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【教育】教師の職能を問い直す ~学びの補助輪を外すために~

こんばんはー!20代の高校教師わやです。

今日は、今年度発足した「きょうしlab」という有志の自主研究会の年度末報告書を作成したので、それをほぼそのまま載せようと思います!補助金も出ていて、本当は外部に視察に行ったりとか、たくさん計画してたんですが、コロナですべてパアになりました。そこでいろいろ本読んで実践に生かそうぜみたいに計画変更し、ドタバタの報告書作成となりました。気張ったものではないですが、残しておけばまた見る機会もあるだろうと思うので、投稿しておきます。


1.はじめに


Society5.0やAI×データ時代と呼ばれる「これからの社会」で活躍できる人材を育成するために、現状の学校教育は十分に機能していると言えるだろうか。奇しくも今年度は新型コロナウイルス感染症(以下コロナウイルス)によって、学校教育の在り方が問い直された。コロナウイルスをきっかけに、大きく変化が広がるのか、元の姿に戻るのかは、「きょうしlab」のメンバーを始めとする「これからの社会」に目を向けている教員の手にかかっている。教員は前例踏襲主義、変化を嫌うとはよく言われるが、目的地が変わっているのに、舵を取らず進路を変更しないのはおかしなことだ。航海の目的は、船を進めることではなく目的地にたどり着くことだ。学校教育でも同じことが言える。生徒の乗る船を遭難させないために、小さくてもできることを行ったので、ここに報告したい。

2.背景

 2-1:学校の現状
今年度当初に猛威を振るったコロナウイルスにより、本校は4~5月末までの休校措置がとられた。周囲の教師にとっては、これまで当たり前に行われてきた「トーク&チョーク」が奪われ、四苦八苦の日々であったと感じる。教師の大半がとった対応策は、問題集をコピー、配布し自習させることであった。しかし、今回の休校騒動は、学校教育を一歩前に推し進める荒療治になったとも言える。誰しもが「今のやり方で良いのか?」と自分に問いかけるきっかけになった。

 2-1:社会の現状
2021年2月現在、我々を取り巻く生活は10年前とは比較にならないほど変化している。2011年の東日本大震災は記憶に新しいが、その当時と比較すると、5Gの実現、キャッシュレス決済の普及、IoT(Internet of Things、モノのインターネット)デバイスの普及など、あらゆる技術革新が生活基盤に浸透しつつある(2020,総務省)。また、現代社会は物質的不満が解消されており、あらゆる生活インフラが整っている。このような社会においては、例えば「早く移動したい」や「美味しいご飯が食べたい」というような生活上の問題はもはや無くなり、私たちは精神的な豊かさを追い求めるようになっている。精神的な豊かさは個人の価値観によって感じ方が異なるため、画一的、没個性的な教育から生み出されるものではない。山口周(2019)は、「私たちは「モノが過剰で、意味が希少な時代」を生きています。「モノ」がその過剰さゆえに価値を減殺させる一方で、「意味」がその希少さゆえに価値を持つというのが21世紀という時代です。」(p.23)と述べている。ここで言う「意味」を作り出せる人材が、これからの社会に求められ、なおかつ精神的な豊かさを手に入れられると考えている。

3.活用した書籍


以上を踏まえ、今年度の教育実践の参考にするために、以下の書籍を購入し、知識のインプットと、実際の取り組みに活かした。
『4時間のエクセル仕事は20秒で終わる』(寺澤伸洋)
『AさせたいならBと言え』(岩下修)
『FUTURE EDUCATION!』(教育新聞社)
『教えない授業 美術館発、「正解のない問い」に挑む力の育て方』(鈴木有紀)
『「自分だけの答えが見つかる」13歳からのアート思考』(末永幸歩)
『子どもが「学び合う」オンライン授業!』(西川純)
『「ついやってしまう」体験の作り方』(玉樹真一郎)
『ビジネスの未来 エコノミーにヒューマニティを取り戻す』(山口周)
『みんなで取り組む『学び合い』入門』(西川純)

4.実践報告


 4-1:情報のインプット
上記の書籍の内、『FUTURE EDUCATION!』『ビジネスの未来 エコノミーにヒューマニティを取り戻す』は自分自身の価値観のアップデートのために用いた。
『FUTURE EDUCATION!』は「学校をイノベーションする14の教育論」というテーマで、16名の著者が、それぞれの観点で「答えのない時代」の教育について語った一冊である。印象的であったのは、ブレイディみかこ氏の「誰かの靴を履いてみる」ことが、自分とは違う立場の人が何を考えているのか、その人の考えや感情を想像する能力(エンパシー)につながるという話だ。一斉講義型の授業から、生徒主体の授業へと移行するのであれば、生徒同士がお互いの立場を理解し、多様性を認めながら活動する必要がある。その際に参考になる考え方である。
『ビジネスの未来 エコノミーにヒューマニティを取り戻す』は一見ビジネスのための書籍のように見えるが、そうではない。コロナウイルスを契機として、私たちはどこに向かうべきなのか、大局的に日本を捉えている。例えば、日常生活の中には必要性も合理性もない常識や習慣が存在する。例えば、「会社に通って仕事をする」ことだ。このような疑うことなく実行していたライフスタイルに価値がないと気付いてしまった世界を元に戻すというのは、ダメだった過去の、もっとダメな再現にしかならず、これから必要なのは、コロナ後の世界をどのように構想するかである。このような前例のない世界では、やはり従来以前の言われたことを、言われたとおりにこなす受け身の教育では、社会を生き抜くのは難しいと分かる。

