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やめたいけどやめられない。

『本気でやめたいと思ってる人は、もうやめてる』

深夜3時。
明日、というより今日はサークルの定期発表会がある。わたしはこの夏にサークルを引退した。ずっと、ずっとやめたかった。
今でこそ、入ってよかったと、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ思えてはいるが、この2年半、“サークルやめたい”が頭から離れたことは、まるでなかった。

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わたしは1年の夏からサークルの代表をしていた。
その日は突然やってきた。

夏休み。3年生が引退した初めてのサークルの全体会議の前日、次の会長となる2年生の先輩から、会議の前に話があるので早めにきて欲しいと連絡が入った。

指定された時間に部室にいくと、次の4役の先輩たちがいて、なにやら重々しい空気の中、話し合いをしていた。

なぜその場に呼ばれたのか、わけもわからずそわそわしていると、わたしの同期がもう1人部室に入ってきた。わたしと同期は状況を飲み込めず、お互いの顔を見合わせながら、部室の端で座っていた。

「というわけでね、俺休学することになったんだよね。」

その言葉を聞いてもなお、なぜこの場にいるのか、わたしには理解できなかった。

「で、休学するから会長もできないし、次の会長を選ぶところまでが俺の責任だと思うの。で、会長なんだけど、秋。ちゃんにやってもらおうと思う」

………へ?

今日はじめて呼ばれた名前に、集まる視線。
理解できてないわたしと、目を見開く同期。

「あの…わたしもね、勉強に集中したくて、サークルやめようと思う。副会長は、〇〇くんにやってもらおうかなって。」

急に名前を呼ばれた同期。
わたしと同期は、再び顔をみあわせた。

なるほど。それで呼ばれたのか。

拒否権はなかった。
なにもしない先輩たち。
断ることのできない空間。
なにより、告げられた直後に始まる全体会議で、わけもわからないまま、放り出されたわたしたちに、成す術などなにもなかった。

それから2年半。
わたしと同期は、なんとか戦い続けた。
やめたいとお互い言いながらも、なんとか職務を全うし、夏に引退した。

入学して半年も経たないうちに会長になり、右も左もわからない日々。まとまらない人々。心無い言葉をかけてくる同期。

わたしは毎日限界だった。

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その当時、付き合っていた人がいた。

これが、今思えばとんでもない地雷だった。
今でこそ、友達と笑い話にできているが、当時つけられた傷は、今もまだ生傷として残っている。

そのなかでも特に心に深く残っているのが、冒頭の言葉である。

『本気でやめたいと思っている人は、もうやめてる』

そう吐き捨てられた言葉に、この2年半、わたしは何度泣かされたかわからない。

付き合ってたその人は、東京の大学の2つ上の先輩で、遠距離恋愛だった。

もともと、高校1年生の時に付き合っており、先輩の卒業と同時に別れ、わたしが大学進学したのを機に、先輩から告白され、あまりの猛アタックに再び付き合うことになった。

わたしはその人が大好きだった。
それでも、好きが同じ重さになる瞬間なんて、どんなカップルでもほとんどない。
その人と復縁するときは、確実に先輩の方が重かったはずだった。わたしはその熱に振り回された。

会長になったと告げたとき、先輩はひどく狼狽えた。今思えばわけのわからない話だが、別れ話にまで発展した。しかし、時間が経つにつれ、先輩の熱は冷めていった。

わたしは電話で泣きながら話した。

毎日がつらいこと。
サークルを本気でやめたいこと。

同じくサークルの代表をしていた先輩に、少しでも話を聞いて欲しかった。
付き合っている大好きな人に、少しでも癒して欲しかった。

そんな思いの中、放たれた言葉。
わたしは心底傷ついた。

じゃあ、わたしが毎日泣きながらつらいって話していることを、本当はつらくないと思っているの?

会長という立場。融通のきかないその立場を、やめたくてもやめられないからこそ悩んでいるのに、本気でやめたいと思ってはいないと、そう思っているの?

わたしのことを好きなはずのあなたは、わたしのつらさに歩み寄ることさえしてくれないの?

わたしはひどく傷ついた。

ひどく傷つきながらも、やめるという選択をできないわたしは、それでもサークルをなんとかまとめあげようと試行錯誤した。

どう運営すれば、みんなが居心地のいいサークルになるのか。
どういう働きかけをしたら、みんなが心地よく活動できるのか。

趣味も私生活も、自分のことは二の次に、サークルの環境改善に腐心した。

少しずつ、サークルの雰囲気も良くなり、全体的に、明るさが出てきた。
自分で言うのはおこがましいが、わたしのおかげといっても過言ではないと思う。

それでも心無い同期は、わたしを攻撃し続けた。

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付き合っていた先輩と電話したある夜。
先輩と大きな喧嘩をした。
わたしのやきもちが原因でもあるのだが。

