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姉妹 (05/15)【橙狐は見た】

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あらすじ
 氷室愛優ひむろあゆは、玲子の妹で憑依ひょうい体質を持つ。危険な式神を二体を封印した彼女を橙狐だいだいきつねが見守る。深大寺じんだいじには、他の子供と違う暗い影がある。

愛優あゆ? 大丈夫? 」
 姉の氷室玲子ひむろれいこが、愛優あゆの額に触れている。少し疲れている愛優あゆは、姉の手の冷たさが気持ち良さそうだ。姉は主に塩で霊障れいしょうを退治するパワー系で、あまり細かな霊現象には対応できない。玲子のツガイの相手になる天之宮武雄あまのみやたけおなら力は強いが、姉はまだ未熟に見えた。今日は深大寺じんだいじの件で、姉に相談している。

「うーん、深大寺じんだいじ君が、なんか違うの……」
 年齢の割に愛優あゆは言葉少なめで、幼く感じる。決してぼんやりとした娘ではないのだが、他人との関係を積極的に持たないせいか語彙ごいが少ない。姉の玲子は愛優あゆの説明が、あいまい過ぎて判らない、私が助け船を出す。

「転校生が成熟しているというか、大人みたいなんです」
「頭がいいの? 」
「中身が違うと言うか……」

 私も人の事は言えない、具体的に何が異なるのか説明できない事に気がつく。深大寺じんだいじは、見た目は小学生だが粗野そやな一面もある。担任をババァと呼ぶ割に、クラスメイトには配慮をしている。

「私からも神社の美成みなりさんに聞いてみるわ、最近は子供の家出が増えてるみたいで変なの」
 玲子れいこは腕組みして考え事をしている。こうやって見るとボーイッシュで男の子にも見えた。彼女は私が顕現けんげんを維持できる油揚あぶらあげを供物くもつとして与えてくれる。私は玲子れいこのおかげで体を保てるのも、いつも彼女がバイトしているからだ。愛優あゆが姉の腰に抱きつく。

「お姉ちゃん、遠足についてきて」
「親同伴遠足とかあるの? 」

 姉に甘える愛優あゆは、本当に無邪気で信頼しきっていた。姉妹はこんなに仲良しなのは普通なのかな? と少しだけうらやましく感じる。私には親も姉妹も居ない。人工的に作られた霊魂だ。それなのに私は人間のように考えて、人間のように感じる。

「あんたをもっと大人にできれば安心かも? 」
 玲子れいこは、私の頭もなでる。人間には見えないが霊視れいしできる人からすれば、存在している生き物と同じだ。私は玲子れいこを姉のように感じている自分に気がつく。

玲子れいこさんが、今の三倍くらい供物くもつをくれれば大人になりますよ」
 私が生意気な事を言う。玲子れいこは、しかめ面すると私の頭をわしづかみにして力を入れる、別に痛くはないけど痛いふりをして見せると、愛優あゆが姉の腕をつかんで引っぱる。

「イジメはダメ、かわいそうでしょ! 」
 これが人間の反応だ、人でも物でも妖怪でも助けようとする。私は使役しえきされている式神しきがみだが、愛優あゆからすれば同じ人に見えていた。

橙狐


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