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三手の読み

 昨年の12月から、ステップジュニアではレッスン以外に毎週日曜日夜に(男女隔週)で約3時間ゲームだけを回していくパワーアップクラスというのを新設しました。プロボクサーの運営費で最も経費がかかるのがスパーリングの相手だと知ったときにピンときたのです。どういうことかというと、練習相手、試合相手というのは費用がかかってでも必要不可欠であり、適切なレベル、階級の人選と人集めが大切で難しいということです。レッスンの中でも、できるだけレベル、性別、年齢などが近い子どうしでヒッティング、マッチ練習は入れるのですが、その種類は限られてしまいます。また、同レベルより上手とのヒッティング、マッチ数を増やす環境を作ることは、レベルアップを効率的に上げる大事な要素です。そこで、パワーアップクラスは、メンバーが大会で負けた相手、部活動チームのエースや先輩などあらゆる保護者の人脈からビジターで選手を呼び込むことにしました。目的はメンバーが勝ち上がらないと対戦できないような上手や、各種タイプの外部生を呼び、経験を積むことなので、ビジター料金は格安設定にしました(テニススクールのビジターは通常メンバーより割高が一般的)

 それを始めて半年ほど経ちましたが、メンバーがどのように試合に負け、どのようなことが今後必要になるのかが明確になりつつあります。また、それぞれの戦略的な感性を知ることになりました。テニスコーチが試合を分析するときは、そのコーチのバックボーンのようなものが大きく関与します。数字好きで、データ分析などが好きなコーチ、選手の心理的な特徴を掴むのが上手いコーチ、空間や角度などを体系化して説明するのが上手いなど様々です。私は将棋が大好きで、テニスと抽象的に似ている部分が多いため、将棋的な観点でみるというのが特徴的なコーチだと思っています。

 テニスと将棋の似ている部分で大きいのが、自分→相手→自分と必ず交互のに打つということです。将棋の棋士ともなれば、3パターンから5パターンを5手先から数十手先まで予測できます。それにプラスして定跡という〇〇だと〇〇みたいなセオリーも数十通り頭に入っています。しかし著名な棋士の多くが大切だといっているのは「三手の読み」という自分→相手→自分の1組だけだという方々が多いのです。羽生善治さんは自分→相手→自分の二手目が最も難しいとおっしゃられています。羽生さんほどの経験のある方でも、今でも二手目が難しくわからないそうです。この概念は将棋やテニスだけでなく、日常の様々な部分でも起こります。例えば会社の経費でメディシンボールを買いたいとします。そのため一手目は「上司に稟議を上げます」二手目は「上司から稟議承諾をもらう」になり三手目は「メディシンボールを購入する」という簡単な三手の読みが出来上がります。しかし、今年は全社的な経費削減を掲げているから、ジュニアのレッスンしか使用しないような道具は来年に回して欲しいと伝えられる。または、水道光熱費の値上がりで、経費予算の総計が予定を上回っているので、他で削減できるなら購入してもいいなどという課題解決承認だったりします。つまり二手目が予想と違うのです。そのため予定していた三手目が打てないのです。こういった事例がテニスや将棋で起こると、いわゆる反応が遅れてしまい、相手に主導権がいったり、どうしていいかわからずフリーズしてしまい、それ以降の全てのことが遅れてしまったりします。

 私はテニスの指導において、この三手の読みの概念を通して指導しています。テニスになると、二手目はおろか一手目、三手目も難しいです。どういうことかというと、相手がコートの端に位置しているので、端のダウンザラインに打つという一手目を考えて実行しても、ポジションや相手からのボールによって、そう簡単にダウンザラインに狙って打つことが難しいのです。仮に一手目が成功して、二手目は相手が走らされて返球がコート中央に短くなると予想しても、これをクロスに切り返されたり、時間を稼ぐロブを打たれて体勢を立て直されたりします。仮にこの二手目も予想通り返球が短くなっても、三手目はコート中央からでは角度がつけにくく打つところを迷ってミスしたりします。よって、練習とは私の中で三手の読みの概念からすると次のような分類がなされます。

