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雑多な怪談の話

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2023年9月の記事一覧

SS ベランダ霊 #爪毛の挑戦状

 ベランダに子供の霊が居た、今は居ない。 「事故物件なので安いですよ」 「はぁ……お化けでも出るんですか」  営業マンは笑顔のままで首を横にふる。お化けなんていません、一家心中した部屋なので安いんです。3LDKで家賃は1LDK並みだ。広い部屋が欲しかったのは、恋人が出来たからだ。 「きれいだし、ここでいいわ」  OLで仕事場に近い彼女は同棲するための部屋を探していた。これだけ広ければプライバシーは守れる、部屋をひとつずつ使っても余る。即決した。  すくない荷物を設置

SS あるべき成仏宴 #毎週ショートショートnoteの応募用

(お囃子♪)  落語家が高座に座ると誰も居ない客席を見つめる。 「毎度、ばかばかしい話をさせていただきます」  深く頭を下げて額を高座につけたままだ。 「このお話は、あるべき成仏案と言いまして、江戸時代から伝わります」  伏せたままの顔を上げない。 「成仏といいましても、悪い事をした奴は成仏できません。だから悪人は最後に金を持ってあの世にいきます」  客席には人影もないのに咳払いの声がする。 「なんでも金です、三途の川でも金が必要です、渡し守に六文銭が必要なので、お棺

SS うちのタマのあだ名はクラッシャーという。 #ストーリの種

 うちのタマのあだ名はクラッシャーという。とにかく破壊する、私の大事にしていた人形を食いちぎって泣いた事もある。いつもは凶暴じゃなくて、ムシャクシャしている時に壊す感じだ。 「タマをよそにあげてよ」  母親に泣いて頼んだこともあるが、母は静かに笑っているだけだった。普段は、なでさせてくれるがクラッシャー状態だと触れるのは怖い。とにかく素早く動いて標的を見つけて破壊する。お前はゴルゴか。 「ゴルゴは狙撃銃で倒すんだぞ」  父親が物知り顔で訂正するが、そんな事は判ってる。

SS あるべき成仏宴 #毎週ショートショートnoteの応募用 【怪談】

※怪談です  奇習がある。 「あるべき成仏宴?」 「故郷の風習なんだよ……」  深夜に国道を走る、たまにすれ違うのは長距離トラックだけだ。暗闇の中で夫の運転する車は冷え切っている。疎遠になった祖父が死んだとメールが来た。  真夜中に到着した場所は、通夜が行われる特別な建物が立っていた。 「これは……何なの?」  不気味な黒い館は月夜にうっすらと浮かぶ。 「ここで祖父を守る……」  この村は呪われている。江戸時代に落ち武者を殺して刀を奪った祟りが残っている。死んだ者

SS 呪いの臭み #毎週ショートショートnoteの応募用

「のろいのくしゃみ?」 「呪いの臭み」  小学生のみよちゃんが不思議な話をする。のぶ君は彼女の話を信じない。四丁目で口が裂けた女が居るとか信じない。 「怖くないよ」  本当は怖い。みよちゃんは、のぶ君を怖がらせるのが大好きだ。 「神社の葉っぱが臭いとね、呪われるの」 「それは怖いね」  みよちゃんが不満そうに、のぶ君を見る。もっと怖くしないと! 「もし臭かったら大変よ、鼻がひん曲がるのよ!」  のぶ君はちょっと笑ってしまった、曲がった鼻のみよちゃんを想像する。かわ

SS 水槽の内側 #爪毛の挑戦状

「ギヤマンの水槽でございます」  新之丞が平たい透明な板で挟まれた水槽を見る。ギヤマンはガラスの別称で板ガラスは作るのが難しい。水が入った水槽は向こうが透けて見える。その奇妙さに新之丞は、底知れぬ興味を持つ。  はじめはメダカを入れて楽しむが、そう長生きはしないで死んでしまう。次がデメキン、ランチュウ、リュウキンと魚を入れて楽しむ。美しく赤い色の魚は十分に彼を満足させた。幼年期までは問題は無かった。 xxx 「水槽は出来そうか? 」 「大きさの問題もあるので時間がかかり

SS 返し【短歌物語】#青ブラ文学部

 ひたひたと誰かがついてくる。ふりむくと誰も居ない。気のせいと思いながらも不吉に感じて陰陽師を訪ねる。男は正六位の役人だが下級だ。 「ごめん たれかおるか」  下男が来ると思ったが、頭髪がかむろの女児が歩いてくる。無表情なまま、奥へ導くように進む。 「ここで待てば良いのか」  女児が無言でうなずくと広い板敷きの部屋に招き入れられた。板の上でしばらく待つと音も無く陰陽師が部屋に入る。 「御用件を」 「かくかくしかじか、妖物にでも祟られたかと」 「最近、貴方は歌を詠みました

SS 庭を食べる #爪毛の挑戦状

 庭の写真を撮ると違和感を感じた、昔取った写真を持ち出して夫に見せる。デジタル写真とアナログ写真を見せると怪訝そうに見比べる。 「この写真なんだけど……」 「うちの庭だ、狭いけど」  自宅の庭の周囲はビルの壁しか見えない。周囲は普通の一軒家で。今は取り壊されてマンションが建っている。最後に庭の周囲がすべてマンションになる。日当たりが悪すぎる。 「なんか妙なの、狭く感じて……」 「そりゃそうだ、十階建てのビルだからな」    頭では理解をしていても違和感は消えなかった。