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「オフィスがなくても、生産性とコミュニケーション密度は高められる」白潟総研が教える、Discord活用のポイント

コロナによって多くの人がリモートワークに移行した結果、「オフィスは必要か?」と、あちこちで議論されるようになりました。リモートワークがうまく機能している企業は、オフィスの解約や縮小を決断し、その経験やノウハウを社外に公開するケースも増えています。

今回取材したのは、中小ベンチャー企業のコンサルティングを行う白潟総合研究所株式会社(以下、白潟総研)。緊急事態宣言中の5月半ば、東京本社と大阪支社を両方とも解約し、完全リモートワークへと移行しました。

そのきっかけとなったのは、無料ボイスチャットアプリ「Discord」を活用したバーチャルオフィスをつくったことです。映像ではなく音声のみのやりとりにも関わらず、以前にも増して密なコミュニケーションを実現。その様子は「バーチャルオフィス視察会」で外部へ公開しています。

オフィス解約の経緯やバーチャルオフィスの運用、リモートワークにおける工夫などを、代表取締役社長の白潟 敏朗(しらがた としろう)さんに伺いました。

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社内からは、オフィス解約への反対はまったく無かった

── 白潟総研さんがオフィス解約を決断するにあたって、社内ではどのような声があがりましたか?なかには反対される方もいたのではないかと思うのですが…。

実は、反対の声はまったくありませんでした。経営幹部だけではなく社員も、みんなオフィス解約に賛成で。オフィスを解約すべきかどうか一番悩んでいたのは、代表である私だったかもしれません。

── なんと!社員の方々は、皆さん賛成だったのですね。

なぜかというと、リモートワークで生産性が下がらないどころか、むしろ向上したからなんです。弊社では3月下旬からDiscordを使ったバーチャルオフィスを運用しています。4月の緊急事態宣言以降、オフィスをまったく使いませんでした。そんな状態にも関わらず、コミュニケーションはスムーズですし、新人の生産性は127%に上がりました。成果も、オフィスに集まっていた頃と比べて遜色ない。

多くの社員は「メリットしかない」と言います。満員電車に乗らなくていいし、身なりを整える必要もないですし。とは言え、経営幹部は多少懸念を抱いていました。オフィスがないことで、金融機関から融資を受けられなくなるのではないか…と。しかし、弊社ではすでに直近での融資を完了しており、しばらくその予定もありませんでした。

それに、もし将来的に融資を検討した際、「オフィスがない会社にはお金を貸さない」という旧態依然とした金融機関があれば、メディアのみなさんにご協力をいただき反旗を翻そうかな、とすら思っています。「このDX(デジタルトランスフォーメーション)時代に、金融機関がそれでいいのか!」ってね(笑)。

相手の顔が見えないほうが、コミュニケーションはスムーズ

── ボイスチャットによる音声中心のバーチャルオフィスで、日々のコミュニケーションに不都合は生じないのでしょうか?

不都合はないですね。むしろ「相手の顔が見えない」ことが、コミュニケーションをスムーズにするし、生産性の向上にもつながるんです。

リアルオフィスで若手がマネージャーに話しかける場合、マネージャーが忙しそうな雰囲気を醸し出していたら、若手は声をかけようとしません。なぜなら、今の若手はいい意味で忖度力が高いから、気兼ねしちゃうんですね。弊社ではコロナがきっかけでリモートワークを開始しましたが、Discordを使ったバーチャルオフィスを運用するにあたり、ちょっとした工夫をすることで気軽に話しかけられる状態をつくりました。結果的に、ほとんどの若手社員は「上司に声をかけやすくなったし、相談しやすくなった」と言います。

── すごいですね。ずばり、どんな工夫をされたんですか?

