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SS 雨だ。きっとあの子も、学校に来る。 #ストーリーの種

雨だ。きっとあの子も、学校に来る。古い分校はもう誰も居ない。廃校には人影は無い。「きっと来るさ」俺はスマホを見て時間を確かめた。

俺の郷里は山奥で、里の小学校に通えなかった。分校の子供達は年齢もばらばらで良い意味で家族の感じに似ている。弟や妹と勉強をしているのと同じ。その中で、大人しい子供が居た。その子はかわいらしい女の子で、いつも一人で遊んでいるタイプだった。

どんな集団でもイジメは発生する、その時は俺は一番の年長者だった。佐代さよはかわいらしいからこそ、いじられるし、いじめられる。ありがちな話に思える。でも当人は、どれほど苦しんでいたのか俺には判らなかった。

「おいやめとけ」俺は佐代が叩かれると止めた。でも常に監視もできない。そのうちに佐代が抵抗しないから、いじられると感じるようになる。制止するのも頻度が減ってしまった。

「佐代ちゃんが側溝で倒れている」事故だと思っていた。雨の日で増水した側溝で倒れていた、白いワンピースの姿で濡れていた。村で葬式が終わると、異変は起きる。イジメていた子が死ぬのだ。雨の日になると事故で死ぬ。側溝で死ぬ時もあるし、池で溺れる時もある。風呂場で死んだ子供も居た。噂が広がると佐代の家族は引っ越した。子供が次々死ぬので村から逃げるように引っ越す家族は多かった。「佐代の祟り……」だれもが信じた。

俺も大都市に引っ越す事になる。「ひさしぶり」大学に通っていると分校に居た下級生の女の子が挨拶をした。「なんだこっちに来てたのか?」懐かしくて酒を飲んでホテルに入った。

彼女は「…佐代の事を覚えている?」唐突に話をする。彼女は少し怖がっている。「残ってるのは私とあなただけなの……」知っている限りの少ない同級生は残っていないと言う。

「私はいじめてなかった……でも怖い」俺に抱きつく。「事故じゃないのか?」俺は長年の疑問を口にした。「違うわ……側溝に落としてみんなで踏んでたの」殺人なのは予想はしていたが、殺し方が酷すぎた。「私は見てただけ…」彼女も現場に居た。

小雨なのか空が暗い朝だ。ベッドの隣に彼女は居ない。俺はホテルを出ると近くで人が騒いでいる。「おい女が浮かんでるぞ」古くからある生活用水源の川に彼女は浮かんでいた。俺は欄干から下を見る。小さな影が見えた気がする。

俺は分校に向かう。どれほどの憎しみがあるのか予想できない。俺は寺に頼んで数珠を貰ってくる。雨が降り出すと傘をさして側溝に近寄る。雨の暗がりの中に、佐代が居た。うつむいている。昔のままの姿だ。白いワンピースは濡れていて寒そうに見える。

「佐代 ごねんな」俺は数珠をまいた手で佐代の頭をなでる。うつむいた彼女は顔を上げた。嬉しそうに笑う佐代は、かわいらしい。両手で俺の手首を掴むと「あなたが最後」

終わり


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