家族留学がコロナでめちゃくちゃ 第1話 夫婦で目指し始めた留学
前話までのまとめ
第0話では、コロナ禍でのオーストラリア留学の現状と今後の展望にほとんどの紙面を割いた。ざっくりまとめると、2021年7月現在学生ビザでは渡豪できないが、ようやく4段階の国境再開プランが発表された。ワクチン接種の迅速な進展を願いつつ、この流れで年内には念願の渡豪を叶え、現地での家族留学を仕切り直したいという内容だ。
第1話からは、私たち夫婦がそんな現状に至るまでの数年越しの経緯を順に振り返りながら、留学斡旋サイトなどではなかなか紹介されていない、かなり個人的で偏った留学ノウハウをお伝えしていこうと思う。
野生動物の過酷な現状とケアラーの献身
夫にとって、もともとオーストラリアは出張先の一つでしかなかったが、行くたびに次第にその広大さやおおらかな人柄に惹かれていった。
妻にとって、数日間の夫の出張に合流してプチ夫婦旅行をしたことが、初めてのオーストラリア経験となった。
やがて二人はオーストラリアの自然の魅力に取りつかれ、さほど貯まっていない貯金を何とかやりくりしてしばしばオーストラリア旅行をするまでになった。いったん興味を持ちだすと、それまでの人生で忘れていた小さなオーストラリアたちを少しづつ思い出す。「子供のころの英会話の先生、オーストラリア人だったな」「高校の先輩、オーストラリアで日本語の先生になると言って留学したきり連絡が途絶えたんだったな……」
旅行先は観光地ではない。都市部はスルーし、短い旅程で可能な限り人の赴かない場所へ近づいていく。森林、河川、荒野。無垢の大自然の中で野営し、自然観察に没頭する。しかし、原生林が残っているような地域でも、人間の経済活動の影響がじわじわと影を落とし、ハイウェイの敷設によって森が分断されたり交通事故が発生したりといった厳しい現状も目の当たりにせざるを得なかった。
野生動物のケアラーをしている方々と交流するうちに、いつか数日間の旅行ではなく「オーストラリアで動物保護に献身する生活を経験したい」と思うようになった。あり得ない選択肢ではなかった。というのも、この時点で夫は年齢的に超過してしまっていたが、妻はまだワーキングホリデービザに申請できたのだ。あるいはTAFEで動物保護に関係する勉強をすることはできないだろうか。妻のワーホリもしくは留学の計画は、仕事、予算、日程などの面から何度も検討し、かなり本気で練り上げていくことになった。
見て見ぬふりをしてきた「英検一級のもっと上」
一方、夫はずっと英語教育関係の仕事をしていて一応プロレベルを自負していたが、いつかよりレベルの高い語学力へ挑戦したいと思っていた。そんなとき、知人が「オーストラリアで日本語教師」という夢を叶えるため修士留学したという知らせを聞いた。正直「やりやがったな」と思った。驚いたのは知人の語学力の鬼のような向上だった。オーストラリアの教育系修士に進学できるということは、難関であるIELTS 8.0という壁を、彼が超えたということだ。これがどういう意味の話なのか、先々執筆する内容とも関わるので少し詳しく紹介したい。
IELTS(アイエルツ)とは英語試験の一種で、留学や移住のための英語力判断基準として世界中で広く用いられている。仮に高校卒業後にオーストラリアの大学(学部)に留学したい場合、おおむねIELTS 6.0前後を目指すことになる。これでも日本の高校生にはなかなか難しく、付属語学学校から入るということが珍しくない。文部科学省がまとめた対照表によれば、IELTS 6.0というのは英検でいうと準一級の中位~上位合格くらいに当たる。
それに対して、オーストラリアの大学院、特に医療系や教育系などネイティブに近い英語力が必要となるコースでは、7.5などのさらに高いスコアが求められる。英検との比較で言えば一級の最低ラインがIELTS 7.0相当だ。「一級にぎりぎり合格した」程度の英語力ではとても届かない。受験方式の違いによる難しさを考慮すればなおさらだ。英検(従来型)は筆記で一次合格になってから最大3回スピーキングにチャレンジできるが、IELTSは全てを一度に受験する一発勝負型の試験だからだ。
