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【日記】競技ダンスは格闘技じゃない

ライター&カメラマンのナオです、どうも。
主に社交ダンスの写真を撮ってます。主にじゃないな、それしか撮ってません。私自身もかつてはアマチュア選手でした。

ヘッダーの写真ですが、なんの写真だと思います?
これは2018年の日本インターナショナルダンス選手権という、国内でも最大級のビッグコンペ決勝の一幕です。

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浅村慎太郎・遠山恵美組と小林恒路・赤沼美帆組がフロアでニアミスしたのですね。そこでお互いにアイコンタクトしながら、もちろんぶつかることなく回避した瞬間です。しかも、お互い笑顔で「あー、ごめんごめん!」「こっちこそ!」なんて声が聞こえて来そう。今でも大好きな瞬間の写真です。

社交ダンスでは、同じ一枚のフロアの中で多数のカップルが踊っており、お互いを上手に避けながら自分のダンスを完遂しなくてはなりません。これを「フロアクラフト」と言い、社交ダンス独特の技術です。ライバルが同じ場所で、同じタイミングでそれぞれ別のダンスしながら戦うなんて競技、多分他にないんじゃないかな〜。

私がダンスを始めたのはもう○十年前ですが、その頃は選手の数が多かったせいか競争がもっと熾烈で、良くも悪くも選手たちが現在よりギラギラしていました。

A〜B級くらいの上級者になるとフロアクラフトも上達するので衝突自体がそんなに起きないし、D未満になると逆にスピードがそんなに出ないのでノロノロぶつかってる感じで大きな事故にはならない。個人的にいつも見ていてヒヤッとしていたのはD〜C級くらいでした。みんなそれなりにスピードもついて来て、でも自分も含めフロアクラフトが下手くそというなんともバランスの悪いところにいる感じ。ちょうどC〜Bって昇級に必死なので、本当にギラギラしてやるかやられるか感があったのです。

競技ダンサーはマナーが悪いとか危険な踊りをするという一頃の印象は、こういった辺りから培われたものではないかと思います。まあ、私はその言説に大いに反対なのだけど、それについては後述します。

私がフロアクラフトの重要性を痛感したのは、某財団のアマチュアC級戦(だったと思う)に出場していた時のことでした。

持ち級が同じでよく一緒に出場していたダンサーの中に、A君カップルがいました(あだ名もAだった)。パートナーとはビジネスカップルで、私個人はパートナーとは仲が良かったけど、あんまりAのことは好ましく思っていなかった。

というのは全然フロアクラフトを気にせず、自分の踊りをするためなら他のダンサーにむしろ突っ込んでいくタイプだったんだよね。信じられないかもしれないけど、その頃には「他のダンサーを気にしすぎるな、避けるな、自分の踊りをしろ」って教えていた先生もいたらしいの。先生としてはあまり避け過ぎて自分の踊りができないと、競技の場ではアピールが弱くなって良くないって意味だったんだと思うけど、Aはそれを完全に真に受けていたんだと思います。

その日も絶好調にいけいけドンドンで、いつにも増してヒヤヒヤしていたし、パートナーとも揉めていた。そして事件は起きた。

何回目かの予選で、Aは私の別の友人カップルに突っ込んでいき、キックする振付を利用してパートナーの方に足払いを食らわせてしまった。崩れ落ちた彼女は、立ち上がることができない。その瞬間を、スローモーションのように良く覚えてる。

その後のことは全然記憶になくて、見ているこっちも頭が真っ白だった。進行が止まったのか、そのまま競技が続行されたのかどうだったのか……不思議なほど全く覚えていない。気づけば蹴られたカップルは退場していて、Aは確か次の予選か何かに進んだんじゃなかったか?

後日、その蹴られたパートナーは前膝十字靭帯を切って、日常生活もままならなくなったそうです。膝の靭帯というだけでも大きな怪我なのに、後ろより前の方が回復が難しいのだと聞かされました。

結論から言うと彼女はリハビリを頑張って、今では歩くのにも支障はないし、お子さんもいるし、競技ではないけれどダンスをちょっとだけまた復活した時期もあったらしいです。けれど、これから先どんな後遺症が出るかはわからないし、特に寒い時期になると膝の動きが悪くなったり痛みが出たりするのに悩まされています。

私はこの出来事を生涯忘れない。

Aはその後、一度ダンスを辞めた。だいぶ時間が経ってから別のパートナーと組んで競技のフロアに戻ってこようとしたけれど、あの当時のアマチュアメンバーはやっぱり靭帯を切ってダンスを辞めた友人のことを忘れなかった。誰も口をきかなかったし、Aを黙殺していたように思う。別にわざと無視したとかいじめたという話じゃなくて、あまりにも許せな過ぎてどういう態度をとっていいか分からないという感じだった。

すぐにAの姿はまたダンス界から消えた。
多分、居づらかったんだと思う。

そういうわけで、私は競技ダンサーがマナーが悪いとか、フロアで危険な存在だという言説に、ある意味賛成ですが、結果的には反対です。マナーが悪い、フロアクラフトが下手くそ、フロアで危険なダンサーは競技ダンサーにもソーシャル(?)ダンサーにもどっちにもいますよ。また、いわゆるソーシャルという人たちの遊び場を支えているアテンダントのほとんどは競技出身者だもの。

そして、マナーが悪いダンサーも中にはいるかもしれないが、競技のフロアに悪しきマナーを持ち込もうとするダンサーがいれば、それを許さないのも競技ダンサーたち自身なんです。通過点として、下手くそなダンサーもフロアクラフトができないダンサーはいる。そこから抜け出せないダンサーもいるけど、概ね淘汰されていると思います。

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