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雑多な怪談の話

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#爪毛の挑戦状

SS 人魚【#水槽のうんこ】 #爪毛の挑戦状

 地下の水槽は汚れてやすいので浄化装置の稼働だけではなく塩素の錠剤を入れる。白い錠剤を入れるとぶくぶくと泡を立てた。うんこをするので浄化のためだ。 「ちょっと苦しいけど我慢してくれよ」  人魚が顔を出した口をパクパクさせている。この施設では彼女たちを実験のために捕獲して閉じ込めていた。人魚が顔を出して俺に話しかける。 「オサカナアル?」 「あるよ」  バケツから鯖をまるごと投げると手で受け取って食べ始めた。人の言葉を理解して真似る事ができる人魚は小学生くらいの知能はあ

SS マッチおじいちゃん #爪毛の挑戦状

 小雪がちらつく夜の街角で、スカート姿のおじいちゃんがマッチを売っている。 「マッジいらんがね」  野太い声で、歩いている市民に声をかける。もちろん大体の人は、驚いた顔をすると逃げてしまう。老人の頭がイカレていると思われていた。 「マッチくれ……」 「金貨一枚だ」  ぼったくりのような値段でも、太った客は興奮したように革袋から金を出して渡す。 「こっちだ」 「ああ……早くしてくれよ」  暗く冷たい裏路地に、二人で入るとマッチ箱を客に渡す。 「使い切るまでだ」 「

SS 梱包された劇 #爪毛の挑戦状

 深夜になると劇が始まる。  男の前で少女が手を広げて頭をさげる。ゆるく緩慢な手足の運びは糸で操られているように、ぎこちない。 「もういい……」  男は手をふると少女を下がらせた。次の少女が踊りを始めるが男は誰も選ばない。 「おりませんか」 「舞台に出せる子はいないよ」 「またきてください」  場末の酒場で少女を踊らせて一流になりそうな女優を探しているが、そうそう見つからない。男はあきらめたように自分の部屋に戻ると、箱が届いていた。 「郵便か……」  送り主は、

SS 黒い動物園 #爪毛の挑戦状

 黒い動物園と金属プレートに刻印されているが、一般家庭の表札だ。 「黒い動物園さんのお宅?」  不動産の査定を頼まれて来たが一戸建ての六十平米くらいの家は静まりかえっていた。 「家主が死んで親戚が売りたいらしい」と上役から頼まれた。事故物件のような嫌な仕事がよく来る。今回も同じだろう。  鍵を開けて家に入ると電気は止まっているので暗い。LED式の懐中電灯で中を照らしながら、進むとドアの前にもプレートがある。 「キリン」 ドアを開けると首が伸びきった男が椅子に座っている

SS ベランダ霊 #爪毛の挑戦状

 ベランダに子供の霊が居た、今は居ない。 「事故物件なので安いですよ」 「はぁ……お化けでも出るんですか」  営業マンは笑顔のままで首を横にふる。お化けなんていません、一家心中した部屋なので安いんです。3LDKで家賃は1LDK並みだ。広い部屋が欲しかったのは、恋人が出来たからだ。 「きれいだし、ここでいいわ」  OLで仕事場に近い彼女は同棲するための部屋を探していた。これだけ広ければプライバシーは守れる、部屋をひとつずつ使っても余る。即決した。  すくない荷物を設置

SS 水槽の内側 #爪毛の挑戦状

「ギヤマンの水槽でございます」  新之丞が平たい透明な板で挟まれた水槽を見る。ギヤマンはガラスの別称で板ガラスは作るのが難しい。水が入った水槽は向こうが透けて見える。その奇妙さに新之丞は、底知れぬ興味を持つ。  はじめはメダカを入れて楽しむが、そう長生きはしないで死んでしまう。次がデメキン、ランチュウ、リュウキンと魚を入れて楽しむ。美しく赤い色の魚は十分に彼を満足させた。幼年期までは問題は無かった。 xxx 「水槽は出来そうか? 」 「大きさの問題もあるので時間がかかり

SS 庭を食べる #爪毛の挑戦状

 庭の写真を撮ると違和感を感じた、昔取った写真を持ち出して夫に見せる。デジタル写真とアナログ写真を見せると怪訝そうに見比べる。 「この写真なんだけど……」 「うちの庭だ、狭いけど」  自宅の庭の周囲はビルの壁しか見えない。周囲は普通の一軒家で。今は取り壊されてマンションが建っている。最後に庭の周囲がすべてマンションになる。日当たりが悪すぎる。 「なんか妙なの、狭く感じて……」 「そりゃそうだ、十階建てのビルだからな」    頭では理解をしていても違和感は消えなかった。