知人の話に戻ろう。彼が進学した教育系修士は、スピーキングとリスニングの技能スコアが各最低8.0、リーディングとライティングの技能スコアが各最低7.0、オーバーオールスコアが最低7.5というとんでもない基準を課している。これはオーストラリアで非英語話者が教職に就く際に必ず求められる水準であり、それに準じて大学院でも入学時点で同じ英語力を求めるところが大多数だ。知人が進学したのもそういった大学院だった。帰国子女でもない限り日本人が苦労するのはスピーキングとライティングだ。ライティングの7.0はトレーニングを積めばいけるかもと思ったが、スピーキングの8.0は超人的な点数だ(たいていのトピックをノーミスで喋れるという程度では6.0から上に行けない)。さらに、帰国子女でも何でもない知人がスピーキングで8.0を取ったということは、リスニングやリーディングでは満点の9.0に接近し、ライティングも基準である7.0を上回っていた可能性が高い。すると、オーバーオールで8.5など取っていたことだってありうる。だとすれば、上記の表にある通り英検その他軒並みの英語試験の「測定範囲外へ飛んで行った」ことになる。
一方、筆者(夫)の英語力は実際どうだったかと言えば、まさに「業務に支障がない程度のコミュニケーション力」をキープしていたにすぎなかった。仕事の関係で昔一度だけIELTSを受験したが、そのときのスピーキング点数が6.5だった。それから数年、特別にトレーニングしてきたわけでもないから、再び受験しても同程度か悪くすると下がっているだろうと思われた。大学のころに英検一級は取ったし、TOEICも満点近くを取ったものの、これらはプロの世界では入り口に過ぎないことを知りながらさらに上を目指そうとはしてこなかった。実務の方が大切だし、業務で円滑にコミュニケーションが取れていることの方が意味があることのように思われた。それはそれで正しいのだろうが、しかし知人は臆さずその上へ進んでいき、本当に高いレベルの語学力でなければ作れない価値を生み出すべく、海外での教育というフロンティアへ飛び込んでいったのだ。自分にも同じことができるだろうか。語学試験だけでなく、その先まで含めて。
憧れから計画へ
夫婦はそれぞれの理由で、オーストラリア留学への憧れを膨らませていった。二人が一緒に同じ目標を持つとなると話は早い。夫の大学院留学と妻のワーホリを組み合わせるのがよいだろうか。学生ビザとその家族ビザという形であればワーホリとはまた違う在留制限でいろいろな経験ができるだろうか。そもそも夫は果たしてIELTSの目標点数をクリアできるのか。妻の英語力は十分だろうか。資金は足りるだろうか。仕事はどうしようか。
しかし夫婦でオーストラリア留学をしたいという目標は決まった。はっきりと目標が決まると、手段やプロセスは自ずと後からついてくる。次回は、憧れに過ぎなかった留学が明確で実現可能そうな計画に形を変えていく過程を振り返る。
現況アップデート
豪連邦政府内閣の7月30日付発表で「原則的に承認」とされていた段階的な国境再開プランが、8月6日付発表では「完全に承認」と表現を変えた(8月6日付PDF)。8月中旬の内閣発表はアフガンからの豪州人退避などが中心であったが、8月23日の Doherty Institute 発表で感染者数の多寡にかかわらず70%や80%といった数値目標の計算結果は変わらないことが明らかにされ、モリソン首相は8月27日の記者会見や同日の内閣発表で国境再開プランの有効性と必要性を改めて強調している。
8月6日付の Sydney Morning Herald 記事では7月末までのデータに基づいて今後のワクチン接種スピードを予測しており、成人人口のワクチン接種70%到達を11月16日、80%到達を12月8日と予測している(画像は同紙記事より引用)。この予測では8月30日の二回接種済み人口を667万人と計算していたが、実際には同日710万人が二回接種済みとなっており、予測を上回るスピードで接種が進んでいると見ることができる。さらに短く70%を11月1日、80%を11月22日とする予測もある。
カンタス航空からは上のようなメールが届いた。もちろん「政府の承認による」との但し書きがついているが、現行のワクチン接種のペースでは12月中旬から日本とオーストラリアの運航を再開するそうだ。
但し、ワクチン忌避派の存在やデルタ株抑え込みの成否、ロックダウンによる影響などさまざまな要因を見ていかねばなるまい。
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