見出し画像

SS あるべき成仏宴 #毎週ショートショートnoteの応募用 【怪談】

※怪談です

 奇習がある。

「あるべき成仏宴?」
「故郷の風習なんだよ……」

 深夜に国道を走る、たまにすれ違うのは長距離トラックだけだ。暗闇の中で夫の運転する車は冷え切っている。疎遠そえんになった祖父が死んだとメールが来た。

 真夜中に到着した場所は、通夜つやが行われる特別な建物が立っていた。

「これは……何なの?」
 不気味な黒い館は月夜にうっすらと浮かぶ。

「ここで祖父を守る……」
 この村は呪われている。江戸時代に落ち武者を殺して刀を奪ったたたりが残っている。死んだ者は地獄へ連れていかれる。

「本気なの?」
「みれば判るよ、俺が死んでも同じ事が起きる」

 館の周りに武装した男達が集まる。後ろに丸い棺桶かんおけが置かれていた、祖父が入っている。

「来たぞ!!」

 怒号とともに前方から武者姿の骸骨がいこつが集まると突進してくる。男達は農具を振り回す。古風な農具は江戸時代から使われていた。落ち武者を殺した道具だ。

 骸骨がいこつ達に農具を振り下ろすと粉々に砕ける。絶え間ない攻防で疲弊ひへいしながら朝日が昇るまで戦う。私は自動車の中で震えながら見守っていた。

「もう平気だ……」
 この農具がないと骸骨がいこつ達をはらえない。

 夫と実家で眠り、すぐに仕事のためにトンボ帰りで都会に帰る。昨夜の事は信じられないが私は事実として受け入れるしかない。なぜならすぐに強い衝撃が走ると事故が起きる。疲労した夫が田舎道から田に落ちる。ぐるりと一回転すると私は体が跳ね上がり車の天井に頭をぶつける。

「あなた……あなた」
 痛む頭をおさえながら、首がねじまがった夫をゆする手が止まる。

 あの骸骨がいこつ達が夫を見ている、骨の手を伸ばすと、夫をずるずるとひきずりながら死体をかついだ。絶叫を上げる私の腹部に骸骨がいこつが手を差し入れる。

xxx

「旦那さんは事故後に逃げたようです」

 警察は夫の死体を見つけられない。私は流産していた、私はもう骸骨がいこつ達とは無縁だ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?