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『完本 アイヌの碑』を読んで

私のnote初めての投稿は、その頃に読んでいた漫画『ゴールデンカムイ』についての記事でした。

そこで私、こんなことを書いていました。
「物語自体はフィクションながら、うまい塩梅で史実を織り交ぜて描いているため、当時のアイヌの人たちに実際はどんな出来事がありどんな影響を及ぼしたのかは想像するしかない。でも、独善的に検討外れな想像にならないためにも、この作品では触れられなかったようなアイヌの様々な歴史や生活や考え方を、史実に基づいた資料や歴史書で学んでみたいなと思うようになった。今度図書館に行った時は探してみよう。」
(自分の書いた文の引用というのは、どうも気恥ずかしい苦笑)

そうこうしているうちに、ふらりと寄った古本屋さんでこの本と目が合いまして。お、これはもしや渡りに船では?と、読んでみました。
『完本 アイヌの碑』- 著者:萱野茂さん

情けないほど無知だった

著者のお名前から察するに、北海道でアイヌの研究でもされていた和人(本州など内地ルーツの日本人)の方の手記かな?と予想したら、大間違い。本文を読み進めていくうちにすぐこの間違いの重大さがわかり、神妙な気持ちになりました。
「そこそこ昔の年代の方だけれど日本語風の名前だから、きっと内地の人だろう」なんて先入観を持ったこと自体が、いかにアイヌのことを知らずに育ってきた人間か、の典型である証明だったわけです。

萱野さんは大正と昭和の狭間の生まれ。明治はそれより前。その明治政府が推し進めたのは、アイヌの同化政策です。アイヌ風の名前は日本風の名前に変えられ、苗字が作られ、戸籍に登録され、無許可の猟は禁止され、アイヌ語は使わない学校に行かされ、アイヌ語やアイヌ文化を学ぶ機会はどんどん減っていきました。
そうだ、そんなこと私だって昔学校で習ったはずだし、北海道にも何度も行ったことがある。でも、こんな基本的なことも頭から抜け落ちていたのか。。と、恥ずかしながらそんな知識レベルの私にとっては、本文の全てが身に沁みる思いでした。

そう、私はびっくりするほど予想以上に何も知らない。無知の極みだ。そう自覚して開き直り、萱野さんの綴る一文一文を真摯に読んでいきました。

この本の構成

私が読んだ文庫版は、『アイヌの碑』と『イヨマンテの花矢』という、もともとは別冊だった内容が合わさったものでした。主な内容を私なりにまとめると、こんな印象です。

『アイヌの碑』
・著者の家族やアイヌ全体の歴史、著者の故郷について
・奴隷のような仕事、強制移住など、アイヌが受けた差別について
・著者の幼少期から本書執筆時までの成長や出来事の記録
・アイヌの若者としての葛藤
・アイヌ文化の保存や継承をする決心をした経緯
・資料館を作るにあたって

『イヨマンテの花矢 続・アイヌの碑』
・アイヌ文化の継承、教育についての思い
・観光アイヌの興行経験
・民具の収集、口伝の録音
・和人のアイヌ研究者との関わり
・アイヌ初の国会議員になった経緯
・差別的な北海道旧土人保護法から、アイヌ新法の制定に貢献したこと

いずれの章においても、生活に根ざしたアイヌ文化や思想が、萱野さんの視点で随所に詳細に記載されていました。
どれもこれも、要約の紹介ではなくて、ぜひ少しでも多くの人に本書を実際に読んでもらえるといいな、とささやかながら願います。

昭和初期に幼少期を過ごされた年代でも、萱野さんほどアイヌ語も日本語も流暢な方は稀少だったそう。ましてや、日本語でアイヌ文化を日本全体に伝え、アイヌの権利や立場を大幅に変えられた積み重ねの実績は、なかなか筆舌に尽くし難いこともたくさんあったんだろうと推察しました。

もちろん、萱野さんの意見がいま現代を生きるアイヌルーツの方々の想いを全て代弁している、とは思いません。萱野さんの時代ですら、考え方は人それぞれだったことでしょう。なので今回も、「アイヌの人は皆こう思っている」と乱暴な認識をしないように気をつけているつもりです。現代のアイヌルーツの方々の想いも、私は知らなすぎるので何も言えません。

しかしながら、アイヌの文化や歴史を知らない私のような無知な人間相手にも、軽蔑や攻撃をせず、より良く知ってもらうために様々な活動をされ続けた萱野さんの行いは、並々ならぬ努力の賜物だったと思います。今度北海道に行ったら、ぜひ資料館にも足を運んでみたいです。

妻の存在

いわゆる「内助の功」が女性の美徳とされた時代だから仕方ないのかも知れないけれど、妻のれい子さんの経歴や描写を見るに、かなり壮絶な時期が多かったんだろうと察せます。新婚当初から夫は一年のほとんど不在、大酒飲みの義父を含む義実家でいきなり9人家族、農耕だけでも大変なのに、経済的にも苦しい中著者のきょうだいの面倒を見て、たまに帰る夫は稼いでくるかと思えば、アイヌ文化保存の名目で民具の収集に頼りの収入をほとんど費やされ、、、軟弱な私なら1ヶ月もしないうちに音を上げていたかも。萱野さんも、そんな妻に心から感謝されているようでした。
本書は徹底して萱野さん視点の手記ですが、れい子さんの言葉でも何か発信があったらどんな内容だったのか興味深いです。

著者、資料館、法律について

本書の理解を深めるためにと、私のメモがわりに、関連することを貼ってみます。(Wikipediaばかりだけど)


おまけ

ところで、アイヌ語やその解説もふんだんに出てくる本書。知らない言葉ばかりでしたが、『ゴールデンカムイ』を読んでいたおかげで、「ああ、マキリね」「うんうん、ウェンカムイな」「ウウェペケレね〜面白いよね」など、ちょっと知ってて嬉しい場面も多かったです。

しかし…

獲れたうぐいは、骨まで細かく切りきざんで、汁に入れて食べたものです。

P.24 コタンの四季

あ、来た!!来たわ!!これ知ってる!!私でもわかる!!わかるよアシㇼパさん!!わくわく!!
と期待したけど、なぜかこの言葉は最後まで本書には出てこなかったと思います。何でだろう。
はいそれでは皆様ご一緒に。

チタタプ! チタタプ! チタタプ!

…ええと、そして白状しますと、この本のタイトル『アイヌのいしぶみ』、読み終わるまでずっと『アイヌのひ』だと思い込んでおりました。ブックカバー外して本棚に戻す時に気づいてびっくり(照)。

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