SS 夢の危機一髪 #爪毛の挑戦状

 夢は支離滅裂でつながりが無い、まるでダイスを転がすように流れが変わる。いつものように追跡夢を見る。  夢の中で誰かに追われている自分は、いつしか過去に住んでいた郷里の街角を歩いていた、そこで眼が覚める。夢の危機一髪は常に回避される。危険な夢を見ると反射的に起きられた。 「なにか最近は眠りが浅くて……」 「薬でも飲むとか? 」  意味がなさそうな書類をEXCELで作りながら、同僚にグチをこぼす。早く寝ても寝たりない。 「夢が多くない? 」  同僚が笑いながら私にチラシ

SS 空飛ぶ先生 #爪毛の挑戦状

 今日は一時限目から噂の先生の授業だ。教科書を用意していると、私の前の席にサリーが座りくるりと振り向く。ハイスクールの教室は、いつものように騒がしい。 「――あの先生は空を飛ぶんだって」  サリーが振り向きながらひそひそと噂話をする。教壇の四十歳くらいの女性教師が小さな声で教科書を読んでいる、彼女は実際の年齢よりも老けて見えるのは長い髪に白髪が混じっているせいだ。先生が森の上をホウキで空を飛んでいるところを見た、魔女だとサリーがつぶやく。私は黙って聞いていると鋭い声が飛んで

SS 朝のランキング #爪毛の挑戦状

「朝のランキングのニュースです」  スマホのアプリからニュースが流れる。私はランキングを見るのは楽しい。 「今日の一位は、僕の失敗です」  個人が自分の情報を切り売りする時代だ。作家だって同じだ、自分が感動した事や悲しいことを表現する。共感を得られると作品が売れる。  今の時代は、個人とプロの境目が薄い。みんなが【好き】を押してくれれば素人でも十分に稼げる。ランキングの一位の人は、自転車で転んで前歯を折った、前歯が欠けた写真と壊れた自転車の写真が掲載された。 「五百万ス

SS 食べる焚火 #爪毛の挑戦状

 月夜の晩に商人が街道を急ぐ。満月の夜は歩くのに不便はない。夜通し歩けば関所に到着する筈だ。明日には江戸の地を踏めると思うが、疲れが出ていたので小休止しようと場所を探す。  焚火がパチパチと明るい。商人がゆっくりと近づく。月夜の岩場に誰も居ない焚火がある。 「山賊でも居そうだな……」  秋も深く寒いが風は吹いていない。慎重に近づいて焚火に手をかざす。暖かい炎に一息つく。背負っていた荷物を降ろすと立ったまま焚火を見る。ごうごうと燃える炎は勢いがある。いつまでも見ていられる

SS ふりかえると電車 #爪毛の挑戦状

 男の子が線路を歩く、親に怒られて線路をとぼとぼと歩く。小さな事で叱られた。長い土手を歩いて行くと左手に線路がある。土手をよじ登り線路内に立ち入ると、どこまでも伸びる錆びた線路を見つめた。そのレールから音がする。ごとんごとんと音がする。廃線の筈なのに列車が走ってくる。男の子は怖々とつぶやく。 「お化け電車?」  この地域には噂の怪談がある。廃線に電車が走ってきて子供をさらう。その話を思い出すと彼は怖くなり土手から降りようと線路から外れて歩くが……進めない。壁だ。見えない壁が

SS 動かない鬼 #爪毛の挑戦状

「悪い鬼が居るぞ」 父は逃げた。侍達が追いかける。小石を投げつけられる。当たれば痛いが黙って逃げる。それが掟だ。追儺の儀式は大事だ。災いを避けるために必須な行事。自分の家は代々その役割を担う。 鬼の面をつけて赤い着物で逃げる。宮司が太鼓を叩き、巫女の踊りが終わると、『鬼やらい人』が逃げる。逃げる後ろから石つぶてを投げる。普通は当てないのだが、中には当てる侍も居る。散々に嬲られた父親は家に戻る。扶持米も少ない家で周囲から疎まれているが大事なお役目だ。 金が足りないと内職する

SS 二次会実家 #爪毛の挑戦状

「二次会実家でやろうぜ」 薄い知り合いと騒いでから俺は周囲を誘う。俺は調子に乗っていた。酒で冷静な判断が出来ない。知り合い達と美奈を連れて行く。実家には家族は居ない。両親は他界した。 知り合いを居間に通すと冷蔵庫からビールを出す。俺は酔いが冷め始めていた。 「明日も会社だから、ほどほどにしないと……」 美奈が近づく。恋人だった事もある。今は他人。 「ねぇ?大丈夫?」 内心は心配していた。 「へ、平気さ……」 美奈がビールを持って居間に行く。俺は早くみんなを酔わせたかった。