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カラスとネコを書くシステム

陽が昇る前の暗い青空には灰色の雲が浮かんでいて、家を出て空を180度くらい見渡してから駅に向かって歩き始めたところで、一瞬振り返って空を見上げると暗い空に微かな光が見えて、金星かも知れないと前を向いて歩くぼくはもう確かめもしないし、金星のことはすぐに忘れてしまう。

会えない、会えない、と思いながら歩いていると駅前カフェの通路の白い柵が開いたままで、ぼくの足音に反応して逃げようとする白黒ネコがみえて、ひさしぶりだな、って小さく声をかけると逃げることをやめて、座って小さくニャーって鳴くから、会えるとうれしいけど、通り過ぎると白黒ネコのことは忘れてしまう。

カラスの姿は暗い空でみえなくて、飛び交う三羽ほどの、長く鳴くカァァーと、短く鳴くカァァと、超短く鳴くカァッと、空は会話で溢れているので、ほんとのところどうなんだろうね、とぼくが話しかけると、カァァーと鳴き、カァァと鳴いて、カァッと鳴くので、そうかーそうだよなーと言いながらぼくは駅に向かって歩く。

それほど簡単じゃないんだよ、とカラス語でどう言うか考えながら踏切近くまでやってきて、今朝はいつもより2分ほど早く家を出たので、踏切で通過する電車を待つことなく、線路を斜めに渡って駅舎に辿り着いて、定期券が入ったパスケースを改札機にあてて「ピッ」と音を鳴らしてホームに入ると、後ろから続けてピッ、ピッ、ピッと聴こえたので三人歩いていることを認識してホームを歩く。

左側の自販機の前に立つ男は今朝も眠そうで、開いているのか閉じているのかわからない微妙な瞼の中の眼はまるで夢をみているかのように動いていて、身体の左側に重心をかけるいつもどおりの立ち姿には疲れに伴う気怠さが多量に含まれている。

簡単ではないのはプログラム変更で、パッチをあてて修正して、なんとか対応してきたけど、そろそろシステム自体を見直さなくてはいけなくて、おそらくシステムをごっそりと入れ替える時期なんだけど、一旦プログラム停止して、外側に出て現状をみなくてはいけなくて、停止してもいいのかな、大丈夫かな、停止しないと誰も何もしないだろうし、このままダラダラ実行し続けてもどうしようもなくて、このままダラダラ続けるのだとしたら、またいつものパターンになるから。

これがゲームだとして、ぼくはゲームに参加するかというと、勝ち負けがあるゲームはいやで、負けるのがいやで、負けると格好悪いし、みすぼらしいし、みじめになるし、悔しいし、だけども、それがいやで、何もしないと、もっと格好悪いし、みすぼらしいし、みじめになるし、悔しさはわいてこないかも知れないけど、腐ってくるんだ、何かが。

バカみたいに書いているけど、そのバカなことを思いきり真剣にやるわけで、このなんでもない文章も世に送り出すのであれば、それはそれで、ぼくは勝負しているのであって、だから勝負ということはゲームに参加していて、勝ち負けは知らないけど、ぼくの何かは腐ることなく悔しさに変換されて積もり積もって、また生きていこうとするから、それで良いのではないかな。

ホームに電車が入って来る。
眼を閉じる。
ふらつく。

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