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恐縮ですが、育児中。 《10》 お仕事


かつて「アグネス論争」という、流行語にまでなった事件がありました。

芸能人のアグネス・チャンさんが出産後、TV局に子連れ出勤。これを女性文化人らが「プロとして甘えてる」と批判。それに反論する勢力も出現して、賛否両論の論争となった一件です。

その当否はともかく、仕事と育児や家庭の両立という、現在にも通じる「ライフ・ワーク・バランス」の問題を、日本社会が意識する一つのきっかけにはなったのではないでしょうか。

と、そんな大昔の話をつい思い出してしまうのは、もちろん僕自身がライフワークの間で、綱渡り生活を送っているからにほかなりません。

いやあ人間って、自分がその立場に置かれないとわからないものですね。僕だって子どもを持つまで仕事は仕事、家庭は家庭と割り切れるつもりでした。

けれど相手は生きている人間。24時間、何をしでかすかわからないスリリングな存在です。

「今日だけは休めないという日に限って、朝から子ども発熱!」みたいなピンチ、子を持った方なら一度ならず、経験があるはず。

当方の稼業では、誰かに代わってもらう事のできない場面も多々あります。会場をおさえて前売券を販売してしまったコンサートなど、よほどの事でない限りドタキャンするわけにはいかない。

なので常に「今、子どもに何かあったらアウトだな…と心のどこかで意識せざるをえないわけです。まあ幸運な事に、これまでそういった事態には遭遇しないで済んでおりますが……

ひとり親の生活って、ライフポイントが残り1個になってしまったゲームをプレイし続けているようなものです。「1度でも何かあったらゲームオーバー!」という恐怖が、常につきまといます。

そこで自分なりのリスク・ヘッジというか、セーフティ・ネットとしては、なるべく人とのつながりを絶やさないようにはしています。

保育園や小学校でも、なるべく他の親御さんと交流して、宴会をしたり。

子持ちの友人と積極的に遊んだり、宴会をしたり。

子どものいない仲間の集まりにも自分は子連れで参加して、宴会をしたり。

……ん? それって、ただの宴会好きじゃないのか? と問い詰められれば、ハイその通りですと答えるほかありませんが。

「子育てというドラマ」の登場人物をなるべく多くしておくことで、いざと言う時誰かが助けてくれるんですよね。

とはいえ、子どもだって成長し続けております。

かつては知らない場所に連れていくと、ビビッて当方から離れようとしなかった息子も、このごろ少しは度胸がついてきた様子。

この調子でいけば、アグネスさんのようにライヴの現場に彼を連れていけるようになるのも、遠い事ではないかもしれません。

いや、機材の運搬や、終演後のケーブル巻きなど覚えさせ、無給のアシスタントとして勤労奉仕に動員するのも、あながち夢ではないのではないか?

……と自分に都合良くドス黒い野望を膨らませてみるものの、実際はそんなふうに自立心がついた頃には「オヤジの仕事?カンケーねえし!」なんて言い出して、職場になんか連いてこないとも思いますが。

とりあえず、子どもの行事だ、お迎えだ、門限だ、 二日酔いだ……と何かあるたび無理をきいていただいている周囲の仕事関係の皆様には、感謝にたえません。(※二日酔いは単なる自己責任)

まったくもって、恐縮です!(土下座)


明和電機ジャーナル 第18期 第4号 (2011年11月15日発行) 所収, に加筆

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