見出し画像

ご免侍 五章 狸の恩返し(十三話/二十五話)

設定 第一章  第二章 第三章 第四章 第五章
前話 次話

あらすじ 
 ご免侍の一馬かずまは、琴音ことねを助ける。大烏おおがらす城に連れてゆく約束をした。岡っ引きのドブ板平助は、まむし和尚から、一馬を殺せと命じられたが、平助は悩みながらも女房の事を心配する。


十三

「平助、元気にしていたか」
「へい、お気づかいありがとうございます」

 平助は、左衛門さえもんの事を、命の恩人と思っている。死罪にされるはずが見逃して仕事までくれた。

(この人には頭は上がらねぇ)

「一馬が帰って来ないんだよ」

 露命月華ろめいげっかが、藤原左衛門ふじわらさえもんに訴える。月華げっかを横目でじろりと見ると平助に説明を求めた。

 左衛門さえもんことのあらましを話し終えると、しばらく黙って考え事をしている。

「一馬様は、腕も立つしどこかの宿で女と一緒かも」
「……そうだな、平助、伊土屋いづちを調べろ」
廻船問屋かいせんどんやですか」

 このあたりでは大きな店だが、目立つような船問屋ふなどんやではない。

「その煙草入れの家紋は、かなり特殊だ。西国にある藩のものだろう」
「なるほど、そこと交易をしているんですね」

 よく見れば十字紋に見えるが、斜めで重なっている×の字だが、描かれている文様は金棒に見えた。棒の横に突起がある。

月華げっか
「なによ」

 左衛門さえもん月華げっかに手招きをすると、二階に上がれと指さした。月華げっかは、素直に二階へ行く。

「平助」
「はい、なんでしょ」
「一馬はどこかに、つかまっているかもしれん、さぐれ」

 ふところに手を入れて、五両ばかり平助に手渡す。それをありがたくいただきながら、平助は急いで店を出た。

(やぁ、やはり左衛門さえもん様は気前がいい)

 これで女房に新しい着物でも買ってやるかと笑いを隠さずに廻船問屋かいせんどんやに向かうと後ろから声をかけられた。

「平助、仕事だ」

 後ろをふりむくと一心和尚が立っている。通称蝮和尚まむしおしょうは、気配も感情も何も感じられない不気味な雰囲気で平助を見つめていた。

#ご免侍
#時代劇
#狸の恩返し
#小説


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?