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「ホントの笑顔」にふれて頭によぎる『ふたつの日本』を読んだ時のこと

「営業スマイル」とはよく言ったもので。日本のお客さんたちは、その潤滑剤的作り物スマイルが、それと分かっていてもサービスの一環として受けることが当然のように身についていますよね。ちょいと昔までは、某超有名ハンバーガーショップでもメニューに「スマイル 0円」の記載があったぐらいだし。(あったんですよ!)

とにかく日本の接客はすごい。でもそうすると、「店員は笑顔で礼儀正しくが当たり前」の文化なんて全くもって存在しないと言えるような国も多々ある中、海外から日本に来て接客業をされる方は、とりわけお客さんに向けるエネルギーを多めに要しているんじゃないかと推察します。

そんな店員さんたちのカチカチスマイル&トークが一変し、一気に相好を崩してくれる瞬間があります。どんなに最初から営業ニコニコしていても、その人自身の「ホントの笑顔」がパッと生まれる瞬間というのは、何となく分かるものです。これがもうね、たまらん!受け取ったこちらもキュンキュンして、心からにっこりしちゃう絶大なパワーがあります。

しかもそれが生まれた瞬間から、こちらが発したエネルギーの何十倍も増し増しのお返しが思いがけずあって、かえって恐縮しそうになってしまうこともしばしば。明らかに対他のお客さんよりも目まで微笑むレベルが上がったり、ちょっとした会話が続いたり、裏から恐らくご自身のおやつだったであろう祖国のお菓子をくれたり、全力全身でまた来てね!ってお見送りご挨拶してくれたり。いやなんか、どうも、そんな、えへへ、ありがとうございます。

その瞬間に出会いやすいシチュエーションは、至ってシンプル。
ほんのひと言でもその方の母語(と思われる言葉)で挨拶をする
それだけ。

飲食店がいちばん想定しやすいかも知れません。外国料理のお店には、それぞれの国から日本に移住して働いている方が多いからです。もちろん日本で接客するぐらいだから日本語は上手な方ばかりだけれど、席を案内したりメニューを説明する際のアクセントや内容で、母語や日本語学習歴を大まかに察せることがあります。

そこで、どうやらこの方は日本語ネイティブではなさそうで、さらに母語はこれだろうと推定される時、「ありがとう」とか「おいしかったです」なんていうほんの一言だけ、その言語(予めこっそりGoogle先生に教えてもらう)で店員さんに伝えてみる。これだけで、びっくりするほどお互いキュンキュンしちゃうことが多いわけです。

私の場合、「もし自分が生まれ育った国を離れて、異国の言葉で日々がんばって働いていたら?」と思うと、日本語でふと「ありがとう」って言われただけでもめちゃくちゃ嬉しいよな、と想像しては、ついやっちゃいます。ちょっとドキドキしながらも。

ただ、実はこういう時にも常に意識していることがあります。一言で「日本で働く外国ルーツの方」と言っても、その内実は様々だよね、ということです。
・外国で生まれ育って母語も外国語の人
・日本で長いけど母語は外国語の人
・いわゆる出稼ぎで来ている人
・大学や大学院に留学しながらバイトをしている人
・日本で生まれ育って母語も日本語でたまたま近所だからそこで働いてる人
などなどなど。。。例は挙げきれない!だって背景は皆それぞれ違うから。

『ふたつの日本「移民国家」の建前と現実』- 著者:望月優大さん

『コンビニ外国人』- 著者:芹澤健介さん

どちらも数年前の本ですが、いわゆる「日本で働く外国人」というカテゴリーの意味がいかに幅広いかが分かりやすかったです。日本にいる外国ルーツの方の背景にはどんなバリエーションがあるのか、とか。そもそも日本で移民や難民ってどういう定義になっているのか、とか。より突っ込んだ話になりますが。

国籍だって、見た目じゃわかりませんよね。外国籍だったり、日本国籍だったり。今や日本人でも外国人でも肌の色や言語はさまざま。外見で「外国人」扱いされることに傷付く人もいれば、「見た目日本人ぽい」扱いで人知れず嫌な思いをしている人もいます。その辺りは超慎重な判断が必要です。

駐在で会社借上げの高級マンションに住んでます〜とか、研究、IT、金融、商社です〜、リモートワークで色んな国で働けます〜、みたいな層は置いとくとして。
販売業や飲食業など、普段身近に接する場はもちろん。製造業、建設業、林業、漁業、農業etc…日本社会は既に、外国から来て働いている方々にどっぷり依存して成り立っています。でも、もともとそういった方々への待遇が粗悪でありがちなことに加えて、景気の悪化や人権意識の欠如などが劇的に改善される見込みは、今のところなかなか見つけることができません。

とはいえ私個人ができることと言えば、やってもらえたことに少しでも感謝の気持ちを伝えることぐらい。なのでちょっと恥ずかしい気持ちは押し込めて、機会があれば「ありがとう」を伝えています。さっきいそいそとバックヤードからお菓子を持ってきてくれたあの人は、ちゃんと尊重された待遇で働いていますように、と願いながら。

私が日本に生まれたのは、たまたま。日本にいるほかの人たちも、たまたま同じ地で共に生きる仲間として、共に色んな現状を知りアップデートしておくことの大切さを、日々感じています。

だってこのままだと、働くにも、住むにも、日本は段々と「選んでもらえない国」になっちゃう気がしていて。そんなの悲しいし寂しいじゃない。

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