Discordでは、一つのサーバー内に複数のボイスチャンネルを作成することができます。その機能を活用して、いつでも誰でも話しかけてOKの「オフィスフロア」や、「商談中」「離席中」などのチャンネルをつくりました。本人の業務状況によって、チャンネル間を自由に行き来してもらうんです。

こうすることによって、いつ誰に声をかけていいのか、ひと目で分かる状態になります。先ほど申し上げたように、オフィスだと「忙しそうにしているから声をかけない」という問題が起こるのは、その人が集中作業中で話しかけられたくないのか、ただ単にそう見えるだけなのかが、ぱっと見で分かりづらいからなんですよね。こうしたコミュニケーションの取りづらさを、Discordで解決することができました。

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白潟総研で実際に運用しているバーチャルオフィス

また、顔が見えないということはつまり、顔色をうかがう必要がなくなる、ということです。その分に使っていた神経は、思考を深めるために使うことができますし、お互いにフラットに意見を言い合える状態になる。これは、会議の生産性を高めるうえで非常に重要なポイントです。

例えば、対面で誰かに何かを提案する時、提案の最中にその相手の表情がつまらなそうだったら「いまいちだったかな?」と提案を早々に切り上げてしまいがちですよね。しかし、バーチャルで相手の声のみから情報を得るとなると、途中で提案を止めることはありません。相手は「なるほど、そういう意見もありますね。その心は?」「こういうデメリットがありますが、それについてはどう考えますか?」と切り返す。それに対して自分の考えを伝える。こうやって、深い議論を進めることができるわけです。

── たしかに、相手の顔が見えない分、声だけですべての情報を受け渡しすることで、思考が研ぎ澄まされていく感覚はあります。音声のみのコミュニケーションで、なにか意識していることはありますか?

いくつかルールを決めています。例えば、声をかけるときは「◯◯さん、◯◯さん」と必ず2回名前を呼ぶこと。話が終わったときは「以上です」と言うこと。質問されたら、黙らずに何かしらリアクションすること。最初のころは、ルールを忘れている人がいたら指摘するようにしました。2週間ほど続けると、ほぼ全社に浸透しましたね。

加えて、会議の本題に入る前に、「昨日ちゃんと寝れた?」「朝ごはん食べた?」「体調はどう?」と、上司から一言添えるように心がけています。こういったやり取りをすることで、身体的な不調だけでなく、会話のなかから精神的な不調も早めに見つけてあげることができます。

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Discord上にまとめた運用ルール

朝礼・昼礼・夕礼の密なコミュニケーションと、半日PDCAで生産性を向上

── ひとりで仕事をしていると、つい、だらけたり、集中力が途切れたりすると思うのですが、生産性向上のためにどのような工夫をしていますか?

大事にしているのは、1日のリズムをつくること。弊社では、朝礼・昼礼・夕礼の1日3回、全員参加のコミュニケーション機会をつくっています。加えて、午前のゴールと午後のゴールを必ず設定しています。

まず、朝8時の朝礼が終わったら、上司と部下で相談しながら午前のゴールを3つ設定します。昼礼までの間は各々の仕事に取り組み、つまずいたら随時Discordで相談。昼礼でゴールの達成度を上司と振り返り、成果を社内に共有します。ここで3つのゴールを達成した人は表彰されるんです。達成感や悔しさを感じてもらい、午後のゴールを3つ設定。夕礼でも昼礼と同様に、振り返りと表彰があります。一日ではなく半日単位でPDCAを回していくサイクルが、生産性向上に貢献していると思います。

── なるほど。Discordの活用や一日のサイクルの工夫によって、スムーズに業務がまわっていることがわかりました。しかし、ミッションの共有など、一般的には顔を突き合わせて話すことはどうしていますか?

