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未転換点

今日も起きた。昨日のやりきれなさは、まだ身体のなかにあった。それでも仕事に行かなければならない。生活費を稼がなければならない。今日一日休んでも仕事に影響はないが、やはり行かなければならない。同僚の右野が今日、明日と夏休みを取っている。ぼくと右野の二人が同時に休むことを上司は嫌がる。

家を出る前に、部屋で時間を過ごしている。仕事に向かう準備は整っている。あとは鞄を持って玄関に向かい、靴を履いて外に出るだけだ。レプリカのスワンチェアに座り、昨日のことを思い出す。上司からの一言。仕事を切り上げて帰ってしまったこと。大人げない行動。いや、大人げなかったのか。

相手のことを良く思おうとする癖がある。あの人は、ほんとうは良い人なんだ。よくやってくれているのだ。罵声を浴びせられても、ぼくのことを思って言ってくれているのだと。それは、その場を治めるにはとても良い方法だった。ただ、その場を治めるだけだった。

長い目で見ると、相手のことを良く思う、だけでは、乗り切れないことがある。相手が調子に乗ることもある。ぼくの振る舞いを疑う人も出てくる。何よりも、ぼく自身のメンタルがやられていく。結局、何も良いことはないのか。

丸い壁掛け時計をみる。7時24分。右ポケットでスマホが震えてアラーム音が鳴る。ポケットに右手を入れてアラームを止める。左手首を持ち上げて腕時計を見る。7時25分。思い出したように蝉の鳴き声が聞こえてくる。床に置いていた鞄を手に持ちチェアから立ち上がる。薄暗い廊下を通って玄関に向かう。靴を履いて紐を結ぶ。ドアの向こう側、ゆれる暑さを思う。


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