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わたりどり
あてもなく、ただ遺伝子に導かれ鳥は飛ぶ。
「はやくこの暗い空を抜けなければ」
眠りについたみんなを起こしてしまわないように静かに飛ぶ。
鳥の姿を見たカエルたちが、告げ口するように鳴きわめく。驚いて声が出そうになったが、声を出すわけにはいかない。もし夜食にありつこうとする輩に気付いたならば、痴情のもつれたネコのように乱痴気騒ぎをしなければならなかったから。
「たのむから静かにしてくれ。嫌がらせなら間に合っているし、迷惑だ。だが、友にたいして別れの言葉を送ろうというならば、ひと鳴きだけで十分に伝わるからそうしてくれ」
鳥のことばを聞きとげたのか、カエルたちはひと鳴きだけを送ることにした。彼らの不愛想な顔からは想像もできない友情の示し方に、思わず鳥は目頭が熱くするも、今年の夏はとくに繁殖がうまくいったせいか、結局うるさいままだった。鳥はため息をつくも、そういえば、そこまで器用なやつらではなかったと鼻で笑う。
「ありがとう」
行かなければならないところがあった。その場所は鳥自身にもわからない。しかし、その場所に行けばわかると遺伝子がささやいている。このささやきがはじめて聞こえたときには疑ったりもしたが、いまではすっかり信用していた。ささやきによれば、そこに行かなければならないらしい。それだけだったが、それだけで十分だった。
強い風が体を押し返そうとするも、なんとか前に進んでいく。かえって好都合といわんばかりに、より一層強く羽ばたく。風をいなした体は先ほどよりも高い空へと体を浮き上がらせ、地上で暮らすものたちからはもう姿が見えなくなりそうだった。
はじめは黒い点として見えた鳥の姿も、まもなく空をわたる雲の影と見分けがつけられなくなっていく。それをさみしく思ったが、カエルたちは短いあいだであろうと結んだ友情に思いをはせて、その姿を見送っていった。
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