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SS 水槽の内側 #爪毛の挑戦状

「ギヤマンの水槽でございます」
 新之丞しんのじょうが平たい透明な板で挟まれた水槽を見る。ギヤマンはガラスの別称で板ガラスは作るのが難しい。水が入った水槽は向こうが透けて見える。その奇妙さに新之丞しんのじょうは、底知れぬ興味を持つ。

 はじめはメダカを入れて楽しむが、そう長生きはしないで死んでしまう。次がデメキン、ランチュウ、リュウキンと魚を入れて楽しむ。美しく赤い色の魚は十分に彼を満足させた。幼年期までは問題は無かった。

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「水槽は出来そうか? 」
「大きさの問題もあるので時間がかかります。」

 城主となる新之丞しんのじょうの唯一の楽しみが水槽だった。今は魚は入れない、女を入れた。

 赤い湯文字を着用させて芸者を水槽の中に入れる。彼は人魚を欲したが生きた人魚は見つけられない。代用として人を人魚として見立てるが、そう長い間は水の中では生きられない、体温が下がってしまう。海女を使うがそれでも魚のようには舞えない。城主は不満そうに命じる。

「もっと長く水の中で泳げ」

 もちろん無理をして死んでしまう女が増える。重臣達は悩んだ結果、占いで吉凶を判断する、当時の卜占は知恵を貸して武家に仕え重要な判断をしていた。

「易で占いました、妙案があります」

 水槽を二重にする、内側は水を抜いて外側に水を張る。内側の中から見れば一番外側は水の中に見える。そこで芸者が踊れば、水で泳ぐ女達の出来上がりだ。城の最下層、水堀の場所に設置した。

「こうすればいくらでも水を供給できます」

 巨大な格子の木組みを作りガラスを入れる。水を満たして、新之丞しんのじょうが中に入る。周囲が水なので冷えるが、蝋燭をつけて芸者達を待つ。しばらくするとゆらりゆらりと魚が泳いでいる。堀の水を引いているので魚が泳いでいる。

「おお、これなら錦鯉を放そう」

 今度は女が流れてきた、手をふりながら水槽の中を自在に泳ぐ、新之丞しんのじょうは、嬉しそうに酒を飲む、だが女が増えてきた。水槽のガラスを手で叩く、水槽の内側に向けてドンドンと叩くと破裂するように割れて水がなだれ込む、家来達が助け出そうとする頃には、内側の水槽は水で満ちていた。

 家来達が水槽の内側を見ると、堀の鯉と新之丞しんのじょうが浮かんでいる。鯉は城主の体をくわえながら死んでいた……

 家臣がつぶやく
「死んだ芸者をほりに落としたたたりか」


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