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シロクマ文庫用と青ブラ文学部等の企画参加作品

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企画された作品を置いときます
運営しているクリエイター

#怪談

SS 湿原の少女【タンバリン湿原】#毎週ショートショートnoteの応募用

 湿原を通るために板木が渡されている。もし足を踏み外すと、ぬかるみに体を沈める。  シャンシャンシャンシャン  ジプシーの娘が霧の濃い湿原を先導してくれた。タンバリンを足に打ちつけて鳴らしている。 「この先が、お屋敷です」 「ええ……」  沼地の占い師に会いに来たのは、夫の不倫を占って欲しかった。占い師の小屋は湿原の中央に霧で隠れている。 「ご用件は?」 「浮気を調べたいのです」  盲の老婆が尖った指先でタロットをめくる、十五番目のカード、悪魔だ。 「憎悪、嫉妬

怪談 ボール 【#写真de妄想】#青ブラ文学部(550文字くらい)

「ねぇ、野球ボールが落ちてる」 「どこ?」  フェンスの近くを指さす男の子、友達が見ても何も無い。 「ないよ」 「あれ? ボールあったのに……」  側溝の近くで見たボールは無かった、ただ側溝の穴から暗くよどんだ水が見える。翌日になり教室で噂を知る。 (お化け側溝だろ?) (十円を落とすと消えるんだって)  町内の怖い噂話、どこそこのマンションのポストには、猫の首が入っている、見た子は誰もいないけど噂だけはある。 「お化け側溝って何?」 「あの近くで十円を地面に置く

★怪談 人魚の恋 【#流れ星】#シロクマ文芸部

残虐です  流れ星が夜の天空を、ゆっくりと右から左に横切る。海面から顔を出して澪は、それを目で追う。海に浮かんでいた男の上半身は、ゆっくりと沈みはじめた。男のどろりとした目は、もう何も見てない。  流れ星は、次から次へと暗い空に白い軌跡を残した。 xxx  漁師の伊之助が澪を助けたのは、容姿に惚れたからだ。 「網にからまったか」 「タスケテクダサイ」  人に捕まれば殺されると教えられた。人魚の肉は不老不死の薬として売られるので当然だ。他の魚を売るのと変わらない。漁

SS 猫がおんねん!【#はじめて切なさを覚えた日】#青ブラ文学部参加作品

 猫が死んでいた。 「クロ、クロ」  指でつつくが、もう生きていないのは本能で判る。キッチンの床でぐにゃりとした塊を見て、はじめて切なさを覚えた日だ。  ペットが死ぬのは悲しい。母親を探そうと見回すと部屋の隅に女の子が立っている。大きな丸い目の瞳孔が広がって黒々としていた。 「……誰?」 「クロよ」  混乱したが、彼女がクロなのは直感でわかる。 「なんで死んだの」 「毒よ」 「毒なんてないよ」 「あんたのおかあさんが毒いれたの」  母親は猫が嫌いだった。気味悪が

SS 幽霊の恩返し【#墓参り】#ボケ学会のお題

 墓参り、昔からある風習に思えますが町人だと墓石なんて買わないで卒塔婆だけで終わる事があります、土饅頭に長い板を突き刺して終わり。簡素なもんです。 「八さんや、墓参りに行こう」 「墓参り? 熊の墓を見るのか?」 「違う違う、有名人の墓を見て掃除するんだ」 「なんでそんな事をする」 「ご利益があるんだよ」  どこで聞いたか墓を掃除すると恩返しがあるらしい。 「近所に石川五右衛門の墓あるんだ」 「聞いた事ねえな」 「最近できた墓地なんだよ」 「大公様の頃に死んだのに、なんで

SS 彼の秘密【非情怪談】#毎週ショートショートnoteの応募用

 暗い部屋の中で障子紙を貼り付けている男がいる。彼は特殊な趣味を持っていた。 「やぁ、まったかい」 「え? まってませんよ」  かわいらしい女性は彼のファンだ、彼はSNSでとてもやさしい物語を作り女性ファンが多かった。  映画を見て食事して女性を誘う。言葉たくみに誘導して自分の家につれていく。古く影のある屋敷だ。 「ぼくのコレクションを見せよう」 「ありがとう」 「実は僕はファンの子からあるものをもらうんだ」 「私からももらうんですか?」  地下への階段は黒く瘴気す

SS 古屋敷の怪 【風鈴と】#シロクマ文芸部

 風鈴と夏がやってくる。チリンチリンと鳴る風鈴の屋台を引きながら老人が街中で売り歩く。風鈴は音にひかれるように売れていく。 「いい風鈴ね」 「とても良い音ですよ、夜に眠るときにぐっすりです」  涼しげな音色は人を安心させる。老人はゆっくりと裏通りを進むと古くて大きな屋敷が見える。 「おい、風鈴屋、入ってくれ」 「毎度どうも」  老人は風鈴を何個か、みつくろって屋敷の裏口を通って中に入ると、縁側で太った男が着物姿で座っている。 「風鈴をくれ」 「これはいかがでしょうか

