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20代で農園の代表に就任した七転八倒の日々

日々がむしゃらに働いて3年、平成15年2月に農場の代表に就任しました。様々な学びの場に出て、経営者として何をすべきかを少しずつ考えるようになりました。学びの時間を創るため、農作業の忙しい中現場を空けることもあり、働くほかの人たちに後ろめたさを感じながらの学びの日々でした。農作業と経営者としてすべき事の両立の難しさから、もういいや、とあきらめそうな時もありましたが、この広島の山の中にお客様を呼び込むためには絶対必要なんだと自分に言い聞かせました。日中の作業の後、夜は経営、観光、マーケティングの本を読み漁り、感銘を受けた内容を手帳に書いて読み返しました。思い浮かんだ気づきも手帳に書きなぐり、寝入りばなに思い付いたアイデアを残すために手帳とペンを片手に眠るのが習慣になっていました。

次第にやるべきことが見えてくる中で、自分が考えている事を他の人に伝え、ともに実践することが一番大変なことだと感じていました。わざわざそんな事しなくていいじゃないか、いいものを作ればそれでいいじゃないか、と言われる事が多かったですが、それだけでは長期的な魅力づくりはできないと説得しました。ただ話をするだけではなく、働く人みんながやりがいを実感できるように、組織の仕組みにも工夫をしました。それまでは働く人たち全員固定給で福利厚生や昇給もほとんどなく、ただ作業をするだけという感覚しかもてない事が多いと感じていました。

農園にお客様が増えて売り上げが伸びれば自分自身の暮らしも豊かにできることを実感できるように、代表として真っ先に導入したのが業績に連動した年3回のボーナスと年一回の研修旅行の実施でした。

 観光農園にたくさんお客様がお見えいただいたら自分たちの暮らしも豊かになる…当たり前のことのように聞こえますが、そういった意識を常に持てるとは限りません。業績に連動した賞与の導入は働く人たちにとってのモチベーションにつながりましたが、実際どういったアクションを起こすことがお客様の喜びにつながることかを共有するのはとても難しいことでした。花畑や農産物の品質向上はもちろんのこと、観光というサービスの分野においてもお客様に楽しんでもらうためにはどうしたらいいのか、代表の自分と従業員の年齢差や立場の違いからくる意見の食い違いはしょっちゅうありました。アイデアを出し合いながら意見交換できるのはいいほうで、そんなことはせんでええ、これだけやっておけば問題ない、といった否定や断定と日々向き合っては自分の考えが間違っているんじゃないかと悩むこともたくさんありました。

 みんなが同じ方向を向いて仕事をすることの大事さから、会社の存在意義を明文化し経営理念のもとに仕事をし、前向きな意識をもって将来を考えるきっかけになるよう、中長期の経営計画を立てようと決意しました。

 しかし、折しも消費税の値上げの対策や、観光農園の入込みが下がりはしないまでも伸び悩んでいる時期で、従業員の顔色を伺ったり全員の意識の共有ばかり気にする内向きの思考になるより、お客様のことを考えて一気呵成にアクションを起こそうと考えるようにもなりました。花の観光農園をアップデートする、そういう思いで多額の借り入れをし、花畑の拡張、きれいなトイレの建設、新しい季節の花の導入、入園料の値上げ、果ては社名の変更まで立て続けに実行しました。働き始めてからずっと持っている自分の仕事の原動力になっている強い思いを経営者として初めてかたちにしたという実感を持ちました。

 旭鷹農園から世羅高原農場へ。創業から慣れ親しんだ名前から、お客様に慣れ親しんでもらい世羅を代表する観光農園になるために

 社名変更の際、新しい農園の名前には世羅の地名を入れたいという強い思いがありました。私自身の仕事を続けていく際のモチベーションとして、そして世羅の地域でしか実現できないものでお客様とつながっていくことが農場の継続的な発展につながるという確信があったからです。具体的なことは次回以降でお話をしたいと思いますが、花畑や農産物を作るときに私はいろいろな角度から物事を見つめ、できるだけわかりやすい形でお客様に提案していくことを心がけています。

 地域固有の資源を活用し、自分たちにできることをコツコツ積み上げていき自信をもってお客様に提案する商品・サービスいわばプロダクトアウトの思考、それに対してまだ来たことのない人や既存のお客様が考えていること、お客様が求めているものを把握しニーズに合った農産物の生産販売方法や花畑の作りこみをして満足度を高めていくマーケットインの発想、この二つの思考のせめぎ合いによっていいものが生み出せると考えています。

 いちばん悪いのは何もしないこと、言い訳に終始し物事に対して正面を向かないことだと考えています。思案を巡らせることも大事ですが、まずはやってみるというチャレンジ精神が突破口につながる経験もたくさんしました。やってみて成功や失敗を経験しそこで初めて見えてくるものがあるからです。成功すればよかった原因を分析しそれを伸びしろにすればいいし、失敗したらなにが原因だったのか反省し、対策が出来上がるし、コテンパンになったら潔くあきらめて次のチャレンジのために頭を切り替えることができます。

 いろいろな思考の末の決断が求められていますが二つの思考と合わせて、お客様自身が気づいていない未充足のニーズや期待をいち早く発見して観光農園のサービスとしてお客様に提案する、予想や期待を越えるわくわくする仕掛けを生み出す革新的な事業アイデア、イノベーションが地方の農業や観光にも求められているとひしひしと感じています。

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