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ワーケーション専門家が体感した「千曲市ワーケーション」が秘める力

総務省でオフィス改革を中心とする「働き方改革」に取り組み、現在一般社団法人日本ワーケーション協会特別顧問をしております。箕浦 龍一と申します。
2021年11月、1年ぶりに「千曲市ワーケーション・ウェルカムデイズ」に参加し、講演をさせていただきました。
今回は、千曲市でのワーケーション体験と魅力、「千曲市ワーケーション」が秘める可能性についてお伝えします。

(ワークスタイルシフトから考える、新しい「ワーケーション像」はこちら

初体験の「こたつワーケーション」、驚きが多く満足度が高い体験

長野県千曲市上山田に所在する善光寺大本願別院。戸倉上山田温泉から城山への急な坂を登ったところにある善光寺大本願別院の本堂からは、戸倉上山田温泉の街並みを始め、千曲川流域に広がる雄大な景色が望めます。

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<山の上から見下ろす戸倉上山田温泉街の町並み(善光寺大本願別院 観音寺から望む)>

昨年11月に善光寺大本願別院のお堂でおこなわれた瞑想体験&本堂での「こたつワーク」に参加させていただいたのが、「千曲市ワーケーション」との最初の出会いでした。「千曲市ワーケーション」は、ほか地域の「体験型」イベントとは異なります。
三日間に渡る一連のイベントは、様々な地域資源を活用した”緩やかなワーク”機会の提供が中心で、地域に関する様々な情報提供や、地域人材とのマッチングはおこないつつも、基本的には自由時間が十分に設けられています。参加者各自が自分のペースでワークをおこなえるようにデザインされている点が大変印象に残りました。

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<善光寺大本願別院 観音寺本堂内でおこなわれた「こたつワーク」(2020年11月開催)>

現に、私がスポット参加した最終日も、朝一番で瞑想を体験、その後はお寺の本堂内に用意されたこたつで仕事をしたり、参加者同士の意見交換をしたりと、思い思いに時間を過ごす姿が見られました。
たった1日の参加でしたが、この日の体験は満足度が高く、再訪したいと感じるに十分な、密度の濃い時間となりました。

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<瞑想体験の様子@善光寺大本願別院 観音寺>

2021年9月に、イベント主催者である株式会社ふろしきやの田村英彦さんから、「千曲市ワーケーション・ウェルカムデイズ」(11月14日~20日)への参加を打診いただきました。
1年前に味わった満足感を上回る濃密な出会いと体験が得られることを確信していたため、即座に「参加させていただきたい」と連絡をしました。

手触り感のあるコミュニティーが進化している場所

11月14日から20日までの1週間おこなわれた「千曲市ワーケーション・ウェルカムデイズ」での滞在は、私自身にもいくつもの大きなヒントを与えてくれるものであり、期待した以上に満足度の高い、有意義な滞在となりました。

1年ぶりに「千曲市ワーケーション」に参加したのですが、参加者の何人かは1年前にお会いした方々でした。まずは、リピーターの方が多いことに軽く驚きを感じました。これまで10回を超える体験イベントを開催してきた中で、千曲市という地域及び主催者側が、参加者に満足度の高い滞在経験を提供してきたことを何よりも如実に示していると思ったのです。

満足度の高い経験を通じてリピーターを生み、リピーター同士や地域の方々との再会を重ねて、徐々に成長と進化、成熟を積み上げてきたコミュニティは、後述するように参加者側のアイデアをきっかけとしたイノベ―ションを生み出すに至っています。

リピーターが多いといっても、参加者の中には初めて参加する方や、スポット参加の方もいらっしゃいます。そのような新参の方々に対しても、既存のコミュニティが温かく迎え入れ、自然と溶け込める緩く温かい空気感も感じられます。
初参加の方も千曲市を後にする頃にはその滞在の満足度とともに心地よい地域の人々やワーケーターのコミュニティの一員として、再びこの地を訪れたいという思いとともに自分の住む場所へと戻っていくことになるのでしょう。

滞在2日目にJR姨捨駅近くにある「姨捨ゲストハウスなからや」を利用したワーケーション体験では、フリータイムの合間に「ダイアナ」の愛称を持つ城本清子さんが、「おとうじ」、「おにがけ」という郷土料理を手づくりで振舞ってくれました。

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<おとうじ>

夜はゲストハウスに地域の方々も集って懇親会が催されました。城本さんを始めとする個性豊かな方々と、それを取り巻くコミュニティのメンバーとの愉快で温もりの感じられる会話も、都会から参加する人たちにとっては得難く、満足度の高い経験のひとつとなったことは間違いありません。

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<姨捨ゲストハウスなからやにて開催された懇親会>

ワーケーションを推進したり、サテライトオフィスに大都市の企業を誘致しているような地域の中には、外部からの訪問者や移住者、地域住民との間に分断や軋轢が生じる例もあると聞きます。
しかし、千曲市での取組ではそういったことを耳にしません。様々な立場の地域の人たちが自分たちも楽しみながら、コミュニティの構成メンバーとして一緒に盛り上がりを生み出しているのです。

