見出し画像

サッカー サウジアラビアリーグを一から勉強

 今、サウジアラビアのプロサッカーリーグがとても熱いです。2023年8月1日時点でクリスティアーノ・ロナウド選手、カリム・ベンゼマ選手、エンゴロ・カンテ選手など多くのスター選手がサウジアラビアに活躍の場を移しています。私が知る限り、かつてのサウジアラビアリーグはほとんどがサウジアラビアの選手で構成されており、あとは他の中東やアフリカの一部の国の選手が少し在籍しているという印象でした。少なくとも10年前はワールドクラスの選手がこれだけサウジアラビアのクラブへ移籍するとは思っていませんでした。今回は多くのスター選手がサウジアラビアへ移籍をしている理由やその経緯を一から勉強しました。

○サウジアラビアはどんな国

 まずはサウジアラビアの国についてです。サウジアラビアはアラビア半島の大部分を占める中東の王国で、日本の約5.7倍の面積を有します。サウジアラビアの西には紅海を挟んでエジプトがあるため、地理的にはアジアの中でもアフリカに近い位置に国があります。

 サウジアラビアは君主制の国家のため、同じ血筋の人物が代々、国のトップを務めています。産業では世界2位の原油埋蔵国(2021年のデータ)ですが、1位のベネズエラは生産・出荷ができない低品質の原油が多いため、生産・出荷ができる原油に限定すれば、サウジアラビアは世界一の原油国だといえます。

 宗教はインラム教の信仰がサウジアラビア国民には義務付けられており、他の宗教の信仰は禁止されています。イスラム教にはメッカ、メディナ、エルサレムの3つの聖地がありますが、メッカとメディナはサウジアラビアにあります(エルサレムはイスラエル)。

 サウジアラビアでは女性の権利が大きく制限されており、例として2018年まで女性は自動車の運転やスタジアムでサッカーを観戦することも認められていませんでした。

○サウジアラビアのプロサッカーリーグについて

 サウジアラビアのプロサッカーリーグは1976年にサウジ・プレミアリーグとして創設されました。1990年にプロ化、2回戦総当たりのリーグ戦の後、上位4クラブで決勝トーナメントを実施して優勝を決めるスタイルでしたが、2007年からトーナメントを廃止して、2回戦総当たりのリーグ戦で優勝を決める形式に変更、リーグの名称もサウジ・プロフェッショナルリーグとなりました。

 サウジアラビアにはPIF(パブリック・インベストメント・ファンド)という政府系のファンドがあります。サウジアラビアが海外からスター選手を獲得できるようになったのはこのPIFの影響が大きいです。PIFはムハンマド王太子(サウジアラビアの首相でもある)が支配しているため、ムハンマド王太子の一声で自由に投資ができる状態にあると思われます。2021年にイングランドプレミアリーグのニューカッスル・ユナイテッドを買収したのも、このPIFです。2022年のワールドカップ終了後、クリスティアーノ・ロナウド選手が約280億円の年俸でアルナスルへ移籍しましたが、この天文学的な条件で獲得できたのも、PIFの投資があったからです。

 2022-23年シーズンがヨーロッパ各国で終了後、多くのスター選手がサウジアラビアのクラブへ移籍しました。このタイミングでスター選手のサウジアラビア移籍が増えた理由についても考えていきます。

○サウジアラビアでスター選手を多く獲得しているのは4クラブ

 サウジ・プロフェッショナルリーグは2023-24シーズン、18クラブが1部リーグに参戦しますが、全てのクラブがスター選手の獲得に積極的なわけではありません。スター選手の獲得に力を入れているのは、アル・ナスル、アル・ヒラル、アル・イテハド、アル・アハリ(2023-24シーズンは2部リーグ所属)の4クラブです。2023年6月5日、PIFはこの4クラブを買収、それぞれのクラブの株式75%をPIFが所有することを発表しました。これによって、4クラブはPIFからの投資によって選手の獲得に多額のお金を使えるようになりました。スティーブン・ジェラードの監督就任、長年リヴァプールのキャプテンとして活躍したジョーダン・ヘンダーソンが移籍したアル・イテファクは例外的な存在です。

