世界の終わりに願う事(12/16)【窓辺の少女_かなえの消える日】
あらすじ
隕石による世界の破滅は現実となる。腰に居る妖怪のオオトカゲと話す事ができた、玲子は一時的に無敵の力を得られるが、トカゲの力がなくなれば普通の少女に戻ると告げられた。隕石落下の脅威により、地霊達が大量に出現をして霊障で町中の人間が動けなくなる。
「玲子 ?…………武雄君も居るのね」
舞子の玄関先には荷物がある、彼女は家族と一緒に待避所への出発の準備が終わっている。舞子は、私と武雄を応接間に招き入れた。お金持ちの舞子の応接間は居心地が良い、清潔で素敵な家。舞子が私達に座るようにすすめてから、彼女は刀を持ってくると言い残して、応接間を出て行く。
「刀の事を教えてくれ」
武雄が知らない刀の話をする。日本武尊の大蛇退治だ。その時に壊れた剣から作られたのが、大蛇丸だ、舞子の蔵の中にある神具の一つだと教える。
「それでかなえを……まさか……」
「そんな事はしないわ、ただ彼女の力を無力化できるかもしれない」
私が刀を使えるわけもない。一種のお守りとして持っていれば、かなえからの呪縛にも抵抗できると予想していた。舞子が静かに扉の戸を叩く。
「どうぞ」
私が返事をするとドアが静かに開いた。舞子が白い布に包まれた刀を持って部屋に入る。
「これが大蛇丸です」
予想をしていたものとは違う。小刀に見えた。時代劇で見るような女性が所持できる短めの刀。懐刀よりも長いが、チャンバラでみるような日本刀ではない。
「これで、かなえを倒して」
舞子が私たちを見る。
「かなえを倒せば隕石を止められるの?」
私は舞子の冷静な目を見る。世界を救う方法は大蛇丸を使う事と信じている。私はどう使うかは、決めていないが舞子に手を差し出した。
「約束よ、武雄君を私にください」
武雄が息を飲む、私は差し出した手が震える。力を失ったように私を手を降ろす。今この時に、恋人が欲しいと願う友達。それも自然に感じる、私の思考の流れが止まる。武雄が口を開いた。
「舞子、本当にそれでいいのか? 」
舞子は武雄を見つめる、何も言わない。武雄が拒む事すら予想していない、彼女は世界が終わる事も、恋人を得る事も全ての運命が決まっている、と信じたかった。
ぽろぽろと涙を流す舞子は、嗚咽を漏らす。
「死にたくない……みんなともっと一緒に……」
大蛇丸(おろちまる)を胸に抱きしめて泣く舞子を、私は責められない。みんなが幸せだった学校の毎日、かなえを倒せば戻れると信じたい。絶望的な世界で唯一願ったのは、武雄だった。少女の願いは成就できない事も理解している。
「舞子、かなえを止めて見せる、本当よ」
かなえが何をしたいのかは判らない、もし本当に世界と一緒に、かなえ本人も消えたいのならば全力で止める、かなえの命を絶っても止めなくてはいけない。
舞子は、うなずくと刀を私に向けて差し出し丁寧に彼女から刀を受け取る。私が立ち上がると同時に舞子は私のそば立つと、私の体に腕を回す。
「お願い……みんなを助けて」
私の肩に顔をつけて泣く舞子の髪の毛をなでた。妹を思い出す。
「大丈夫よ、怖くない、私がなんとかするから安心して」
確証も保障もない、でも私は自分の万能感に酔っていた。なんでもできる、みんなを助けられる。きっと助ける。
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