男性が育児休業を取得できない原因は、会社ではなく個人の意志にある。
数年前、待望の第一子が産まれることになった。
夫婦共働きの2人家族(そういえば近頃はDINKSという言葉を聞かなくなりましたね)、お互いの両親が遠方に住んでいることや、里帰り出産が難しい環境であったことから、
夫婦ともに出産後の産休・育休を取って、母体の回復や子育ての時間をつくることにした。
当時の社会情勢は、男性の育休取得率の公表が決まり、産後パパ育休のニュースが飛び交い、
取得する男性側は若年層を中心に取得意欲の高まりを見せながら、取得率・取得期間が低調なころであった。
育児休業することを友人に話すと、ほぼほぼ「いい会社だね」「理解があるね、おれも取りたかったよ」と言われる。
私は「何を言ってるんだろう…」と思い、ときにはそのまま伝えていた。
育児休業は会社の制度ではなく、国の制度である。
会社がいいのではなく、国がいいのだ。
日本は世界でもトップクラスに長い期間、夫婦が同時に同期間の育児休業を取得することができ、世界で最も長く育児休業給付金を受け取ることができる国である。
父(夫)が取得できる育休日数が、母(妻)が取得できる日数よりも短い国や、
育児休業給付金を取得できる日数が、育児休業の期間よりも短い国なども多くある。
ユニセフの調査でも、育児休業制度においては世界1位になった(OECDまたはEU加盟41カ国中)。
政府に「取得率を公表しまーす(^^」と言われるまで力を入れてこなかった会社が、なぜ「いい会社」なのか私には理解できない。
さすがに今の時代はいないと思うが、
「会社を休んで、しかも金までもらってズルイよなあー!おれもそうしたいよ!」
という絶滅危惧種に出会うこともあるだろう。
知識がないとは実に恐ろしいことである。
ふだん「税金が高すぎる!なんだこのナントカ保険料は!」と怒るなら、制度を利用して、保険金(育児休業給付金)を得ればいいだけだ。
育児休業給付金は会社から支払われるわけではなく、雇用保険(広義の社会保険)から支払われている。(それどころか会社にも国から助成金が支給されている)
一般的な「保険」であれば、怪我や事故があれば支払いを受けて当然と考える方も多いだろう。
毎月天引きされている保険なのだから、私なんぞは利用しなければ払い損に感じてしまうのだが。
この辺りの話をすると、だいたいがその後は「仕事が忙しい、職場に迷惑をかけられない」と言うが、
「家事・育児が忙しい、妻・家庭に迷惑をかける」ことを、
なぜ良しとするのか、到底理解することはできない。
なにも「労働者の権利だ!」と声高にさけび、育児休業を取得する必要はない。
妻と子のために、淡々と手続きをすればよいのだ。
取得するかしないかは、個人の意志だ。
「私と仕事、どっちが大事なの!?」と言われなければ、気がつかないのだろうか。
実際、私(夫婦での子育て)を取るか、仕事(妻ひとりの子育て)を取るかによって、妻から夫への愛情に差が出てくる「女性の愛情曲線調査」がある。
また妻ほどではないが、夫も妻への愛情が下がる傾向にあり、産後に夫婦仲が悪化する「産後クライシス(危機)」と呼ばれる問題を聞いたことはないだろうか。
産後2年間は愛情が下がり続け、離婚が最も多い時期と重なる(子どもがいる夫婦の場合、末子が0歳~2歳)。
育休を取れない会社では、有給も取れないだろう。
会社の業務量と、人員の稼働量が釣り合わない経営だろうか。
低単価で仕事を回すから、人員を増やすこともできず、サービス残業が横行する。
そんな会社に、何の愛着があるのでしょうか。
妻と子よりも、愛する存在でしょうか。
90%以上の会社は、10年後には存在しない。
という話は嘘のようで、創業10年ほどでなくなるのは30%。70%は存続しているようだ。
一方で、転職経験者も70%ほど。
いまの会社が存続している確率と、あなたが別の会社にいる確率は同じだ。
そのとき家庭は存続しているだろうか。離婚率も30%。
多くの男性(自称パパ、お父さん)が優先順位のつけ方を間違えている、と私は思う。
産後0日目から育児休業を取って、子育てをしてわかったことは多く、
まず母体(妻)の体力・気力がゼロになる。無。
寝ても回復しない、食べても回復しない、無。ゼロに何をかけても、足してもゼロ。
「出産は交通事故にあうようなものです」と聞いていた通り、出産のときだけではなく、
その後の入院、体調変化、容態急変などなどによって、心身ともにボロボロ。
そこに加え、病院によっては出産直後から赤子同室で24時間の育児がはじまる。
寝たくても休みたくても、3時間おきに授乳→おむつ替え→寝かしつけをしなければならない。
3時間おきと書くが、それらが10分で終わるわけではなく、1-2時間かかわることもある。そうすれば母親の睡眠時間は1時間になる。
