【追憶の旅エッセイ #74】刑務所に泊まってビーバーテイルをつまむ、オタワですべき2つのこと
心浮き立つ夏が来て、半年近く過ごしたトロントを発つときがきた。
寒さを言い訳にあれほど鬱々とした日々が、よき友人たちに恵まれて最後の方にはバンクーバーと同様、後ろ髪を引っ張られるような気持ちでバスに乗った。
深夜発のバスだというのに友人たちは見送りに来てくれ、袋に入りきらないほどのお菓子を持たせてくれた、その気持ちに愛を感じて泣ける。
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今回の旅の目的は、トロントより東、行けるところまで。
まずはカナダの首都、オタワに立ち寄ることに。見たいものも、会いたい人もいたわけではないが、しいて言うなら「首都だから」。
あ、そしてもうひとつ!旅人の間では、少し話題になっていた「HI Ottawa Jail Hostel」に泊まってみたかったから。
Jail=刑務所、その名の通り1962年から1972年までカールトン郡の刑務所だった建物を宿泊施設にしたもの。
ユースホステル(カナダではHIと呼ぶ)は、お城や刑務所、灯台などを宿泊施設として使っているところも少なくない。なかなかユニークな体験が世界中でできるのは魅力のひとつだろう。
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で、オタワの刑務所ホステル。
入口付近は明るく、レセプションのスタッフも感じが良かった。ただ館内はかなり独特というか、刑務所の名残をいたるところで感じることができる。
部屋の番号をroom noというところ、cell noと呼んだりするくらいはご愛敬。部屋の扉が全て鉄格子で中が丸見えだからだろうか、フロア自体が男性と女性で分けられていた。
そしてその廊下の不気味さは、いくら陽の光が入っても払拭できないものがある。特にトイレやシャワーはまるで囚人たちが使っていた当時のままじゃないかと思うほど、暗く狭く…、快適ではなかったかな。部屋の石壁は当時のままということ、どうりで貫録がある。
そしてこのホステルに泊まる目的のひとつは、毎晩開催される「Jail Tours(刑務所ツアー)」。
当時はHIメンバーで$7、それ以外は$10支払うと記録しているけれど、今は公式サイトを見る限りフリー(無料)ツアーになっていた。ちなみにこのツアーは宿泊客以外でも参加できる。
さて、このツアーでは建物のどの場所が、当時なにに使われていたなどを詳しく聞くことができ、宿泊客が料理をしていたキッチンは囚人たちのシャワーがあった場所だとそのとき知った。
ツアーのハイライトは処刑場だ。絞首台の生々しさなどを妙に覚えている。そしてその場所でガイドが小声になって「かつての受刑者の幽霊を見る人もいるんだよね」と参加者を怖がらせる。というか、公式サイトにも書かれているくらいだから、幽霊を見た人は一人や二人じゃないらしい。
ホラー映画好きの私としては、ここでの体験はスリリングなものとなった。とはいえ霊感はなく、私自身はなにも見たり聞いたりしなかったのだけれど…。
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宿泊先自体が、旅の目的ではあったけれど、あとひとつが「ビーバーテイル」だった。
それはつまりオタワ名物の「揚げパン」。
ドーナツを平にしたようなパンで、バラエティ豊かなトッピングが特徴だ。
チョコレートソースや果物を乗せたデザート系から、チーズやハム、ほうれん草など、軽食も兼ねられるセイヴォリー系まで幅広い。
そしてビーバーテイルを食べるなら、やはり本家の一号店「BEAVER TAILS」で食べないと!そういうところは律儀な私。笑。こちらは元祖として知られ、なんとオバマ大統領も好んだという。カナダ全土に100店舗以上展開し、今では日本にも店がある。
私が頼んだのは「Cinnamon Apple(シナモンアップル)」で、平たい揚げパンにジャムをびっしり、その上にぎっしりとリンゴが散りばめられていた。
北米のスイーツは甘過ぎるという常識を覆し、甘過ぎずくど過ぎず。生地は柔らかくて、焼き立てで香ばしい。甘みも自然のリンゴの甘さで、シナモンのスパイスが良いアクセントになっていて、美味しかったのだ。
ただ細長く平べったい生地は、手の平でバランスが取りにくく、リンゴは落ちるわジャムはこぼれるわと、食べにくかったのを覚えている。
これをリンゴが落ちないか気にしながらちびちびと食べ、それほど大きくない街歩きを楽しんだ。
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ほかには首都だけに国会議事堂や、リドー運河など観光スポットもいくつか巡ったのだけれど、私としては「Jail Hostel」と「ビーバーテイル」でお腹いっぱい!
結局オタワには2泊だけして、次の地へ旅立つことにしたのだった。