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オットセイ漫画レビュー アクタージュ

漫画レビュー第三弾、こちらも前回同じく週刊少年ジャンプよりアクタージュの感想をば。
現在、原作者であるマツキタツヤ先生が逮捕され打ち切りが決まり世間を騒がせています。
この騒動をきっかけに読み始めたとかいうわけでは全くなく、本当にたまたま読み終わってすぐに打ち切りが決まってしまいました。

ネットでの評価が高かったこと、信頼できるオタクであるにゃるらさんがお勧めしていたこと、そして何より一巻表紙の美しさに取り込まれてしまい読み始めたんです。
とっかかりはイラストの美しさでしたが、読んでみたら漫画を構成する大きな二つの要素である作画と物語がどちらも一級品。
僕の人生で読んできた漫画は多くありませんが、その中でもトップクラスに食い込んでくるほど魅力があり引き込まれる。そんな漫画作品です。

それだけドハマりしていた作品だけに、今回の件は悲しくて悲しくて仕方がありません。
正直まだ受け入れられていないです。
僕にとってまだまだ未開の大地である漫画の世界で新しい生きがいを見つけたのに、一瞬で消え去ってしまった。

本当はこの作品の魅力をちゃんと伝えるために、ゆっくりとこのレビュー記事を書く予定だったのですが、今日書いてしまうことにしました。
この作品の素晴らしさを忘れてしまう前に形にしておきたくて。
そして、もう続きが読めないという現実に少しでも踏ん切りをつけるために。
以下感想ネタバレ注意です。

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素人でありながら天才的な演技の才能を持つ主人公・夜凪景が、その才能を見出した映画監督・黒山墨字と共に最高の女優へと成長していく役者の物語。

この作品の最も魅力的なポイントはキャラクターに他ならないでしょう。
僕が一目惚れした宇佐崎しろ先生が描く、しなやかな美しさがありながらはっきりとした力強い顔立ちで描かれる役者たちをぜひ見てほしい。
役者というテーマだからこそ、他の作品と比にならないくらい表情が豊かですし、皆強い気持ちと信念を持って芝居に向き合っていますから、フィクションのはずのキャラクターから【生気】を強く感じます。

しかも、各キャラきちんと丁寧に掘り下げが行われるのが本当に良くてですね。
彼らがどうその人格や演技観を持ったのかの裏付けがきちんとされているから、よりそのキャラが近くに感じるし愛おしく思えます。
その上、裏付けの回想はしつつも必要ない部分の掘り下げはなく、グダグタにならないテンポの良さなのでクドくない。
漫画の読みやすさとしてもテンポの良さを抑えたしっかりとした構成になっています。ストレスを感じません。

千世子も阿良也も王賀美さんも、尖りまくりのキャラ立ちまくりで他の作品ならば主人公を食ってしまいそうなほどに個性的で魅力的。
でもそんな中で頭ひとつ抜けて輝いているのが夜凪景
役者としてもキャラクター性も強キャラに囲まれながらも、そんな彼らに食われない、上の上を行ってくれます。
やっぱり名作に主人公が一番魅力的であることは絶対条件なんですよ。

外見の美しさ、役者としてどこまでも高みへ登ってしまいそうな可能性とポテンシャル、素の景と役者としての景のギャップと、魅力的なポイントを上げ始めてはキリがありません。
好みの話をすると見た目と巣の性格はドンピシャに好きです。クッソかわいいオットセイの良い女リストに爆速で入りました。
そこに主人公としてのパワー、役者としてのパワーまで持ち出されてはもうメロメロですよ。夜凪景という人間がたまらなく好き。

この物語は景の役者としての成長と共に人間としての成長を描いた作品でもありますから、彼女自身が自分や自分の過去と向き合うような掘り下げがどうしても他のキャラより多いです。主人公ですし。
そんなんされたら尚更好きになって応援したくなりますよ。
アクタージュは、役者夜凪景と映画監督黒山墨字のお話なんです。

更にですね、この作品のずるいところが、キャラクターの魅力がキャラクターの枠に収まっていないところなんです。
アクタージュに登場するキャラの大半は役者。
キャラクターの魅力が、そのキャラの役者としての魅力に直結するのです。
彼女らが魅せる芝居描写の迫力を目の当たりにしてしまうと...
キャラクター夜凪景も好きになるし、役者夜凪景も好きになってしまいます。