何をしても泣き続けて寝てくれず、親も眠れず、そのまま次の授乳の時間になることもある。
抱っこで泣き止んで「やれやれ…」とおろそうとすると、また泣き出すことや、
ようやく抱っこで寝かしつけができて、ベッドに移したその瞬間に起きる「背中スイッチ」など、
あらゆるLOVEが睡眠時間を奪ってくれる。
1時間寝て、2時間育児、1時間寝て、2時間育児、1時間寝て、2時間育児・・・。このエンドレスイクジが少なくとも30日は続く。
退院してからの日々は、周りに大人(医師、看護師、助産師など)がいない分、余計にしんどい。
最も過酷な拷問は、寝かせないことだそうだ。
あえて書くが、赤子の育児は拷問である。寝れない。あやうく寝てしまうと「子どもは大丈夫か!」と焦る。
生きているか不安になる。呼吸をしていて安心する。それの繰り返しが数か月続く。
子どもによっては夜中になると寝つづける良い子もいるようだが、
生後3~4ヵ月ごろまでは、寝ていても3~4時間おきに起こして授乳かミルクをあげることが多い。
赤子の胃袋はたいへん小さく、ちょこちょこ食事を取る必要があるのだ。めっちゃ成長する時期でもある。
自らの体力と引き換えにしてでも、きちんと栄養を取らせたい親心がはたらく。
育児休業(産後パパ育休)を取らない方の中には、30日目までのサイクル(1時間睡眠・2時間育児)について
「合計すれば1日8時間睡眠もとれていて、うらやましい」とか「かわいい赤ちゃんと一緒にいられて、しあわせだよな」と誤解される方もいる。
まず1時間ずつの細切れ睡眠を取ってみて欲しい。地獄である。
さらに、この睡眠時間=自分の時間だが、調理・食事・買い物・風呂・掃除・休憩など一切含まれていない。
そして労働時間は1日16時間、すべて育児である。
さて、この状況で大人1名が生き延びる術はあるのだろうか。
調理時間も気力もないため、体力回復すべき時期に栄養が不足する。
生後1か月経つまで、母子ともに外出は控えるように言われている。体力が衰えていることや、抵抗力が弱いことが要因だったと思う。
つまり買い物に行けない。食料はおろか、赤子のおむつやお尻拭きシート、ミルク、衣類、洗剤なども買えない。ネットスーパーに注文している時間も気力も体力もない。
どう考えても、大人1人で子どもを育てることは難しい。
もしやるとしたら(やらせるとしたら)、それはHPゼロの人に、毎日ダメージを与え続けることと同じだ。
私は育児休業を取得して、大人2名体制で臨んだが、それでも人手不足は否めなかった。
退院して自宅に母子が帰ってきてから1週間ほどは、妻の母も応援に駆けつけてくれたことは、とても救いであった。
生涯を通して、生後1ヵ月ごろまでが最も成長する時期だと思う。
わずかひと月で身長は10%(5cm)も伸び、体重は30%(1kg)も増える。
「あれ、デカくなってない?」「気のせいでしょ」「いやいや、デカくなってるし、重くなってるよ」と感じる時期である。
すやすや気持ちよさそうに天使の笑顔で寝ていたかと思うと、
突然発狂したかのように泣き叫んで起きることもある。
「怖い夢を見たのかしら、うふふ」なんて言ってられやしない。ご近所トラブルになりかねないボリュームだ。
10ヵ月(280日)お腹の中にいたのだから、1ヵ月やそこらで外の世界に慣れる方が無理な話であることはわかる。
にしても、そんなに叫ばなくても…とあやしながら毎回思ったものだ。
一緒に暮らす時間が増えていくにつれ、泣く理由も少しずつわかるようになってきて、不思議とコミュニケーションがとれるようになっていく。
笑ったように見えることや、喜んだとわかるようになること、授乳やミルクのあとの安らかな表情、ひとつ一つのことが愛おしくなる。
すべての男性が育児休業を取得できるわけではない。
給付金には上限額があるし、各家庭に事情はあるし、個人事業主には制度適用自体がされない。
ただ、女性と同水準の取得率80%は可能ではないのだろうか。
そして取得期間において男性が女性を超えたとき、はじめて「男性の育児参加」を社会全体が実感できるのかもしれない。
しあわせとたいへんさを夫婦で分かちあいながら、
0歳のこどもと愛着形成(アタッチメント・ペアレンティング)ができたことで、その後の育児が楽になったところも多くあり、この時期に子どもと真剣に向き合うことがとても良いことを実感した。
国立成育医療研究センターによれば、乳児期における父親の育児参加が、思春期を迎えた子どものメンタルヘルスの不調を減らす可能性があるとされている。
子育てと妻の身体を労わること、そのために育児休業を選べるのは、夫の意志ひとつである。
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