔物が奇妙な武器を使って戦います 勇者様の手助けが必要と判断されました」彼女は隊長を見る。ちょっと不満そうにも見えた。

彼女も相当の使い手なのは判る。転生者として特別な能力があるのだろう。彼女だけで倒せないと判断されたのかもしれない、能力不足と思われるのは辛いだろう。サリアが「まかせてください」と自信満々で答える。ちょっと不安だが俺と彼女が居ればなんとかなる。

ムラサキの指示で魔物がいる場所まで転移すると、まるで日本の城のような要塞が建てられている。「いつのまに建てたんだろ?」。俺たちが要塞に近づくと矢が飛んでくる。俺は魔法用のマクロを展開させる「スローIII」敵の攻撃への時間遅延だ。見る間に矢の勢いが無くなると地面に落ちる。要塞の城門はでかくて重そうだが丸太で組んである。サリアが「大魔神」と叫ぶと埴輪のようなでかい巨人が現出した。「また古い映画だな」俺が呆れていると、大魔神は城門を破壊した。召喚された大魔神はすぐに土塊のように崩れ落ちた。「サリア お前の召喚は短時間なのか?」サリアが舌を出しながら「あんまり長時間は使えないみたい」と笑う。

ムラサキが「私も同行してよろしいですか?」と頼んできた。俺としてはかまわない。サリアを見ると目で合図をする。「かまわないわよ 味方が多い方がいいからね」俺たちが城の中を進むと人影は見えないが攻撃は続いた。ただサリアと俺だけで問題なく城の内部まで入る事ができた。ムラサキは周り見ながら、不審げの様子だ。中に入ると鎧武者が大量にいる。しかし生物の気配がしない。「傀儡かこれは?」俺は操り人形のように多数の味方の兵隊を出せるタイプと予想した。いきなりムラサキが突っ込む。「おい まて危ない」ムラサキは太刀を抜き打ちをすると範囲にある鎧武者がぶった切られる。

まるで空間を切り裂くようなその剣筋はゲームの斬鉄剣に見える。馬に乗ったボスが敵全体を即死させる技だ。恐ろしすぎる。そのままムラサキは城の階段を昇ってしまう。「なによ手柄は独り占めって事?」魔法使いのサリアが続く。俺も昇ると敵は全て殲滅されていた。どの階も同じだ。天守閣なのだろうか一番上までいくと、ムラサキが城主?に向かって土下座をしている。「ムラサキさん? どうしましたか?」俺はゆっくりと近づこうとした。

「別式女の橘葵(たちばなあおい) 敵を殺せ……」妙に間延びをした台詞だが命令を受けるとムラサキは俺たちに太刀を向ける。太刀を水平にすると、空間を切り裂く、斬鉄剣は物理攻撃扱いだ。俺は防御マクロ展開をする。「 インデバリア」を発動させた。衝撃の到着と同時展開だが、なんとか持ちこたえる。「サリア 魔法を!」俺は自分が使える防御魔法を重層展開をする。「ジオリフレシュ ジオトーパー……」連続詠唱もムラサキの空間破壊の攻撃で魔方陣ごと破壊した上に剣の速度が上がってる、これはやばい。

「私のアデル君になにすんの!」怒号と共に呪詛展開が始まる。半球状の呪詛が広がり始めた、バインドと同じで拘束を目的にしているが、触れたらどうなるのか俺はまだ知らない。前回の対神戦闘では浄化魔法を使って、こいつは神様をぶっ殺している。「おいまだ殺すな!」俺はサリアに体当たりをするとひっくり返した、派手に転んでパンツが丸見えだ。なんで魔法少女っていつもミニスカートなんだよ。

俺は「ジオヘイスト」と唱えると自己強化優先で攻撃速度アップする。物理防御魔法のインデバリアが切れそうだ。ムラサキの攻撃はとにかく物理属性さえ制御できれば勝てる。俺は子供の状態から元の魔王の姿、金髪で長身で格好いい俺に戻った。「ジオパライズ」と麻痺系発動させた。ムラサキの攻撃速度を上回るヘイスト状態で彼女に麻痺が到達する。凝固するムラサキはゆっくりと崩れ落ちた。

俺はそのまま城主に向かって進むと男は自刃する。「誰なんだこいつ……」戦いが終わると、ムラサキから話が聞けた。「前世の城主様です」ムラサキの説明を要約すると、自分よりも速く転生した城主は、この世界で傀儡の力を得た。その力で城を作り上げて戦に備えたが、要塞に近づく者を容赦なく殺す。それでこの国の連中に目をつけられた。ムラサキは城の構造から、前世の城主と確信をして主従として仕えたかった。

「私を罰してください……」まだ若い女武者は憔悴の顔で首を差し出した。俺たちは彼女を引き取る事にした。敵として寝返ったと知られたら、元の部隊には居られない。俺たちが話をしなかったとしても、彼女は自分を許さないと言う。下手すると自害するかもしれない。俺よりも何百年前の女性の心理は俺には判らない。

「アデルどのお茶です」俺になぜか丁寧に仕えるムラサキが居る。どうも彼女は主従関係に憧れているというか、その関係性が嬉しいのだろう。清楚な彼女は俺の趣味に合致すぎて本気になりそうで怖い。「アデル 私のお茶は?」勇者のアイラは俺を呪い殺しそうな目で睨んでいる。

終わり


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