 サウジアラビアは実質世界1位の原油国ですが、いつかは原油が世の中からなくなる可能性があります。そのため、原油以外の産業を育てていかなければなりません。2019年に一部の国からの観光客の受け入れを開始、同年に日本アニメの祭典、サウジアニメエキスポを初開催するなど、観光やエンタメ産業に力を入れています。サッカーもサウジアラビアの大きな産業として育てていくために国家として、スター選手の獲得に力を入れているのだと思います。

○日本サッカーへの影響

 最後に日本サッカーへの影響を考えていきます。サウジアラビアは日本と同じくアジアサッカー連盟(AFC)に加盟しています。2026年のワールドカップからはアジアの出場枠が増えて、強豪国同士が同じグループで戦う機会が減るため、今後ワールドカップ予選で日本がサウジアラビアと戦う機会は大幅に減ることが確実ですが、アジアカップで戦う可能性は十分にあります。スター選手のサウジアラビアへの移籍が増えているとはいえ、サウジアラビアのクラブに所属する選手の多くはサウジアラビア国籍の選手です。ワールドクラスの選手がサウジアラビアのクラブへ来ることでリーグのレベルは確実に上がります。それがサウジアラビア国籍の選手のレベルアップにも繋がり、サウジアラビア代表にも還元されるはずです。一方でカタールのように多くの外国人選手が帰化をすることはないと思います。サウジアラビアはイスラム教以外の宗教を信仰することは認められていないため、他の宗教を信仰している人物がサウジアラビアに帰化する場合は改宗をする必要があります。ヨーロッパは圧倒的にキリスト教を信仰している人が多いこともありますが、サウジアラビアの国自体がスター選手の帰化までは考えていないと思います。

 一方でサウジアラビアへ移籍する海外の選手は今後も増えると思いますし、おそらく、日本人選手の移籍も今後2年以内にはあると思います。日本代表経験がある選手が中東クラブへ移籍した例としては、2023年からカタールのアルラーヤンでプレーする谷口彰悟選手、2017年〜2021年にUAEのアルアインでプレーした塩谷司選手、先日、浦和レッズへの移籍が正式に決まった中島翔哉選手もカタールのアルドゥハイル、UAEのアルアインに在籍していた期間がありました。2023年8月1日現在、サウジアラビアリーグでプレーした経験がある日本人選手はまだいませんが、サウジアラビアが海外選手の移籍を歓迎している状況で、実際に移籍をする選手が増えているため、日本人選手にとっても移籍がしやすい状況になっていくと思います。

○まとめ

・サウジアラビアのクラブチームが多額の条件でスター選手を獲得できるのは、サウジアラビアの政府系ファンドPIF(パブリック・インベストメント・ファンド)がサッカーへの投資に力を入れているから。

・2023年8月1日現在、PIFが買収しているのはアル・ナスル、アル・ヒラル、アル・イテハド、アルアハリの4クラブなので、多額の資金で多くの選手を獲得しているのは主にこの4クラブ。

・サウジアラビアは実質世界1位の原油国だが、原油以外の産業に力を入れるため、サッカーへの投資に積極的になっている。


○出典
・サウジアラビア王国 外務省 2023年8月1日
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/saudi/data.html#section1

・GLOBAL NOTE 世界の原油(石油)埋蔵量 国別ランキング・推移 2023年8月1日
https://www.globalnote.jp/post-3197.html

・サウジ・プロフェッショナルリーグ-Wikipedia 2023年8月1日
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%82%A6%E3%82%B8%E3%83%BB%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%8A%E3%83%AB%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%B0

・超WORLDサッカー  サウジの政府系ファンド「PIF」が国内4クラブを買収、C・ロナウド、メッシ、ベンゼマが同じグループになる可能性も!?  2023年8月1日
https://web.ultra-soccer.jp/news/view?news_no=443966

・dentsu 第2回 SAUDI ANIME EXPO 2022(サウジアニメエキスポ2022)から、さらなるアニメ原体験の創出へ~サウジ国内のアニメ文化産業の発展に向けて 2023年8月1日
https://www.dentsu.co.jp/showcase/saudi_anime_expo2022.html


 読んでいただき、ありがとうございます。多くの方の心に響く作品や記事が書けるよう、今後も努力を重ねていきます。「作品や記事がおもしろかった」と思っていただいた方、興味を持ってくださった方は支援をしていただけると、とても嬉しいです。

ここから先は

77字

¥ 300

期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

この記事が参加している募集

#サッカーを語ろう

10,926件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?