次にシナリオ面について。
現在進行中だった大河ドラマ編で打ち切りだとするとそれまでのアクタージュは

デスアイランド編ー銀河鉄道の夜編ー羅刹女編

と大きく三つに分けられます。
各エピソードの間に短いのがいくつか入りますが、これらも景の掘り下げや成長に欠かせない素晴らしいものばかりです。

デスアイランド編に関しては、シナリオ面で特段面白いと思う部分はありませんでした。つまらなくもなかったですけど。
景がどんな成長をするのかが見たくてただただ読んでいました。
実際デスアイランド編は千世子との邂逅を果たすためだけのイベントで、それ以外は景が見せる成長と芝居以外に見所は作られていなかったようだ思いますし。

ただ銀河鉄道の夜編、こっからはもうヤバい。
景の成長を見守るだけだったアクタージュが、演出家の爺さん、阿良也、劇団のみんなの感情と想いが入り乱れる人間ドラマとしての完成度が単体で高過ぎます。
その状況下で景は自分にできることをものにして昇華し、演技に直結させていく。
とても感動するエピソードでしたが、泣きそうになるという感動ではなく各々が想いとプライドを持って演じた銀河鉄道の夜の舞台そのものに感動をしました。
銀河鉄道の夜編だけ単体で実際の舞台化が予定されていたのにも頷けます。
アクタージュは打ち切りになってしまいましたが、銀河鉄道の夜編までは本当に読む価値があります。
未完になるとしても、勧めたい。それくらい良い話。

対して羅刹女編は、このエピソード単体で見て銀河鉄道の夜編と比べると完成度は劣ります。
本番直前の花子の告白に荒れる甲サイドの本番と盛り上がりはありましたが、あまりまとまりのいい終わり方とは言えないですし。

しかし、これをアクタージュという作品全体で見るなら最高です。
この作品の行き着く先は黒山が撮りたい映画です。そのための景の成長でもあります。
映画に必要な景以外のパーツである王賀美、阿良也、千世子ともうゾロリゾロリ。
各キャラの景から刺激を受けて成長する姿と感情描写による掘り下げが行われてます。
そして、景自身にも乙サイドに敗北したという失敗の経験が積まれるわけです。大きなバネになるに違いありません。
その先に控えているクライマックスのことを考えれば、間違いなく素晴らしい前置きの伏線エピソードとなったことでしょう。

しかし、その先を見ることは絶望的になってしまいました。
この作品、絶対にプロットがしっかり練られて決まった上で描かれている作品だと思うんですよ。
僕が予想するに、羅刹女の失敗から大河編では黒山の“過去の女”である環を自分に取り込んで更なる大きな成長を遂げた後、黒山が認める女優となった景が過去の共演者たちと共に一本の映画を撮って終わり。だったんじゃないかなあ。

黒山が描く芝居の頂点と、その頂点へ行き着く景。見たかったなあ。
度重なる感情移入と没入感のあまり完全にアクタージュの世界へと入り込めていたにもかかわらず、いきなり外側からその世界が壊されてしまった感覚でいます。
作品としてあまりに優れていて完璧であり、行く先も綺麗な完結も約束されていただけに、関係ないところで中断を余儀なくされる理不尽にもう腹も立ちません。景の後ろを追いかけ続けていれば、人生史上トップクラスの感情の昂りを得られる予感がしていたのに...
ただ、悲しい。

以上感想でした。
ごめんなさい、書いていて上手く言いたいことをまとめられていないのを自分でも感じています。
想像以上に続きが読めないことへの喪失感からショックを受けていて、今までアクタージュで得た感動を言語化しようにも悲しい感情に邪魔をされて上手くできなかったんです。
もう一ヶ月は引きずりそうな気がします。
物語に空けられた穴は他の物語で埋めるしかないでしょう。

とにかく、僕はもう夜凪景という女に、人間に、役者に虜になっているんですよ。もう忘れられないほどに。
10年後でも、どんな形でもいいですから、いつかどこかで景の物語が登れるところまで登ることを切に願っています。



オットセイに課金してもガチャは回せません。