全国各地でワーケーションの取組が進められつつあり、話題になっているところも多いですが、地域住民の方々との手触り感のあるコミュニティが進化し続けているという点において、千曲市の取組は特筆に値すると感じました。

ワーケーション参加者で生み出したイノベーション

千曲市での取組のもうひとつ特筆すべき点があるとすれば、ワーケーション参加者として関わり持ったメンバーによって、地域課題解決のソリューションが生み出され、イノベーション創出につながっている点です。
一連の体験イベントの初期から参加されていた数名のメンバーは、この地での滞在に満足を覚えると同時に、より快適に「千曲市ワーケーション」を楽しむうえで地元の二次交通が課題であると感じ、関係者間でも議論や検討を重ねながら、LINEと協働し「温泉MaaS」という仕組みを構築しました。

温泉MaaS

<「温泉MaaS」操作イメージ>

全国各地で地域公共交通の確保やワーケーション誘致における二次交通問題が課題である中で、地元側ではなく、ワーケーション参加者側の発意によってイノベーティブな取組が生まれたということは、注目すべきと思います。
この取組の立役者である日本マイクロソフト株式会社の清水宏之さんの記事が先日公開されましたが、プロジェクトメンバーは、この仕組みを千曲市だけでなく全国各地で活用していただけるよう、サンプルコードを公開することを発表されました。


地域と外部のコアなファンがつながることで、地域だけでは生み出せなかったイノベーションが生まれる。このことはワーケーションに留まらず、従来いわれていた関係人口創出や地方創生の方向性にも大きな示唆と実例を示していると思います。

今年の「千曲市ワーケーション・ウェルカムデイズ」も、「ソーシャルグッド」をテーマにおこなわれ、グループワークを通じて様々なアイデアが生まれました。このコミュニティでは単なるアイデアでは終わらず、課題解決の社会実装化につながるものが改めて出てくるのではないかと期待されます。

「千曲市ワーケーション」への期待

あえて今後の課題をいくつかあげるとすれば、このような地域住民のプロジェクトへの行政(千曲市及び長野県)の関わり方かもしれません。

昨年、私がイベントに参加させていただいた際には、やや傍観者的な印象だった千曲市でしたが、今回のイベントでは千曲市の職員の方々がコミュニティに入り、他の参加者と目線を揃えながらグループワークにも取り組んでいました。

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<千曲市総合観光会館でおこなわれたグループワーク>

地域外の人材や彼らが所属する地域外の企業等とのイノベーション創出機会として、このような機会を行政自身がどのように関わりを持ち発展させていけるか、今後注目したいと思います。

同様に、広域自治体である長野県においては、今回のイベントを県の「ワーケーションコレクティブインパクト」という企画の中核イベントと位置付け、支援をおこなって来ました。
今後千曲市の取組みで優れた点を参考にしながら、他の市町村の動きをどう支援・サポートしていけるのか。全国の中でも「信州リゾート・テレワーク」という県独自のワーケーションの「ブランド化」に取り組み、各地の個性的なプロジェクトを効果的に推進する成功例と評価されている長野県が、千曲市のチャレンジから何を学び、「信州リゾート・テレワーク」をバージョンアップしていけるか、大いに期待したいと思います。

ここ10年ほどよくいわれる「関係人口」という考え方に関しても、これまでの取組は、本来狙うべき地域の「リピーター」や「コアなファン」の創出にまで、必ずしも到達できていなかったのではないかと考えられるところ、千曲市で育ちつつあるワーケーションをきっかけとした新しい地域内外のコミュニティは、はからずも千曲市にとって価値の高い「関係人口」を生み出しつつあるともいえます。
このようなコミュニティを、地域全体として、既存の地域コミュニティとの分断や軋轢を生じさせない形でどう育てていくか。日本各地で等しく抱える定住人口減の時代において、外部人材との関係性構築による地域課題解決、地方創生という課題に向けての試金石ともなるチャレンジでもあります。

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<ワーケーション参加者と地域住民の交流の様子>

千曲市のチャレンジはまだ始まったばかりです。これからまだまだ紆余曲折もあると思います。壁にぶち当たることもあるかもしれません。それでも、株式会社ふろしきやの田村英彦さんや信州千曲観光局の山崎哲也さん達が、地域の個性的な人材も巻き込みながら成長を続けるコミュニティのこの先に、限りない期待と希望、ワクワクを感じます。
こうして振り返っている今も、あの時にご一緒した方々と千曲市でまた集まりたい気持ちが沸き起こってきます。そして、再び訪れるそのコミュニティでは、きっと前回以上に面白い人たちとの出会いが生まれ、新しい学びや気づきが生まれる。そのような満足感と次への期待感を抱かせる「千曲市ワーケーション」に、皆さんもぜひ参加してみませんか。

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