胎児は世界の夢をみる
長く眠る胎児。
胎児は夢をみる。それは空高く飛ぶ自分の姿。
どこまでもひろがる世界を、自由に、好きなように、見たいものを見る為に、聞きたい音を聴く為に。
たくさんの物語を空を舞いながら眺めていく、そんな自分の姿を夢見る。
だけれども、あまりにひろいその世界、空。
ひとりで舞い続けることは怖いだろうか?
落ちてしまったら?
寂しくはないのだろうか?
胎児はそこで夢見ることをやめてしまう。
不安になる。けれどこの中に居続けている限りは安心だ。
夢は夢のままに。
……産まれたい。産まれたい。
その声をいつまで無視できるだろうか?
鼓動の音と重なるように聞こえる自分の声。
産まれたい。産まれたい。
飛びたい。
私の声!お前は聞こえているのだろう !
安穏などまやかしなことを知っているだろう!
どうせこのまま腐り落ちてしまうのなら、空の世界で落ちてしまいたい!!
「もう良いだろう?」
その声に目を開いた胎児。
夢では無い、夢ではないのだよ。
あなたにはもう翼が生えているの。
飛びたければいつでも飛べる。あの空の世界へいつでも行くことができる。
新しい世界で旅することができるんだ。
さぁ、行こう。
胎児は空へ手を伸ばす。
その先に見えている自分の姿。ずっと夢でみていた姿。
空へ向かうには、今までの「何か」を失うことになる。
それでも。
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