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SS 廃線の踏切【お題提供枠】

廃線の踏切がある。もちろん電車が通るわけもないが、つい左右を見てしまう。子供の頃は線路に入って遊んでいた。何かあるわけもない。ただ踏切だけは違う。近くの公園で遊んでいるとカンカンと音がする。

「お化け踏切」
子供達は怖がる。大きな音はしない。小さく微かに音がするように聞こえる。聞いた子供が騒ぐと、公園から人が居なくなる。

そんな経験していた俺は踏切を見ると心が痛い。幼なじみが死んでいる。詳細は知らない。自殺だ。十四歳の時に彼女は踏切に入り死んだ。廃線間際だった。

「よぉ義男か」
松尾が挨拶する。悪かった友達だ、今は土建屋だ。地元で働いている。散々金を要求されて踏み倒された。暴力はないが押しが強い。抵抗できない。父親がまた素行が悪い男だったのを思い出す。近所の子供を躾で殴っていた。

「飲もうぜ」
どうせ飲み代を払う気は無い、何回もそれで金を出した。
「いや急ぐんだよ」
振り払うように俺は自宅に向かう。

「戻ったの?」
母親が仏壇で拝んでいる。父親が死んで一周忌だ。俺も仏壇に座ると線香を焚いた。ひさしぶりの自宅で、だらだらしていると親友が来る。

「松尾を見なかったか?」
「さっき会ったぞ?」
踏切で会った事を話すと、彼が行方不明だと言う。俺は笑って大人が数時間くらい居場所がわからなくても問題無いと軽口を叩く。

「あいつの昔の友達も消えているんだ…」
妙な話をする。中学当時の仲間が全員行方不明だと教えてくれた。俺はあまり気にしない。連絡を取らなくなる同級生は珍しくない。

俺は夜中に酒を買いに、コンビニへ行く。踏切だ。彼女の死んだ場所だ。俺は手を合わせる。ふと顔を上げると少女が向こう側に居る。どこかでカンカンと音が聞こえる。死んだ彼女は笑っていた。電車が来る。一両しかない電車が猛烈な勢いで線路内を走ってきた。

一瞬だけ、窓に張り付いている松尾が見えた。それだけだ。走り去る電車を見送ると踏切には誰も居ない。

俺は黙って踏切を渡る。

終わり。

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※放送などでお題を貰って書く枠です。

https://www.amazon.co.jp/dp/B0BHSGH55H


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