①一手目と三手目の反復練習
②一手目の後のポジショニング
③二手目に対する対応

 本記事では、この中の③についてのことを深掘りしていきます。ただ、これからの説明は将棋が例に出てくるため、将棋がわからない人はとばして、最後の文にいっても構いません。

 ③の二手目に対する対応は、セオリー的な部分もありますし、予想外のことも起こり得ます。つまり、ここら辺の対応をざっくりいってしまうと、それぞれの感性とかセンスになってくるでしょう。コーチのよっては喧嘩になってしまうほど意見が真逆であったりするようなことです。ですので正解とかはないと思うのですが、私なりの考えを述べてみます。

 まず、恒例になりつつあるChatGPTの出番です。

将棋は、日本を代表する伝統的なボードゲームの一つで、2人で対局するゲームです。将棋はチェスと同じく、2人のプレイヤーが相手の王将を詰ますことを目的としています。
将棋の駒は、金将、銀将、角行、飛車、歩兵、桂馬、香車、王将、玉将の9種類があり、それぞれに特定の移動方法があります。将棋の特徴は、駒の取った後も相手の駒になることができる「成り」というルールがあることです。将棋は、日本だけでなく世界中で愛されており、プロの棋士による公式戦も開催されています。

ChatGPT

例えば、子供に将棋を教えるとき、ルールや駒の動かし方は説明できるのですが、肝心の王将を詰ますという概念を説明するのがとても難しいのです。そこでまたまたChatGPTさんの出番です。

王将を詰ますとは、相手の王将を取らずに、攻撃によって王将が動けなくなり、次の手番に相手が必ず王将を取られる状態に陥ることを指します。つまり、相手がどのような手を打っても、王将を取られてしまうため、相手が投了をするか、最後まで指し続けて時間切れなどで勝利することになります。
将棋の勝利条件は、相手の王将を詰ますことであり、そのためには相手の駒をうまく取り、自分の駒を組み合わせて攻め上がることが必要です。将棋は、駒の種類や移動方法が複雑で、相手の手を読んで攻撃・防御する思考力が求められるため、王将を詰ますことは簡単ではありません。しかし、プロの将棋棋士たちは、その高度な技術と知識を駆使して、相手の王将を詰ますことを目指して対局します。

ChatGPT

  このように書かれていますが、重要なのは「王将を詰ますことは簡単ではありません」だと思います。これはテニスでいえば計画通りにエースやウィナーでポイントを取るのは簡単ではありませんと同意であると考えてください。トップ棋士の藤井聡太さんや渡辺明さんなどの結果が、現在行われている名人戦でニュースになりますが、あんな風にかっこいい詰ませ方で勝敗をつけれる人というのは限られています。実際はプロの棋士でも負けられない戦いですから、もっと泥臭く、素人に至っては詰ませたのではなく、大概が詰みに気づかずに王手をされて詰まされるといったようなミスで勝負が決まります。これもテニスと同じであることは説明するまでもないと思います。

 では、まず将棋のわかりやすい詰みについて確認してみましょう。
頭金という、相手王将の頭に金を打ち込めば詰む状態です。

 相手としては、王将の頭を何か別の駒で効かさないと詰んでしまいます。この状態を「詰めろ」といいます。例えば王将の横に銀を置けば「受け」といって守ることができます。逆に攻めていくことを「寄せ」といいます。

 相手王将を追い詰めるのですが「詰めろ」とは、何かまだ守る手を打てば詰みを回避できる状態です。ただし「受けなし」といって、何を指しても次で摘んでしまう状態を「必死」といいます。

 将棋にもレベルがあって、ミスで勝敗が決着してしまうようなレベルでは詰ませて「参りました」で勝負が決着しますが、素人でも上級者同士の戦いになると、この「必死」をかける戦術が必要になります。例えばこのような例です。

