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ト書な日常

玄関のドアを開けると黒ネコが庭の柵から道に飛び出して行った。なんだかネコが多い街。

駅に向かって歩き出すと、ほほに当たる小さな雨に気づく。見上げると灰色の雲が東の空に広がっている。あの雲から雨がやってきているのか。青さは西に広がっていて、傘を差すほどでもない。

線路沿いの道をしばらく歩いて見えてくるカフェの前には今日も灰色ネコが座っている。カフェの前を通り過ぎると生け垣の奥にもう一匹灰色ネコがいることに気づいた。似ているネコ二匹の遠近感に一瞬戸惑う。ツインピークス。


半地下カフェの開店まで乗換駅のベンチに座り時間を調整をする。いつも数人が座っているベンチに、今日はぼく一人しか座っていない。左胸の内ポケットのスマホが震えるのは半地下カフェ開店三分前のアラームで、ベンチから立ち上がったぼくは階段を上り改札を目指す。

たどり着いた半地下カフェの前には開店待ちしている男性が既に立っていた。間もなく店のシャッターが開いて外に看板を運ぶ店員が「どうぞ」と声をかける。

店内に入りいつもの席まで歩いて、鞄を置いてからレジカウンターに向かうと既に三人ほどの客が並んでいる。少し時間を置いてからレジに向かうことにして席に戻ったぼくは、鞄から取り出したA5サイズのノートをテーブルに開いて、内ポケットから取り出したボールペンで何事かを書き始めた。

隣のテーブル席にやってきた赤いジャンパーのおじさんがマガジンラックから取ってきたスポーツ紙をテーブルの上に「パサッ」と置く。ジャンパーを脱いで椅子の背にかけてから注文に向かうおじさんがテーブル席に戻るタイミングでレジカウンターに向かうことにする。

描写する日常は、思うことや感じることの表現だ。そこには選択があり感情がある。みえる感情もあるが、隠されてしまった感情もある。気づかなければ感情が埋め込まれたまま保存される。描写する日常は楽しい。


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