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生きるチカラ-ダンサー・イン・ザ・ダーク-

少し前の記事にいただいた「星の王子さま」を引用したコメント。
あれから気になっていて、「星の王子さま」を読み返そうとAmazonで新書を購入した。

昔、母の本棚にあったモノクロのハードカバーで読んだことがある。
ほんの、ほんの小さな頃のことだったので、あまり内容は憶えていない。
不思議な話で、どこか不気味な感じもした。
もう一度読み直して、この感想はまた後日書いてみたい。

「星の王子さま」を購入する際に、AmazonでいくつかDVDを物色していて、「エターナル・サンシャイン」を買おうかと思ったけれどまだ発売されておらず、ふと思いついて「スノーマン」を買った。
かつて誰かに借りて見たのだけれど、かねがね傍らに置いておきたいと思っていた作品だったので。

どうしてこうも童話づいているのか、その訳は自分でも分からない。
でも自問の余地もなく、そもそも私は童話が好きなのだ。
子どもの頃から好きで、今もずっと好き。
「懐かしい」とか「童心に帰る」というようにノスタルジーとして好きだというよりは、本質的にそういった世界観が好きで、ある意味、人生の一部としてそれは私の中に存在していると言った方がいい。

私は、それが子どもだけのものとは思わない。
「童話」という言葉の響きに偽りがあるような気さえする。

「スノーマン」は、かつて少しだけこのブログでも触れたことがある。
まったく台詞のないアニメーションで、非常に印象的なテーマソングが日本でもCMに使われて有名になった。

ある少年が朝目覚めると家の外に一面の雪が積もっていて、彼は喜んで雪だるまを作る。
帽子とマフラーをつけた雪だるまは、深夜になると動き出し、少年を連れて夜空を飛ぶ。
再び朝が訪れると、雪だるまは溶けている。

溶けきった雪だるまの残骸の前で、うなだれて膝をつく少年。
ガウンのポケットには、彼がスノーマンと遊んだ一夜を証明するプレゼントが残っている。

エンドロール。

それが夢であろうとなかろうと、少年はスノーマンに出逢った。

夢という事象について考えるにつけ、それもまた命の一部であることを私は否定できないと思う。
夢ばかり見ていることは非難されがちかもしれないし、「この世にはないもの」を拠りどころにすることは子どもじみているかもしれない。
でも、夢もまた子どもだけの所有物ではないと思う。

胸に湧き起こる感情だけは、どこの誰にも奪えない、自分だけの宝だ。
それを表現するのがうまい人とそうでない人がいるし、他人に知ってもらうのが好きな人と好きではない人がいる。
誰にでも知って欲しいわけではなくて、知ってもらいたい人の前でだけ素直になれることもある。

でも、いつなんどき誰にとっても、その感情を否定する必要は微塵もない。

物事は全て捉えようなのだと思う。
夢でも空想でも芝居でも勘違いでも、その瞬間その瞬間にそれがその胸に幸せをもたらすなら、切なさを呼び起こすなら、哀しみで襲うなら、それは全部全部、本当のことだと私は思う。

大切なことは、事実ではなく真実なのだから。

そういう観点でもって見ると、賛否両論のある映画「ダンサー・イン・ザ・ダーク」は、ある女性の心の目で捉えた世界の真実を、鮮やかに描ききった傑作だと私は解釈している。

よく、この作品を「暗い」とか「悲しすぎる」いう人がいるのだけれど、私は全くそう思わない。
主人公の身に起きる出来事は確かに不幸であるとは言える。
目が見えなくなって仕事を解雇され、友人に裏切られ殺人犯に仕立てられ、無実なのに投獄されて死刑にまでなってしまうのだから。
それは確かにひどい。

また、この作品が「母の愛の崇高さ」を描いているという人がいるのだけれど、それも見当違いだと私は思う。
確かに主人公は自分と同じように目が見えなくなる病気の息子のために、自分の弁護士費用を使ってくれと頼んで、その結果自分が死刑になってしまうんだけれども。
それは確かに母親ならではの愛情だと思う。

でも、私は違うと思う。
それらがこの映画のメインテーマなら、数々の能天気なミュージカルシーンの意味は何だろう。
色褪せてブレるハンドカメラの映像が、突然に切り替わり、目の醒める鮮烈な世界と豊かな音楽、こぼれんばかりの登場人物たちの笑顔で満たされる、あの演出の意味は何だろう。

あの「救いようがない不幸」は、ある意味では彼女自身がイマジネーションによって「救った」んじゃないか。
私はそう思う。

人生には辛いこともあるけれど、理不尽で打ちひしがれるようなこともあるけれど、でもそれを救うのは誰?

物事は解釈しだいでは善意さえ悪意になるし、無意識が啓示のようになることもある。
優しい人たちの言葉も、あたたかい抱擁も、心を込めたキスも、それを受け止める自分自身の心次第で毒にも薬にもなる。

幸せにもし、不幸にもする。
突き落としもし、救い出しもする。

そこにおいて、手段などなんでもいい。
夢でも空想でも芝居でも勘違いでも、なんでもいい。

「ダンサー・イン・ザ・ダーク」。
これほど、映画館で号泣してしまった映画は、後にも先にもない。
ミュージカルシーンに切り替わるたび、条件反射的に泣けてくる。

彼女はどんな過酷な状況にあっても、死ぬまで幸せだった。
何よりも自分自身によって。
絶対に間違いない。

それだけは誰にも奪えない。

泣いてしまったのは、悲しいからじゃない。
主人公の世界のリズムを感じとる才能に、生きるチカラを感じたからに他ならない。

もちろんそれは、もはや子どもの所作ではない。

童話が心に与えるものからも、決して目を逸らさない、自分の感情を裏切らない生き方をしたいななんて、「スノーマン」を観てなんとなく「ダンサー・イン・ザ・ダーク」を思い出した。


ダンサー・イン・ザ・ダーク Dancer in The Dark(2000年・デンマーク)
監督:ラース・フォン・トリアー
出演:ビョーク、カトリーヌ・ドヌーヴ、デイヴィッド・モース他

■2005/8/27投稿の記事
昔のブログの記事を少しずつお引越ししていきます。

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