  ここでは焦って、相手王将の頭に王手をかけてしまうと逃げられてしまいます。そこで、ここではすぐに王手をかけずに、逃げ道を封鎖してしまう必死をかけるのです。

 これで、相手の番になるのですが、ここで自陣の王将が詰まされることがなければ勝ちになります。どちらが先に王将を詰ませるかですから、当たり前ですが自陣の守りも把握しておく必要があります。例えば相手を詰ませる状況にない中で、このような場面であれば逃げなければなりません。

 自陣王将は左側へ逃げます。そうすれば必死を免れることができます。これが将棋の守りです。相手王将に詰みがあるのであれば守る必要はありません。
 あくまで、わかりやすい形で紹介していますので、こんな駒組に現実はならないのですが、上級者同士の戦いというのは、このような「詰めろ」や「必死」といった形の応酬で、王手というのは詰ますのではなく、寄せていくのに相手王将を動かす手でしかありません。将棋にも様々な楽しみ方があり、楽しくやるなら、相手王将をカッコよく詰ませるみたいなことを追求すればいいのですが、プロでなくとも勝たないといけない、負けられない戦いという勝負になってくると、現実的な問題は単純な詰将棋ではなくなってくるのです。

 羽生善治さんのある著書の前書きに次のようなことが書かれていました。

 これまでたくさんの数の将棋の本が出版されてきましたが、それが実際の実戦でどのくらい役立っているのかと思っていました。つまり、本に書かれているのは美しく技が決まる場面ばかりで、それ以外の場面についてはあまり書かれていないのです。ゴルフに例えるならドライバーショットについては書かれているが、バンカーショットは無視されている感じです。将棋はゴルフ以上にバンカーショットが多いゲームです。そこからどのように抜け出すのかがとても重要で、棋力の多く部分をこれが占めている気がしています。

上達するヒント 著者:羽生善治 浅川書房

 これは、ジュニアテニスだけに限った話ではありませんが、よく自分の打ったボールをみて止まってしまうことがあります。もしくは動いたとしても、あれを打って何で下がったんだろうとか、前に出たんだろうみたいなこともあります。その下がった、前に出た、残ったなど正解とか不正解ではなく、それを打って何がしたかったのかということを見ていかないといけません。往々にしてまずい動きがあった後に何をしたかったのか聞くと答えられないのは、そういうことです。そして現実的な話として、エースやウィナーも大事なのですが、それを相手が阻止しようとしている中で、それが現実になることは数多くありません。それが私の目から見ると、詰みがないのに、王将を取るため王手を連発して逃げられる、ミスをしてしまう、次のポジションがまずくなるといったようなことを多く見受けるのです。そこで考えた方としては先に説明したような「詰めろ」や「必死」のかけ方を三手の読みをベースに伝えていきたいのです。ショット練習の多くが「詰めろ」や「必死」のかけ方、守り方に使うためなのですが、現実にゲームを見ていると攻撃では意味のない王手に使ってしまいやられています。一方で守りでは、相手がエースやウィナーを狙って打ってくるボールを必要以上に怖がりすぎています。怖いのは相手からの「詰めろ」や「必死」に気づかないことであり、それに対する受けがないことです。

 こういった私なりの考えから、レッスンでよく伝える格言みたいなものがあります。

強打は攻撃に使うな

そして、この言葉は先輩から頂いた言葉ですが、攻撃したいなら

打てるのに打たない

を使えと言います。逆の見方をすれば、相手が攻撃に強打を使わないといけなくなれば勝ちです。

 ただ、指導の現実問題として伝えることは簡単ですが、伝わることは簡単なことではありません。当然ながらジュニアに将棋の話をしてもわかりませんし、孫子の兵法を説明してもわかりません。適切な環境とツールを駆使して、これらが一人でも多くの人たちに伝わればと日々精進しています。






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