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SS 呪いを綯う(なう)娘2 窓辺の少女

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あらすじ
転校してきた碇浜かなえは、組紐が好きなだけの少女ではない。呪詛を得意とする彼女が玲子のクラスに転入する。

いつものように舞子と八重と私でお昼ご飯を食べていると、彼女が近づく。私は必要以上に緊張をしている。怪異に触れている特有の感触がある。それは何気ない道を歩いたり、川を眺めたりしても感じたりする。心が重くなり冷たくなる、人によっては体が動かない場合もある。金縛りだろう。私の場合は霊障を認識すると逃げたくなる。そこからすぐに離れたい、舞子が転校して来た時は、彼女は能面に憑依されていた。私と舞子だけが面の存在を確認していたし、舞子も私が見えている事に気がついていた。私は最初は能面をつけている彼女を遠ざけていた、どんな霊障なのか判らないし、単に憑依されているだけで、実害が無い場合もある。今回もかなえが近づくと私は遠ざけたい欲求を感じる。霊障とは違う感じもする。

「転入したばかりで、知り合いがいなくて」彼女は手にお弁当を持って立っていた。「一緒に食べましょう」舞子が明るく答える。同意を取るように私と八重を見る。「八重といいます、よろしくお願いします」元はお嬢様学校に通っていた八重は丁寧に挨拶をした。やはり挨拶とか行儀作法とか、きっちりと教えられるのかなと思う。「わ・私は玲子、よろしくね」ギクシャクと明るく答えるがすべり具合が激しい、人に馴れていないのが丸わかりだ。恥ずかしくてうつむいてしまう。「私はかなえです、よろしく」彼女は右手で髪の毛を触る。私は指に注目をした。色が違うのだ。小指だけ皮膚の色とは明らかに違う。舞子も八重もそれに気がついた。指を見ている私たちに「この指の色が変でしょ?事故で失ってしまったの」彼女は指が作り物であると教えてくれた。つけ指だと言う。義手のように人工的な指をはめている。動きはしないが目立たないようにするために装着していると言う。「不便はもう感じないけど、人から見れば変な感じでしょ」少しだけ笑う彼女は自分は不幸に耐えていると主張しているように見えた、私がひねくれているのかもしれない、作為的に感じる。

「そんな事があったのね」舞子が同情的に感じながらも明るくと応える。かなえは舞子を見ると「お友達になってくれませんか」と私たちを見ながらお願いをした。「いいわよ!今日からお友達ね」舞子が何故かテンションが上がっている、嬉しそうにお弁当を開けると、おかずの交換を始めた。

放課後になると舞子はかなえを連れて写真部に行く、入部させると言う。私はいつものように一人で家に帰る事にした。「玲子さん」八重が追いついてくる、彼女は今は居候の身だ、実家が傾いてからは舞子の家で世話になっている。普段はバイトをしてお金をためている最中だ。「あの・・かなえさんの事なんですが」私は歩みを遅くすると並んで歩いた。「言いたい事は判るわ、彼女に違和感あるのでしょ?」八重も怪異の犠牲者だ、犬神の贄(にえ)として人生を台無しにされそうだった。「彼女を助けてあげられないですか?」八重は、かなえの身を心配している。なんて良い子なんだろうと思う。

私は他人のやっかいごとに、触れたくない。「そうね、ただ彼女がどんな問題を抱えているのか話をしてくれないと判らないわ」冷たい言い方かもしれない、八重は私を見ながら「でも言いたくても言えない時もあります」と反論をする。私は考えるふりをしながら八重にどう説明しようか迷っていた。「そうね、確かに手助けできるならした方が良いと思う」私はかなえから受ける違和感は、普通の怪異とは異なるように感じている、どう説明すれば良いのか判らない。「少しずつ打ち解け合えば、秘密とかも話をしてくれるかもしれない」人となれ合いしない私が言っても真実味が無い。

八重は「そうですね、いきなりなんでも話し合えるとか無理ですよね、私も出来なかった」彼女がうなだれると八重の苦悩がどれほどのものなのか私には実感できない、贄(にえ)になる人生を我慢しようとした彼女は、他人の不幸をより実感できるのだろう、手を差し伸べたいと考えるのは自然かもしれない。「判ったわ、彼女に悩みがあるなら、少しづつ聞いてみんなで解決しましょう」と彼女に約束をする。八重は嬉しそうに私を見ると「玲子さん、ありがとう大好きです」とにこにこしながら、バイトに行くと駅前で別れた。

「うるさいわね」「あんたこそ邪魔よ」教室で怒鳴り声が響く。朝になり登校するとケンカが始まっていた。普段は仲が良いグループのメンバー同士がつかみ合いをしている、誰かが教室から出て行く。先生を呼びに行くのだろうか。「何かあったの?」私は机に座っている舞子に話かけた。「おはようございます、玲子さん」舞子はにこやかに笑って挨拶をする。「なに?さん付けなの?」私は舞子に軽くタッチをすると「やめてください」と私の手を振り払う。ぎょっとした。舞子は明らかに不快な表情だ、それは冗談を言ってるわけでもない、相手への不信感からの反応だ。普通ならここで舞子を怒らせたとか単純な発想をするだろうが、ここまで激変する状況はすぐには作れない、人為的に変えさせられたと直感をする。

「ごめんなさい、舞子さん」私は同調した。舞子はすぐに、にこやかに笑うと「いえ、私もいきなり触られたのでびっくりしただけです」と朝の授業の支度をしている。八重が近づいてきた、「玲子さん後でお話が」とだけ言うと座席に戻る。

まだ騒いでいる生徒同士は髪の毛を引っ張りはじめていた。「あんたなんかブスの癖に」「あんたパパ活でもしてるんでしょ」騒ぎが大きくなる、止めに入ろうか迷っている時に、一方がカッターナイフを出した。教室で悲鳴があがる。男子生徒も黙って見てられないのか彼女達の腕を取ろうとしたが、信じられない事に腕をふりはらうと、相手の顔にカッターで切りつけた。人間は攻撃されれば防御をするのが自然だ、腕で顔をかばうとそこを切り裂いた。痛みは後から来る、切りつけられた痛みよりも怒りが優先された、爪を立てて切りつけた相手の顔をかきむしる、「ああああっ」と声にならないような叫び声で教室がパニックになる。体の大きい男子生徒が数人がかりで押さえ込むと腕が折れてもかまわないくらいに暴れ出した。「おい速く先生を」男子生徒が叫ぶ。数人の先生が到着すると被害者も加害者も外に連れ出された。担任が「しばらく自習、席を立たないで座ってて」と指示すると廊下を走って行く。あまりの惨状に半数のクラスメイトはいなくなり、半数は呆然と立っていた。

「このクラスはいつもこんな感じですか?」かなえが近づいてくる。私はどう対応するか焦る、自分が気がついていると相手が知れば何かをしてくる事も考えられた。「わからないわ、こんな事は初めてで」と両手で顔を隠した、非力で弱いクラスメイトのフリをする。こんな事でだませるかは疑問だが、相手も万能ではないだろう。「まぁそうなんですか、玲子さんもそんなに怖がらないで」私の肩に触れる。私はイヤイヤするように自然にふりほどく、触れられるのは危険だ。「わ・わたしちょっと気分が」それだけ言うと教室を出て行く。かなえが私を見ている事は判る。今は教室に戻るのは危険に思える、武雄に相談した方が良さそうだ。

続く


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