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「あ、うまくなってる!」 文章力をリアルにあげる<プロセスX>

文章がうまくなりたい人に、こっそり早道をお教えします。

早道なのですが、ちょっと時間がかかるやり方です。

やってみたら、すごく手間だった!と言う方もいるかもしれませんので、初めに断っておきます。で、もう一度書いておきますね。

そのやり方は、早道だけど、ちょっと時間はかかります。

この点をわかっていただいた方へ、話を進めていきます。

「見違えるほど文章がうまくなる」「差がつくメール文の書き方」「共感をもたれる文章とは?」とかのタイトルのスキル本、Webサイトがいろいろ出ていて、それはそれであり、だと思います(僕もそういう本を出しています)。

しかし読んだけど、なかなか上手になった実感がないなぁと思う方もいるのではないでしょうか。

なぜ、そうなってしまうのか。

それぞれのスキル本に書いてあることは間違っていません。そのノウハウを頭にしっかりインプットし、あとは実戦でアウトプットしていくだけです。ただそれだけです。ただ、何だかモヤっとして、それほど効果感を覚えないことがあるのはなぜでしょう。

それは、「頭にしっかりインプット」→「実戦でアウトプット」の間に、もう一つのプロセスを挟んでいないからです。

そのプロセスをプロセスXと呼ぶことにしましょう。

二つの実例をお話しします。

音楽バンドの話です。僕はささやかなバンド活動をしています。担当はギターとボーカルです。うまくなりたいと熱望し、腕を磨くために、昔は教則本、今はネットの教則チャネルをよくみます。tab譜と呼ばれる、ギター演奏用の楽譜を見て弾き方を学びます。何度も練習をします。しかし実戦で(バンドで)やってみると、テンポがずれたり、他の人と合わなかったり、ミストーンをしてしまいます。つまり教科書の演奏と実際のバンドの演奏とはまるで違うものなのです。レイヤーが違うのです。

では、いちばん上手になる早道は何か。

それは好きなバンドの名曲をコピーすることです。コピーは大変です。自由に弾けませんから。オリジナルを再現する努力を最大限しないといけませんから。リズム、コード、ハーモニー、すべてを耳を澄まし忠実に再現していきます。ビートルズで言えば、僕はジョージ・ハリソンか、ジョン・レノンになって繰り返しプレイし、バンドのメンバーと音を合わせていきます。するとジョンやジョージが憑依してくるのです。あの天才的なプレイヤーの感覚がじぶんの体の隅々まで染み通り、リアルな力として定着していきます。これこそが、プロセスXです。

もう一つの例です。

コピーライティングの世界に「写経」と呼ばれる訓練法があります。博報堂や電通のコピーライターは、初心の段階でこのプロセスを踏みます。どうするかというと、有名な優れたキャッチコピーを、そのままじぶんで書き写すのです。「、」「。」や漢字などを一切のいい加減さを排して、オリジナルに忠実に書きます。TCCコピー年鑑という、広告作品とりわけキャッチコピーに秀でた作品を多く掲載した分厚い本のなかから、じぶんが好きなコピーを拾い上げ、書き写していきます。20年分くらいは見ていきます。ボディコピーまで書き写すとさらに多大な効果があります。

そして憑依させていきます。
何を? それは優れた書き手の感覚を! です。

人間読むだけでは、覚えるだけなのです。「読む」が→「書ける」になるには一手間必要なのです。コピーライティングの場合で言えば、「写経」。それがプロセスXです。

僕は非常勤講師として、文教大学でコピーライティングという授業をやっています。その授業は、演習が主体です。授業中、書き方のスキル/コツを説明したら、必ず全員に書いてもらいます。毎回毎回、実戦と変わらないテーマを課題にし、書いてもらいます。そして書いたものを丁寧に僕は個人個人にフィードバックします。

人間は、頭で理解したつもりになっても何もわかってはいません。学生は初め、戸惑いながら書いていますが、授業が最終盤になってくると、素晴らしいキャッチコピーを書く学生が多数生まれてきます。その成長の加速度は想像以上のもので、毎年、僕も深く感動しますし、学生たちにも大きな喜びをもたらします。全15回各90分の授業のうち、80%は実際に書くことに費やします。そうやって確実にコピーライティングの感覚が頭だけでなく心と体に染み渡っていきます。

3ラ塾も講座中にいくつかの演習を組み込み、個々人にフィードバックする方法で、プロセスXを叶えようとしています。

時間をかけて体と心に染み込ませるプロセスを作ることで、学んだこと・読んだこと・覚えたことが、「実感できる効果」として自らのうちに表現されていくのです。


丸谷才一さんの「文章読本」のなかに、いい文章を書くためにはどうしたらいいかの一節があります。書き写しておきます。

われわれは直接、古今の名文に当たつて、自分で感じ、味わひ、その感覚を体で覚えなければならない。

(第2章「名文を読め」から)


(おわり)


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