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休日の朝。小さな幸せに気付いて泣けてきた。

今朝は火曜日だが、祝日なので仕事は休み。

一日働いただけでもう休日なんて、最高の気分だ。一日働いて、休んで、なんてサイクルで日常が回っていけばいいのに。

祝日だというのに、7時に起きた。
数ヶ月前に犬を飼い始めてから、私はやたら早起きになった。
リビングでゲージに入ってクンクン鳴いているであろう愛犬を思うと、居ても立っても居られなくなるからだ。

リビングに行き、ゲージから出た愛犬が室内を走り回る様を見ながら、ソファに横になる。

朝のニュースをのんびり眺めている私の傍では、じっとしていられない病の夫が、「朝イチでスタバに行く」と張り切って準備を済ませ、出ていくところだった。

うちの夫婦は、お互いやりたいことが多いので、休日も基本は別行動。だが、夕飯は料理好きの夫が作ってくれるので、夜は一緒に食卓を囲むのがお決まりだ。

多動症だけど寂しがりの私にとっては、このうえないベストな距離感でいてくれるパートナーである。


夫を見送ると、私も顔を洗って準備を始めた。今日は少し肌寒いので、昨年買ったお気に入りのニットに、今年初めて袖を通す。お値段は普通なのに、肌触りが最高に心地よい、掘り出し物。着るたびにブラッシングをして大切にしていたから、今年も現役でいけそうだ。

コートを羽織ると、愛犬が散歩の時間を察して飛び跳ねる。
昨晩、仕事が忙しくて夜の散歩に連れて行ってあげられなかったら、きっと外に出たくて仕方ないのだろう。

愛犬を抱いてマンションの部屋から出ると、ひんやりとするが、ほどよく雲の泳ぐ穏やかな青空だった。

今日は特に予定もないし、昨晩の分も含めて長めに散歩してやろうと、いつもよりものんびり歩くことにした。

うちの愛犬はクンクンしたがりで、散歩中しょっちゅう生垣に顔を埋めて動かなくなる。
仕事の日の朝だと、時間がないのでリードを引いて先を急がせるのだが、今日は気の済むまでクンクンさせてやった。


熱心に自然と戯れる愛犬を待っている間は、他にすることもないので必然的に周囲をぼーっと眺める時間になる。

あたりを見ると、落ち葉がだいぶ積み重なり、いよいよ冬の到来を感じさせた。

その落ち葉を見ていたら、見事なグラデーションの楓の葉を見つけた。

暖かな黄色をベースに、先端だけ鮮やかな赤に染まって素敵なアクセントになっている。

思わず、その葉を手にとって、空をバックにするようにしてもう一度眺めた。うん、やっぱり綺麗。

ふと、綺麗な花を見つけては摘みながら帰った、子供時代を思い出した。


さらに公園に向かっていくと、祝日だからかいつもよりたくさんの愛犬家とすれ違った。

愛犬家同士というのは不思議なもので、普段道を歩いていても人と挨拶なんてしないのに、犬連れというだけで「こんにちは」と言い合う。

私は、その「うっすらした繋がり」が好きだったりする。

「犬」という共通言語だけでちょっとした親近感を感じる、でもそれ以上はお互い詮索もしない。肩書きのぶつけ合いもない。フラットかつ身軽、でもなんだか嬉しい関係性。「犬の前では皆平等」とでも言ったものか。


そして、公園を抜けて、お気に入りの駅前のパン屋さんに向かった。

そのパン屋さんは、正直すごく美味しいとかいうこともない。
だが、こじんまりした店の佇まいで、優しそうなおばさんが一人で切り盛りしている様が、応援したくなる店だった。

だから、パンだったら本当は近くのコンビニで買えるのだが、応援の意味も込めてこの店によく通っている。今日は、クリームパンを一つ買った。



家へ向かって歩いていると、自宅マンション前の道で、犬の散歩をしている老夫婦がこちらに歩いてくるのが見えた。

この老夫婦は同じマンションに住んでいるのだが、いつも夫婦2人で仲良く連れ立って、性格の良さそうなキャバリア犬を散歩させている。余裕を感じる穏やかな雰囲気に、私が密かに憧れている老夫婦だ。

その老夫婦が、私を認めると、遠くから「こんにちは」と笑顔で声をかけてくれた。

私と老夫婦の間には結構な距離があったのだが、それでも「私」を認知して声をかけてくれたことがなんだか嬉しい。私もちょっと声を張って、「こんにちは!」と返した。


マンションの部屋に戻ると、クリームパンをお皿にのせて、紅茶を入れた。

紅茶は普通のパックだけれど、夫と行った金沢旅行で一目惚れして購入した九谷焼のマグカップと、美味しい蜂蜜が最高の味付けをしてくれるはずだ。

そして、数日前に購入したばかりの、ポータブルスピーカーをつけた。

スマホを操作して今の気分に合いそうなアーティストを探す。今日は、ピアノを弾きながら歌う、透き通った声の男性ボーカリストをチョイスした。

スピーカーから流れる音は、携帯のそれとはやっぱり全然違う。ボーカリストの声が、部屋の空気にすっと染み込んでいくようだ。


紅茶と皿に乗せたクリーンパンを持って、仕事部屋に向かう。南向きの大きな窓からは、たっぷりの陽の光。

仕事部屋の椅子に座って、デスクにのせた紅茶を口に入れる。
うん、美味しい。

午後はどうしようかな。愛犬を連れて、ドッグランかドッグカフェでも行こうか。
それとも、このまま家でのんびりしようか。さっき見つけた楓の葉を思い出しながら、久しぶりにスケッチでも描いてみようか。


ちょうど、スピーカーからは私が特に好きなピアノメインの曲が流れてきたところだった。


その時、ふと、泣きそうな感覚が込み上げてきた。

悲しいわけじゃない。
肚(はら)の奥がじんわりあったまるような。大好きな人と抱き合う時に感じるような、「幸せだけど泣ける」という、あの感覚。


そうか、「泣きそうなくらい幸せ」って、こんなにそばにあったのか。

ゆっくり太陽の光を浴びて、自然の美しさにうっとりして、人と言葉をかわして、大好きな音楽と大好きなモノたちに囲まれる。

そして、さぁ今日は何をしようかな、とやりたいことがたくさん思い浮かぶ。

東京の片隅に暮らす私の、とるにたらない、小さな小さな幸せ。

でも、それで十分なんだな。


昔、バリバリのキャリアウーマン風だった私は、違うものを目指していた。

仕事を頑張る。認められる。すごい成果を残す。

でも、そんなことよりも。今の私は、この小さな幸せを守りたい、と思う。


私は、今の私が好き。

うん、これでいい。これがいい。
静かに、幸福を噛み締める、休日の朝。

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