先輩は、わたしと同い年のサークルの後輩や、先輩の一個下(わたしの一個上)の後輩を、2人でよくご飯に連れていってあげていた。

たしかに、後輩ならご飯に連れて行くこともあるだろう。だけど、全て女の子だったのが、わたしの心に影を作った。

それだけではない。
その子たちはだいたい、次期サークルの代表であり、大丈夫かと様子を伺ったり、悩みを聞いたりするために連れていってあげていた。

それがどうしてもわたしは気に食わなかった。
どうして、付き合ってるわたしの話は、やめたいやつはやめてるんだよと切り捨てるくせに、後輩のことは自ら誘ってまで、2人きりでご飯に行くのか、わたしには納得ができなかった。

「なんで?わたしの話は冷たくあしらうのに、後輩の話は、言われなくても聞いてあげるの?」

「いや、だって秋。のサークルのことは俺知らないし。」

「知らないからって、切り捨てることなくない?話聞いてくれるだけでわたしだって助かるのに。」

「聞いてもわかんないから。というか、あいつらも今大変だから。」

「じゃあわたしは大変じゃないっていうの?その子たちがどれくらい大変か知らないけど、彼女が大変なのは見捨てるの?いいよね、先輩のサークルは。ちゃんと引き継ぎもある状態で、恵まれた環境ですんなりあがった挙句、先輩が心配してご飯誘ってくれ…『お前んとこのサークルと一緒にすんなッ』

一瞬。
本当に何を言われたのか理解できなかった。

お前んとこのサークルと一緒にすんな?

わたしが必死で立て直してるサークル。
ここと一緒にしないでほしいの?

わたしが身を粉にして、少しずつ作り直してるサークル。会長として奮闘して、もはやわたしの分身のような、わたしそのもののサークルと一緒にすんなっていってるの?

あなたはそんな風に思っていたの。

わたしの中で何かが弾けた。
堰を切ったように涙が溢れ、なんて言ったかは覚えてないが、初めて必死に抵抗した記憶だけはある。謝られたのも覚えてる。

でも、この言葉以上に傷ついた言葉は、今までの人生の中ではない。

いじめられていたあの日々にかけられた言葉は、もうほとんどうろ覚えであるが、この言葉だけは、未だにフラッシュバックする。

なにもかも手探りで、必死に生きていたわたしそのものを否定するようなその言葉を、わたしのことを好きだと言った、わたしが好きな人の口から聞くなんて、そんなことあっていいのだろうか。

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この先輩は、いまだにわたしの中でトラウマとして残っている。

やめたい人はやめてる。

本当にそうだろうか。

やめる、という選択をとれるのは、強い人間ではないだろうか。

やめられないからこそ、人は悩むのではないのだろうか。

いじめられてる学校をやめられないから、
ブラックな会社をやめられないから、

人はやめられないから、自殺を選んでしまう場合もあるのではないだろうか。

やめない人を、本当はやめたくない、ただのパフォーマンスであると、そう言ってしまうのはあまりに無神経ではないか。

やめるという選択を、誰でもとれると思わないでほしい。

みんながみんな、やめたいときにやめられる、強い人間だと思わないで欲しい。

心底そう思う。

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ここからは完全に余談である。
その後付き合ったのが、すきないろ。( https://note.mu/word_saa/n/n73ff943c19d3 )の男の人である。
その人の話に少しだけ触れさせてほしい。

付き合って、何気なくLINEでサークルの話をしていたときである。わたしが、サークルの人に意味がわからないくらいにいじられるという、他愛もない話をした。

「……楽しい?不安になってきた笑」

そう、返信が来たのである。

もうあと3ヶ月で引退。
わたしの努力も身を結び、卒業した先輩に、部室ってこんなに居心地がいいんだねと言われるくらいに、いいサークルになった。たしかに大変ではあるが、そんな気もなく、何気なく放った言葉に、返って来た言葉。

「え!大丈夫だよ、わたしもうまくやりかえしてるから!笑」

「ならいいんだけど…少し心配だったんだ笑」

なんだか、涙が出そうだった。
嬉しくて、むず痒かった。
心が温かくなるのを感じた。

そのとき、あの2つの言葉が脳裏をよぎった。

ああ、そっか。
わたしは寄り添って欲しかったんだな。

別にわかってくれなくていい。
わかろうとしなくてもいい。
ただ、寄り添って欲しかった。

わからないからと、突き放すのではなく。
わからないけど、大丈夫?と一言聞いて欲しかった。
わからないけど、わからないからこそ、心配にならないのだろうか。

わからないから、知らない。
それは仕方のないことだと思っていた。

でも違った。
わたしだって、わからないからこそ、相手を心配することや、思いやることが多くあった。

わからないから、知らない。
そうじゃなくて。
わからないけど、あなたがつらいならつらいんだね。
それが欲しかったんだな。

結局、あの先輩は、わたしのことを本当に大切にしてくれてはいなかったのだ。

ただ、それだけだった。

やめたい人はとっくにやめている。
そんな心ない言葉を、これから先、誰も聞くことがありませんように。

やめるという、ときには何かを始めるより力を使う行動に、無神経な言葉を投げつける人が少しでも減りますように。

やめたいけど、やめられない。
そんな人に寄り添えるような、優しい世界になりますように。


秋。


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