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#6 ヴァンヘイレンとM&Mの茶色のチョコレート


 私がよく聴く音楽レパートリーの中にヴァンヘイレンというアメリカのロックグループがあります。(昨年10月6日に逝去)音楽に興味がない方でも、名前くらいは聞いたことがあるのではないかと思います。1970年代から1980年代にかけてアメリカで絶大な人気をほこったバンドです。このヴァン・ヘイレンは、その人気さゆえに度を越した悪ふざけや横柄な態度が噂されることがありました。

 横柄な態度に関して有名なのは「M&Mのチョコレートをボウルいっぱいに入れて置いておけ」という話です。しかも、茶色のチョコは一つ残らず取り除かなければいけない、とか。なんとこれがコンサートの契約条項に入っていたのです。
 彼らのコンサートの契約書に「楽屋にボウル一杯のM&Mのチョコレートを用意すること。ただし、茶色のM&Mは全て取り除いておくこと。もし違反があった場合はコンサートを中止し、バンドには報酬を満額支払うこと」という条項をさりげなく書き記してあったのです。契約調印の際は一切そのことは話題にもしませんでした。その契約書には無数の技術仕様や機材の設定などが書かれていて、電話帳なみの厚さがあったことで有名です。その中のたった1ページに数行使ってそのことが書かれていました。彼らはコンサート当日楽屋入りすると、まずテーブルの上のボウルに入ったM&Mのチョコレートの中に茶色が入っていないかどうか必ず調べて、一つでも茶色のチョコレートがあろうものなら、プロモーターを呼びつけて契約違反だと訴え、ステージから使用する楽器類照明等すべての点検をさせたそうです。また場合によってはいきなりコンサートを中止したことも実際にありました。


 さて、この話を聞いてあなたはヴァン・ヘイレンに対してどのような印象を持ちますか?


 「破天荒で面白い」と思いますか?おそらく大半の方は「調子乗ってるなぁ」とか「横柄だ」とか、ネガティブな印象を持つのではないでしょうか。
当時のマスコミも同じで、人気ロックバンドが天狗になって理不尽な要求をしていると批判しました。民衆も「あいつら調子に乗っている」とファンが一人また一人と離れていきました。
 ただ、この話はこれで終わりではありません。
 なぜこんな要求が契約条項に入っていたのか?その理由を知りたくありませんか?


 契約に「M&M条項(第126条)」が盛り込まれていたのには、明確な目的がありました。彼らは新しい会場に着くと、楽屋に直行し、M&M入りのボウルを確認しました。茶色のM&Mが一粒でもあると、設備全体の総点検を要求しました。実は彼らはプロ意識の塊のような集団だったので、一切の妥協を許さなかったのです。彼らのコンサートには様々な仕掛けがあり、突然の大音響で過電流を必要とします。配線がいい加減な場合は感電したり、漏電で火事が発生、最悪の場合、多くの人々が死に至ることも考えられました。また多くの機材の必要から、ステージがその重さに耐えられず、コンサートの途中でステージが崩れるようなことがあってはいけないと考えました。だから126条を見落とすようだったら、「間違いなく技術的なミスが見つかる。契約書をしっかり読んでいないからだ。」と考えました。そこでスタッフがきちんと契約書を読んでいるかどうかを確認するため、一見理不尽な契約条項があえて含まれていたということなのです。


 いかがでしょうか?おそらくあなたのヴァン・ヘイレンに対するイメージは一瞬にしてひっくり返ってしまったのではないでしょうか?
 人間は物事を多面的に見ることが苦手です。ヴァン・ヘイレンに対するイメージが変わってしまった私たちは、是非このことを肝に命じなくてはいけません。情報には必ずといっていいほどバイアス(偏り)がかかるものなのです。片側からしか物事を見られなかったとしたら、…。

 これは学校の先生の児童理解でも同じことがいえると思います。子どもの一面だけとらえて、その子のことをわかったと思い込んでしまうのは、ヴァンヘイレンのことを理不尽で横柄と思ってしまうのと同じだと思います。些細な失敗ならまだしも、仕事の上で取り返しのつかない失敗は避けたいものです。


 マスコミなどメディアの情報は一方向からしかとらえていない報道があまりにも多いです。それは、取材者や放送局の意図といったバイアスがかかってしまうからです。ですからテレビやインターネットのニュースを見て世の中を知るのは、いわば私たちが、放送局や番組制作者というフィルターを通して世の中のことを見ている(見させられている)のです。
 海外に在住していた時に、現地のニュース報道を毎日見ていました。とてもおもしろいと思ったのは、同じ映像のニュースを最初はニュースキャスターやアナウンサーを排除して、取材クルーがとってきた映像を編集もしないでそのまま放送します。そして、その後同じ映像を今度はテロップ入り、アナウンサーのコメントを交えた日本のニュースと同じものを流していました。視聴者は最初の生の映像だけで事実認識や自分の意見が持てるようになっていました。(この時点でもすでに映像撮影者の視点のバイアスは少なからずかかっていますが)それは、キャスターやアナウンサーのコメントに視聴者が操作されることがなく、第一印象が持てるという点ですごくよかったと思いました。そして最初の映像で視聴者が自分なりの事実認識を持った後に2回目のキャスターなどのコメント入りの映像を流すので、コメントを視聴者が受けうりすることがなく、それは一つの参考意見としてとらえられるようになっていました。
 

 情報は直接自分の目で見て、自分の耳で聞いて、肌で感じるなどして入手したものでない限り、何らかのバイアスがかかっていると思っても間違いないと思います。

 最後までお読みいただきありがとうございました。

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