SS 冥婚【公用語&男女平等&石】三題話枠
「公用語は北京語だけど、日本語や英語も通じるの」
妻は中国の生まれだ。里帰りで実家に戻りたいので、一緒に来てくれと頼まれた。有給を使い大陸へ旅行に行く。
「今でも男女平等じゃないのよ……」
妻は愚痴をこぼす、それは日本でも変わらない。平等と主張する世界には平等が無い。その皮肉に僕は苦笑いをする。
「干得好」
親戚は妻をもてなすが日本人の私には抵抗がまだある。北粛省の山深いこの地域は、古い風習が残っていて日本人は好まれない。覚悟をしていたので平気だ、それでも敵意は向けられず居心地は悪く無い。
「妹が居ないの……」
朝になると妻が動揺している。行方不明で家出の理由も判らない、警察に連絡すると犯人はすぐに見つかる。隣家の男が妻の妹を殺していた。
遺体を売った、白状してすぐ死体が見つかる。
「掟なんだ……」
冥婚は古い風習で、未婚の男性が死んだ場合に、女性の死体と一緒に葬る風習だ。そんな生贄じみたことは廃れている、少し前から人形を使っていた。しかし経済が発展して金回りがよくなると、人を使いたいと望むようになる。
「妹が好きだった男性が死んで、彼の家族が妹の死体が欲しいって、ヒドイ……」
妻は泣いていた、そして怒りがある。犯人は昔ながらの方法で処刑する事に決まる。穴を掘って犯人を生き埋めにする。残虐な刑罰だ。警察は黙認した、猟奇的な事件を中央に知られると自分たちの監督不行き届きで叱責がある。
「これを持って」
妻から石を渡される。にぎりこぶし大の石を穴の中に放り投げた。縦穴の中を見る事は自分に出来ない。親戚一同で犯人が埋まるまで石を入れ続けた。
翌日には妻と一緒に日本に帰る、縦穴の中の犯人はすぐに死んだのか? それだけが気になる。家族は復讐に喜んでいた、私刑を歓迎している、残された家族が悲しみ続けるよりも、この方法が正しいような気がする。
※注意:北粛省は実在はしません。
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