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エッセイはじめました 〈親知らず〉

 虫歯になったことがなかった。

もう一度。

虫歯になったことがな「かった」。

23歳になるまで、虫歯になったことがなかったのだ。
ちょっとした自慢だった。
小学生の頃自分の名前であいうえお作文をしたとき、今村の「む」は「虫歯がない」だった。


 だがしかし、虫歯になってしまったのだ。
ある晩歯みがきをしていたら奥歯が黒くなっていることが気になった。
翌日は休みで予定もなかったので、ちょっと見てもらお~というノリで歯医者さんの予約をとった。
痛みやしみることはないので、虫歯とは思わなかった。


 ところがどっこい翌日、なんとも呆気なく「虫歯になってますね~」と言われてしまったのだ。
むしば……虫歯?いやいやいや、先生、待ってくださいよ~~こちとら虫歯がないことが自慢だったんですよ~~そんな当たり前のことのように言わないでくださいよ~~と言いたい気持ちだったが、歯医者さんはショックを受けている私をよそに何やらガチャガチャと準備をしている。


 なんと、虫歯になったのは親知らずの歯で、それを抜くというのだ。
歯を……抜く……?
それってもしかしてめちゃくちゃ痛いのでは??
ビビり倒してわなわなしていたが、あれよあれよと……抜けました。
全然痛くなかったのだが?
もしかして親知らずの抜歯って想像よりも痛くない??
その日は右上の親知らずを1本抜いて帰宅した。


 それから一週間と少しが経ち、残りの親知らずを抜きに行った。
次いつ来院できるかわからなかったことや前回痛みなく抜けたことがあり、残りの3本をすべて抜くことにした。
それがなんと…………人生で一番痛かった。
途中でじゃんじゃん麻酔を追加したけど痛かった。
いい歳して大泣きしてしまった。
優しい歯科助手さんが「痛いね~大丈夫だよ~怖くないよ~」と言ってくださったけど大泣きした。
しゃくりあげて泣いた。
痛い。痛すぎた。
拷問かと思った。
どうやら下の親知らずが変な生え方をしていたらしく、最終的にちょっと削ってから抜いた。


 その日抜いた3本の親知らずは優しい歯科助手さんがお土産として持たせてくれた。

 親知らずをすべて抜き、健康な歯が残った。
歯みがきやうがいは今まで以上に丁寧にするようになった。
なんてったって、もう二度と歯医者で大泣きしたくないのだから。

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