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闇夜の月が私に語りかけたこと


          立川生桃      

 白い紙に墨を垂らしてみる。闇夜を散歩するように。田舎の公園の片隅に息を殺して、ひつそりと座り込んでみた。

 闇夜は、騒がしい。蛙の鳴き声と公園のブランコや滑り台から音がするのだ。息を殺して、闇夜を見上げると月が見え隠れしている。

 しばらくすると、草むらからガサガサ音がする。闇夜に目が慣れてくると小さな黒い影が小走りに草むらへ、草むらからもう一つの影が走って消えた。

 私はその間、考え事をしていた。闇夜は私を冷静にしてくれる。

 草むらからガサガサもう一つ音がする。6月も終わろうとするのに闇夜は涼しい風が吹いている。

 紫陽花が満開に咲いている。闇夜の紫陽花が人の顔に見えた。

 

 私はある夜、都会の公園で長椅子に腰をかけて、遠くの薄らとした街灯の下で若者が一生懸命に素振りをしているのを見ていた。

 しばらくすると2人の若者が吸い寄せられるように、公園の中央の小さな椅子に腰をかけて、携帯を片手にゲームをしている光景をみた。

 私はその間、考え事をしていた。闇夜は私を冷静にしてくれる。

 一人ひつそりと考え事をしたいのだが、そうもいかない。

 都会の公園は、車の音と若者のバイクの騒音がして、騒がしい。貨物列車の音もする。

 都会のなんとも言えない匂いと空気と磁場を感じた。私は、あの素振りをする若者と同じなのだ。

 そう感じるのに時間はかからなかった。だが、若者と違うのは、私にはいくらかの経験があるということなのだ。

 しかし、自分に言い聞かせた。あの若者と同じであってはいけないと。

 そう言い聞かせながら、都会の公園の紫陽花を眺めた。暗闇の紫陽花が綺麗に見えた。

 呪い(まじない)をするように。6月の6がつく日に紫陽花を飾ろう。私が忘れていた事柄。

 夢が誠になるように。闇夜の月が私に語りかけた。

   3年前の紫陽花を包んだ色褪せた紙を海に流し、私は今年の紫陽花を飾る。

※ 紫陽花のまじないの説明と方法

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