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雑多な怪談の話

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雑多な怪談話を入れます 写真は https://www.pakutaso.com/20170603152post-11830.html を利用しています
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#ホラー

SS 黒い動物園 #爪毛の挑戦状

 黒い動物園と金属プレートに刻印されているが、一般家庭の表札だ。 「黒い動物園さんのお宅?」  不動産の査定を頼まれて来たが一戸建ての六十平米くらいの家は静まりかえっていた。 「家主が死んで親戚が売りたいらしい」と上役から頼まれた。事故物件のような嫌な仕事がよく来る。今回も同じだろう。  鍵を開けて家に入ると電気は止まっているので暗い。LED式の懐中電灯で中を照らしながら、進むとドアの前にもプレートがある。 「キリン」 ドアを開けると首が伸びきった男が椅子に座っている

SS 夢の危機一髪 #爪毛の挑戦状

 夢は支離滅裂でつながりが無い、まるでダイスを転がすように流れが変わる。いつものように追跡夢を見る。  夢の中で誰かに追われている自分は、いつしか過去に住んでいた郷里の街角を歩いていた、そこで眼が覚める。夢の危機一髪は常に回避される。危険な夢を見ると反射的に起きられた。 「なにか最近は眠りが浅くて……」 「薬でも飲むとか? 」  意味がなさそうな書類をEXCELで作りながら、同僚にグチをこぼす。早く寝ても寝たりない。 「夢が多くない? 」  同僚が笑いながら私にチラシ

SS 私の日 #シロクマ文芸部

※読むと不快になる可能性があります、苦手な方は読み飛ばしてください。  私の日は憂鬱だ、私ばかり損している気がする。ベッドから起き上がると学校の支度をする。 「ごめんね」 「当番だから仕方が無いよ」  判ってるって、そうつぶやくと一階に降りる。母が私の顔を無表情で見ているが気にしない、いつもの事だ。自分の娘はあんたじゃない、そんな言葉がテレパシーのように伝わる。以心伝心で、人の考えなんてすぐ判る。私は「おはよう」と母に笑う。 「テストね、頑張りなさい」  中間試験が始

SS 空飛ぶ先生 #爪毛の挑戦状

 今日は一時限目から噂の先生の授業だ。教科書を用意していると、私の前の席にサリーが座りくるりと振り向く。ハイスクールの教室は、いつものように騒がしい。 「――あの先生は空を飛ぶんだって」  サリーが振り向きながらひそひそと噂話をする。教壇の四十歳くらいの女性教師が小さな声で教科書を読んでいる、彼女は実際の年齢よりも老けて見えるのは長い髪に白髪が混じっているせいだ。先生が森の上をホウキで空を飛んでいるところを見た、魔女だとサリーがつぶやく。私は黙って聞いていると鋭い声が飛んで

SS 冥婚【公用語&男女平等&石】三題話枠

「公用語は北京語だけど、日本語や英語も通じるの」  妻は中国の生まれだ。里帰りで実家に戻りたいので、一緒に来てくれと頼まれた。有給を使い大陸へ旅行に行く。 「今でも男女平等じゃないのよ……」  妻は愚痴をこぼす、それは日本でも変わらない。平等と主張する世界には平等が無い。その皮肉に僕は苦笑いをする。 「干得好」  親戚は妻をもてなすが日本人の私には抵抗がまだある。北粛省の山深いこの地域は、古い風習が残っていて日本人は好まれない。覚悟をしていたので平気だ、それでも敵意は向け

SS 奇妙な部屋 【#青ブラ文学部】極めて陰惨な表現があります。苦手な人は読まないでください。

 静寂を破る放屁の音が部屋中に響き渡った。審問官は誰も動じない、今は水攻めの時間だ、しばらくすると大量の水が排出される筈だ。彼女は木製の三角錐の上に吊されて、両手首を鉄輪で縛られた状態だ。 「魔女なんだろ? 白状しろ」  煉瓦の壁に吊された女や男が虚ろな眼で拷問を眺めている。美しい少女は漏斗から流される水にむせる。 「もっとゆっくり流せ、窒息するぞ」  腹は臨月のように膨れ上がり人が排泄する場所からは水が漏れ始めた。ゴボゴボと腹部からの音が聞こえる、限界だ。堰を切ったよう

SS 電子のコトリバコ 【ホラー】

※悪趣味な怪談です、気分を害する場合があります。耐性の無い人は以下を読まないでください。他の怪談のネタバレも含むため注意してください。  コトリバコは有名だ。所有しているだけで呪われて不幸になる、小さな箱の中身は、水子を封印する、すぐに手放さないと死者が出る。 「新調したPCは調子いいな」  グラボを積んでAIを構築した。最新のCPUとグラボなので100万近い。元は取れると判断する。小説を書かせて儲けたい。ソフトの名前はコトリバコ。外人が作り上げた大規模言語モデル(LLM