 4-2:具体的実践
その他の書籍を参考に、主に2つの実践を行った。①オンライン朝の会・自習室・授業、②学校再開後の授業である。どちらも目的は「生徒がつながり、自分で考え、判断し、行動する」ことである。

 4-2-①:オンライン朝の会・自習室・授業
休校期間中に実施した。オンライン朝の会では、担任する3年生41名を対象に、任意参加で行った。平日毎朝8:30(本来のSHR開始時間)にZOOMを用い、オンラインで教室を作成し、開始時間の前後で生徒は自らのデバイスを通じて参加した。担任からの連絡事項と、生徒同士が関わる時間を設け、短時間交流することができた(図1)。

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図1 ある日のSHRのアウトライン
生徒の中には、「このSHRがあるから生活リズムの乱れがマシになった」「友達と話せて良かった」などの意見もあり、一定の成果が得られたと考えられる。
 オンライン授業では、受験科目であり、教科書を進める必要のある専門生物で実施した。毎時間生徒同士が話し合うテーマを設定し、ZOOMを用いて行った。ブレイクアウトセッションという、ZOOM内の機能を用いて、ランダムなグループを作成しグループ間で話し合いの場を設けた。学校再開以降の話し合い活動にもスムーズに移行できるきっかけとなった。

 4-2-②:学校再開後の授業
上越教育大学の西川純教授が提唱する『学び合い』を軸に授業に取り組んだ。全員達成を目標に、学力差のある生徒間での教え合いや、集団形成を通してつながりをつくるなど、一人では完結しない学びを繰り返し経験することで、教科の学力だけでなく、「これからの社会」を生き抜く力を身に付けてほしいと考えている。
 書籍を通じて、アート思考、「自分ごと」として考える対話型授業、生徒の行動を促す言葉がけなどを試みた。アート思考を組み入れた取り組みとして、生徒間の「観る」の違いを表現させた。教科書の文章から「イラストで説明せよ」という課題を作成した。全員が持っている教科書は当然同一の物であり、また当然課題も同一であるが、それを説明するために書かれたイラストは全員異なる結果となった。同じ物を「見て」も、同じ物を「観て」いるとは限らないと言うことが分かった。その後お互いが課題に対して説明する際には、自分以外のイラストを見ることができ、「なぜその部分を強調したのか?」「なぜその部分は描かなかったのか?」など、お互いの価値観に触れながら活動することができた。多様性に気付き、認めることにも繋がるのではないかと考えられる。
「自分ごと」として考える対話型授業としては、生物基礎の分野である「体内環境の調節」で、「人が汗をかいたり、顔が赤くなるのはどんな時か?どのようなメカニズムで起こっているのか?」という、実生活との関連を意識した問いかけを行うことで、今、自分に起こっていることを考えさせた。
 生徒の行動を促す言葉がけは、授業の中で多用している「3人に説明せよ」という課題をアレンジしたものである。「説明せよ」では、自分が作った説明に自信のない生徒は行動しにくい。そこで、「3人から説明を聴きなさい」にアレンジした。聴くハードルは話すハードルと比べると非常に低いため、この問いかけでは心理的安全が得やすいのではないかと考えた。実際に、そのような問いかけの日には、普段よりも生徒の動きが活発であったように思う。

5.まとめ


以上、些細ではあるが、今年度実施した取り組みについて述べた。どの実践についても、教師はあくまで生徒同士をつなぐきっかけにすぎない。教師の職能は、1時間飽きさせずに講義を聴かせるに止まってはならない。場をデザインし、主体性を引き出し、これからの社会を力強く歩んでいけるようサポートするのが教師である。そういう意味では、私たち教師はあくまで自転車の補助輪のような役割とも言える。主体は生徒である。そして、卒業までにはその補助輪が外れることが理想ではないかと考えている。そのときに生徒を支えるのは、私たち教師ではなく、横を一緒に走っている仲間のつながりである。

6.参考文献


総務省『令和2年「情報通信に関する現状報告」』https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r02/summary/summary01.pdf(2021年2月24日閲覧)
山口周(2019)『ニュータイプの時代』ダイヤモンド社

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