そもそも、私たちのミッションや会社のカルチャーは、社内で十分に浸透しているんです。「この指とまれ経営」と名付けているんですが、企業理念・ミッションに賛同しない人は入社しないでくれと、新卒・中途採用でお伝えしているくらいです。だからこそ、コロナ禍でも一致団結して結果を出せています。

逆に言えば、コロナ以前から会社としての団結力やお互いの信用がなければ、どんなツールを使ってもうまくいかないでしょう。

今後は、オンラインとオフラインのハイブリッドで運用

── 今後、Discordの導入を考えている会社さんにアドバイスがあれば、ぜひお願いします。

極論を言えば、オフィスワークをしている会社はすべて、Discordでリモートワークに移行したらいいと思います。迷っているなら、私たちが開催しているバーチャルオフィスの視察会を見てもらえればいい。きっと考え方が変わるはずです。

製造業や建設業など、現場と本社が分かれている業界にもオススメです。そもそも、こういった業界は、現場と本社間でのコミュニケーションがうまくいってない場合が多い。なぜなら、現場では安全確認などの意味も込めて朝礼・昼礼・夕礼などをきっちりやっていて、QCD(Quality・Cost・Delivery)を意識して仕事をしている。「本社の人間はゆるい」と誤解が生じがちなのです。Discordなら、現場と本社を横断して繋がれるので、同じリズムをつくりやすい。会社の一体感が出て、コミュニケーションがスムーズになります。

あとは、小売店にも応用できますよ。以前視察会に参加してくれた中古の釣具屋さんは、各店舗間の会話がないという課題をDiscordで解決できるんじゃないか、と考えていました。実際にDiscordを導入した今では、ポケットに入れたスマホのアプリを使って、イヤホン越しに会話量を増やすことで、営業時間中も離れた店舗間で繋がっているそうです。Discordを「距離という概念を超えるツール」として考えると、リモートワーク以外にも使える場面が広がると思います。

コミュニケーション不足で誤解が生まれて、機能不全になる。これはどんな組織にも言えることです。しっかりとお互いが話し合えれば、誤解が解けてうまくいく。Discordは、世の中を変えるのではないか、とさえ感じています。Discordを褒めちぎっていますが、私は決してDiscordの営業マンではないですからね(笑)。

── そうですよね(笑)。しかし、たまにはリアルオフィスが恋しくなったりしませんか?

恋しいですよ(笑)!私は九州の宮崎出身で、都会の高層ビルはずっと憧れでした。次の次に移転するオフィスは、東京駅の目の前にある高層ビルに構える、というのが内に秘めた目標だったんですよ。今回のオフィス解約は、正直3ヶ月くらい悩んで、最後は泣きながら意思決定をしました。

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オフィスはなくなったものの、コロナの影響が落ち着いたら、実際に顔を合わせる機会を設けようと思っています。チームで週に1回集まり、全社で月に1回集まり、そして全社合宿を3ヶ月に1回開催し、定期的にやっていくつもりです。今後は、オンラインとオフラインのハイブリッドを続けていきます。

── 白潟総研さんのエピソードを聞いて、これまでリアルが当たり前だったからこそ「リアルじゃないとできない」と決めつけていることがたくさんあることに気付きました。今日は貴重なお話をありがとうございました!

(取材:葛原 信太郎)

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白潟 敏朗(しらがた としろう)
白潟総合研究所株式会社 代表取締役社長
経営者の家庭に育ち、両親の悩みを肌で感じるうちに、将来の目標を経営コンサルタントと定める。システムエンジニアを経験したのち、1990年よりデロイトトーマツにて経営コンサルタントを経験。IPOコンサルティングなどでキャリアを積み、ISOコンサルティングの領域に革命を起こす。さらに、7800社に入会いただいた定額制研修イノベーションクラブを立ち上げるなど、コンサルティング業界の風雲児として数々のイノベーションを起こす。誰もが取り入れることができる経営手法をまとめた著書は44冊、累計95万部に及ぶ。
2006年、トーマツ・イノベーション株式会社代表取締役。2014年白潟総合研究所株式会社を設立。2017年にリファラルリクルーティング株式会社、2018年に1on1株式会社、2019年ソーシャルリクルーティング株式会社を設立、中小ベンチャー企業に特化した、本質的なコンサルティングを行う。