SS どこもお遍路 #毎週ショートショートnoteの応募用

「闇遍路って怖いよ」  お遍路は修行。神社仏閣を回り功徳を得る。闇遍路は逆だ、呪い打ちと呼ばれる恐ろしい儀式。凶悪な犯罪が行われた場所や呪われた塚を巡る。 「あいつは許さない! 」  怨嗟と呪いの言葉で恋人の裏切りを罵る。心変わりは仕方がない、二股も許そう、だが私が別れようとすると引き留めた、土下座をして泣いた。私をいつまでも縛る。貴重な時間が失われた、許さない。私はネットで調べた呪いの方法を試す。  その日から休日に闇遍路の場所を探す。グーグルマップで場所を特定して、そ

SS 朝なのに、夕暮れの匂いがした。#ストーリーの種

警告:グロテスクな表現がありますので、苦手な方は読まないでください。  外は暗い、雨が降る外は朝なのに、夕暮れの匂いがした。雷が鳴ると異臭が漂う。轟々と雨が降り続く、小屋の中も薄暗いままだ。昨日の獲物は足を伸ばして動かない。 「かなり暴れたな、傷だらけだ」  男は腕を見る。赤くミミズ腫れが出来ていた。男は野盗で小屋を見つけて休むことにする。彼は押し込み強盗だ。家人がいれば殺して金目の物を盗るが、山奥の小屋にあるわけもない。 「小娘は死んだか? 」  小屋には一人の娘し

SS 文芸サークル【数え歌&過半数&学生証】三題話枠

「一つとや 一夜明ければ 誰も居ぬ 誰も居ぬ」 「おいやめろ 辛気くさい…………」  同窓会で集まって飲むの六年ぶりだろうか、文芸仲間で小説を書くサークルに属していた俺は、会社の仕事がいそがしくモノを書く事も忘れていた。  数え歌を改変して歌うのは怪談が好きな、Sだ。彼はやたらと怪奇物を好んで書いていた。誰もが彼を変人として扱ったが、小説仲間はみなが変人みたいなものだ。 「Mは来ないのか? 」  女性のMはサークルの紅一点で、童話が好きな彼女は子供用の作品を量産していた

SS 古いガソリンスタンド 三題話【ガソリンスタンド&パッケージ&衆議院】

 仕事帰りに深夜の田舎道を車で走る。衆議院の先生の秘書として働く俺は、速く帰りたかったが、ガソリンが足りない。給油をするためにガソリンスタンドの場所を探した。カーナビで店を見つけて車をまわすと、そこは照明が暗く陰鬱な雰囲気の店だった。セルフなので自分で給油して金を払う。 「ガソリン代がまた値上げか」  俺はパネルを操作しながら料金を払おうとした。故障なのか料金が払えない、俺は呼び出しボタンを押して、店員が来ると期待をしたが、事務所から出てこない。 「なんだ寝てるのか?」

SS Hey, Siri. Give me chocolate. #ストーリーの種

 ママはお風呂に入っている、僕はママの携帯を見ながらつぶやいた。お腹が減っていたので無意識だったと思う。記憶は定かじゃない。 「Hey, Siri. Give me chocolate.」  誰かチョコレートくれないかな。しばらくすると携帯から声がする。 「チョコレートを送りました」  奇妙な返答は単なる間違いに感じたけどチョコが机に置いてある。僕は手に取って食べると甘くておいしい。お風呂から上がったママは僕から携帯を取り上げた。 「ママの携帯をいじっちゃだめよ」

SS ヘルプ商店街 #毎週ショートショートnoteの応募用

 汚れたシャッターに「HELP」と大きくいたずら書きがされている。シャッターアートのつもりか?俺は仕事を始めた。 「汚されて困るんだよ」  商店街の会長さんが俺をねぎらう。仕事の内容を聞くと数ヶ月前から深夜になるとシャッターにイタズラされる。人を雇っても長続きしない。 「閉店後に消します」  店が閉まるとシャッターに書かれた文字を薬剤で消す。夜の商店街は閑散としていて怖い。ふと後ろに気配がある。商店街の人だろうとふりむくと誰も居ない。 「また書かれてたよ」  昨日

SS 食べる焚火 #爪毛の挑戦状

 月夜の晩に商人が街道を急ぐ。満月の夜は歩くのに不便はない。夜通し歩けば関所に到着する筈だ。明日には江戸の地を踏めると思うが、疲れが出ていたので小休止しようと場所を探す。  焚火がパチパチと明るい。商人がゆっくりと近づく。月夜の岩場に誰も居ない焚火がある。 「山賊でも居そうだな……」  秋も深く寒いが風は吹いていない。慎重に近づいて焚火に手をかざす。暖かい炎に一息つく。背負っていた荷物を降ろすと立ったまま焚火を見る。ごうごうと燃える炎は勢いがある。いつまでも見ていられる