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SS 古屋敷の怪 【風鈴と】#シロクマ文芸部

 風鈴と夏がやってくる。チリンチリンと鳴る風鈴の屋台を引きながら老人が街中で売り歩く。風鈴は音にひかれるように売れていく。

「いい風鈴ね」
「とても良いですよ、夜に眠るときにぐっすりです」

 涼しげな音色ねいろは人を安心させる。老人はゆっくりと裏通りを進むと古くて大きな屋敷が見える。

「おい、風鈴屋、入ってくれ」
「毎度どうも」

 老人は風鈴を何個か、みつくろって屋敷の裏口を通って中に入ると、縁側で太った男が着物姿で座っている。

「風鈴をくれ」
「これはいかがでしょうか?」

 風鈴をゆらして音を聞かせようとすると鳴らない。別のをふっても鳴らない。

(なぜ鳴らない……不良品か……)

 だが見た目は普通の風鈴だ。

「鳴らないか」
「もうしわけありません、別のをとってきます」
「いやいいんだ……話を聞いてくれ……助けてくれ」
「どのような話でしょうか?」

 この家の主人は、昔話をはじめた。

「妻をもらったのは中年の頃だ、金で買ったも同然の女だ」

 貧乏な家から美しい女を選んで妻にする。最初の妻は神経が細かったのか風鈴のにすら気分を悪くした。

「風鈴くらいいいだろう」
「いやなのです、こんなに響くじゃありませんか」

 愛もなく妻になった女は、家の事がすべて苦痛に感じていた。必然のように風鈴の音を苦にして彼女は首を吊った。それから再婚しても、後妻が自殺する。風鈴と一緒に首を吊る。

「なぁ、この風鈴は呪われているのか?」
「これが、その風鈴ですか?」

 主人が手渡す風鈴は金属製の立派なモノだ。ためしにふって鳴らすと音が出た。チリンチリン。老人は自分の風鈴ももう一度ならしてみると、風鈴に指がかかっている。女の指だ。

「こんなに響くじゃありませんか」
「あ!」

 美しい着物姿の女が、老人のもってきた風鈴を指でおさえていた。老人はその場でしゃがむと立てない。しばらくして気がつくと誰もいない屋敷で倒れていた。

 近所に聞くと、その家の主人は何回再婚しても妻が自殺をするので、とうとう自分も首を吊ったという。

 老人は、それからは風鈴はあつかわない事にした。

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