SS Aの真相【山のポ】#毎週ショートショートnoteの応募用(600文字くらい)

 彼女が死んだ、原因を知りたかった。登山が趣味で俺とAはB子が好きでライバル関係だったがB子に選ばせる暗黙のルールがあると思っていた。 「俺はB子にプロポーズする」 「そうか、頑張れよ」  Aは顔はいいが自意識が高い嫌味なヤツで、B子は俺を選ぶだろうと確信があった。だがB子はAを選び登山の最中に死んだ。 (あいつが殺した、彼女が死ぬわけがない……)  登山のベテランなB子が死んだのはAがヘマして事故に起こしたからだ。真相を知るために失意のAを誘って同じ山を登る事にした

SS 約束【織姫妖怪】#毎週ショートショートnoteの応募用

 暗いお堂の中はひんやりと冷えている。天井には星の配置が描かれているが黒ずんでいてよくわからない。中央に天の川と両脇に彦星と織姫が描かれていた。 「江戸時代くらいですか」 「それより少し前です」  夏の課題で近隣の寺院でレポートを書く事にした。男女の学生は暗さに眼がなれると埃だらけの床板や雑然と置かれた木の箱が散乱している部屋を見回す。 「この地域は織姫伝説があるんです」  天井を指さして男を見る。男は不安げに眼を泳がせる。 「どんな伝説なんです?」 「禁忌の恋物語

SS 藪知らず【#白いワンピース】#青ブラ文学部参加作品(800文字くらい)

 白いワンピースの少女が森を見ている。深い森は昼間も暗く奥がわからない。 「なにしてるの」 「別に……」  竹の虫かごをもった少年が心配そうに近づく。少女の表情は真剣で森に顔をむけている。 「この森はだめだよ、藪知らずだから」 「藪知らず?」 「入っちゃ駄目な土地」 「そうなんだ」  真っ白なワンピースは上品でお金持ちの家の子に思える。きっと東京から来たと思う。手でおいでおいですると素直についてきた。 「どこに住んでいるの」 「あそこ」  近くに瀟洒な洋館が建って

SS 初夏の桜【#手紙には】シロクマ文芸部参加作品(900文字位)

 手紙には、会いたいと書かれていた。 「おかあさん、これどうしよう」 「そうね、お棺にいれましょうか……」  祖母の遺品を整理すると封筒に入った便箋を見つける。手書きの文字は、なれないと読めないが読み進めていると恋文なのは判る。 (書いた人は誰だろう……)  私はその手紙を自分の机にしまった。とても思いが伝わったので何度でも読み返したくなる。 「こちらでも桜が咲いています。故郷の桜も咲いているでしょうか、君と一緒に見たあの景色が懐かしく感じます。戦争が終わったら、桜

SS 秘湯【一方通行風呂】#毎週ショートショートnoteの応募用

 ――世界はモノクロだ  ――雨が激しく屋根を叩く  ――うす暗い部屋で身動きをしない  壊れかけた板戸が、ズッズッと動くと男が入ってくる。 「ひどい雨だな」  暗闇にいる私は驚かせないように顔をだす。 「いらっしゃいませ……」 「風呂に入りにきた」 「はい、こちらです」  まずは足湯、ぬるく白く濁った湯で汚れをとる。  砂湯に案内して体を埋める。体の中までじっくりあたたためる。  ――誰もいない小屋  ――ただ静かに客によりそう  ――眼をつむる客は…… 「客

SS 約束【#雨の七夕】#青ブラ文学部参加作品(1400文字くらい)

 川が増水したのか水が濁っている。思妤は、ものうげに川面を見つめる。雨の七夕は、湿気も多く憂鬱に感じた。 「思妤、することがないなら針仕事でもしな」 「あぃよ」  ごうつく婆は、遊郭の女が暇そうにしているのが許せない。渭水の対岸は長安で、船で遊びに来る客が多く繁盛していた。 (あいつ来るって言ったのに……)  星宇は、思妤のなじみの客で、牛の売り買いで財をなしていた。若く聡明な彼は、彼女を見受けをすると誓いを立てた。 (嘘の約束なんてしなくても、金もってくれば……)

妖怪笑い話 鬼が笑った【#ボケ学会のお題】(1000文字弱)

「こんなこともできないの」  掃除洗濯家事料理、何をしても姑は機嫌が悪い。夫の母親と同居する事になったのは、彼のお父さんが死んで遺産が入ったためだ。一人は不自由だと家に転がり込んできた。 「もういいから」  手で猫を追い払うようにしっしっと手を泳がせる。はじめは仲良くなろうとしたが、姑は変わらなかった。 (遺産のため、遺産のため……)  呪文のように自分に言い聞かせる。いずれ体が動かなくなり施設に入れるまでは、おとなしい妻の演技をしよう。そんな毎日でも、姑が笑う事も