町一番の金持ちは掃除屋
面白い話を聞いた。
僕はアイスランドの北部に位置するフサビークという小さな港町の路上で親指をあげていた。
のは30分ほど前の話
今はアルゼンチン出身のサーファーが運転する車の助手席に乗っている。
彼はスペインを拠点にしサーフィンベースのライフスタイル。今はアイスランドでファームの仕事を半年ほどしているという。
アイスランドを歩いて旅をした
歩きでしか見えないその国がある
そう思って僕は歩き旅をしている
だが、今回の旅ではまだこの国のことがよくわかっていない。3週間半歩き続けたにも関わらず、アイスランド人とゆっくり話せたことがないからだ。
点在する小さな町を通り過ぎ、人の住んでいないエリアに足を踏み入れ、北の果てに辿り着いてしまった。
自然の猛威や美しさが語りかけてきたこともあるが、その全てを汲み取るには今の僕では足りないものが多すぎた。
だから、ヒッチハイクでのドライブ中に聞きたいことが沢山溜まっていたのだ。
白夜極夜のメンタルの違い
街に降り注ぐオーロラのこと
アイスランド人の日常のこと
どんな仕事をしているのか
休みの日は何をしているのか
子供は?
夫婦間は?
食べ物は?
物価は?
もう気になることが次から次へと出てくる。
話を戻そう。
アルゼンチン出身の彼。出身が違うとは言え、この国に住んで生活をしているなら、話してもらえることもあるだろうと、溜まっていた質問を次々と投げかけた。
「アイスランドの人って休みの日は何してるの?」
そんな質問を投げかけた
「特にやることはないよ。俺はプールに行ったりハイキングしたり、たまにドライブかな。」
「そんな毎日だと退屈じゃないの?」
「みんなやる事を探しているんだよ」
「ほぉ」
「フサビークで街のゴミ拾いの仕事をしてる人がいるんだ。」
「ほぉそれで?」
「彼はフサビークで一番の金持ちなんだ。ゴミ拾いしてるんだけどね」
「なんで?どういうこと?」
「彼はフサビークの町でレストラン・カフェ・ホェールツアーの経営者。お金を稼ぎたいんじゃなくてやることがないから経営をしていると言っていたよ」
彼はこう付け加えた
「フサビークは小さな町だから、この事はみんな知ってるよ」
嘘のような本当の話。
この町には娯楽がほとんどない。旅行者からすればこじんまりとした美しい港があり、海を挟んだ対岸の半島には雪が残る山脈が聳え立ち、それはそれは映画のワンシーンのような町なのだが、ここに住む人はそれが日常。町を歩く人はほとんどが観光客なのだろう。
この国は人口の7倍の観光客が1年間やってくるという。
観光大国になりつつあるアイスランドの現地の現状は、手のひらで収まるぐらいの小さな世界なのかもしれない。
「アイスランドに住む人は予定を入れたがるんだよ。意外とみんな忙しくしている。何もしなければ何も起こらないからね」
忙しくなっている
のではなく
忙しくしている
その表現がぴったりだ
誰かからではなく自ら
「アイスランド人は仕事を3〜4つやってる人は普通にいてるんだ」
とても興味深い話だ。時間やお金の価値観が大半の日本人と全く違う。忙しすぎる国の問題は、暇すぎる国からすればそれが解決策になっているという事。
人は暇になると何かしたくなるのだろう。
実際、今の僕の状況も毎日やることがない。早く日本に帰ってやるべき事をやれ!と言われそうだが、まだその時ではない。
退屈な日々が続くことも、次何かするための原動力になるわけだ。
そう思うと、何もせずになかなか沈まない太陽の下で過ごすこの時間も悪くないなとは思う。
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