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クラフトビールの定義に関する議論に別の視点を与えてみようという試み

ここしばらくずっと考えていることがあります。1〜2週間前にクラフトビールの定義についてSNS上で様々な議論が飛び交いました。恐らく火付け役になった記事があるのですが、今回その記事の内容についてどうこう言いたいわけではないので敢えて紹介はしません。気になる方はご自身で調べてみてください。

さて、本題です。クラフトビールの定義をテーマに議論すると必ず揉める。規模の大小とか色々細かな論点はあるのだけれども、例外なく揉める。定義について議論すること自体はとても良いとは思います。とはいえ、瞬間的には大盛り上がりするけれども、傍から見ると何かしらの進展があったのかなかったのか分からない感じでいつの間にか炎上は収まり、気がつけば穏やかな日常が戻ってきているわけです。一時の狂乱、お祭りをしているだけのゼロサムゲームなのだろうか、と毎度思います。

定義したい人がたくさんいて、その条件にそれぞれ違いがあるから揉めているわけですが、その後ろ側にはクラフトビールというものを万人に共通するような形に一本化したいという意識があるのではないかと私には感じられます。そして、それは無理だろうとも思うのです。

常々私が主張していることを繰り返しますが、クラフトビールを定義しようとした場合「統計/情緒」と分けるべきでしょう。これは「客観/主観」と言い換えても良く、それぞれ性質が全く違うわけです。前者の客観的な、例えば数字、数値で定義できる部分については妥当な線を大勢巻き込んで検討すれば良いし、その結果を大いに利用すれば良いと思います。問題は後者で、情緒的で主観的な想いや感覚については他者から強制されるものではありません。各人の経験、思い入れなどから発生するものだから同一でないのは当然で、それをすり合わせて一本化することには無理があります。仮に世間全体が誰かの私的な感覚によって征服される、つまりクラフトビールについて情緒的な定義が可能なのであればそれはある種危険な思想空間のように感じられます。

そもそも、なのです。皆さんクラフトビールは多様で素晴らしいと言って仲良くしているのに、なぜ定義の話になると急に一元化したくなって刺々しくなるのだろう。普段はそうではないのに定義の話になると好戦的になる人がたくさん現れて場が荒れるのはなぜか。

本来混ぜられないものをごっちゃにして語る人がいるなら「へー、あなたはそう思うのですね、なるほどなぁ」とすれば良いのではないでしょうか。冷たくあしらうというのではなく、「understandとagreeは全く別のものだ」という態度で受け止めれば良いと私なんかは思うのです。必要ならば議論すれば良い。発言者の意見それ自体は尊重しつつも、自分の意見はそれぞれ別に持てば良いのです。そして、良い意見があればどんどん取り入れて自身の意見をブラッシュアップしていけば更に良いのでしょう。強いて言うと「極めて個人的で不安定だけれども、動的で更新され続ける概念として個々が持つもの」とでも表現すれば良いでしょうか。上手に書き表すことができませんが、そういうことなのではないかと今は思っています。

・・・ここで終わるといつもの通りなのでもう一歩進めてみたいと思います。

上述の通り、情緒的な面から攻めても定義出来そうにもありません。しかし、定義に関する議論は止まらないわけです。となると、別の視点を持つべきなのかもしれません。たとえば、こう考えてはどうでしょうか?

なぜ人は情緒的な面でもクラフトビールを定義したがるのか?
ビールと一括りにしたくない気持ちはどこから来るのか?

定義してもビールそれ自体が美味しくなるわけではないにもかかわらず人は定義したくなるのです。特別なものとして名前を与えたいのは何となく直感的に分かります。では、その発想の根っこには何があるのだろうか。区別したくて仕方なくなるほどの他には無い固有の魅力とは何か。それはビールそれ自体に含まれるのか、それとも人や環境の側にあるのか。はたまた、それらを含めたクラフトビールという現象全体にあるのか。そういう議論をしてみることを私から提案してみたいと思います。

上記提案とは別にもう一点だけ。こういう議論は本来ジャーナリズムが積極的に引き受け、世に問うのが筋であろうと考えます。そして、その繰り返しの中でオープン且つ高レベルな議論が交わされる論壇や批評空間が形成されていくのが自然な形でしょう。現在そういう言論空間はここ日本にあるだろうか。あるならばどこにどういうものがあるのか。無いならばなぜ形成されないのか、もしくは形成を阻害する要因やボトルネックがどこにあるのか。私の頭の中で今こんな問いが立て続けに生まれてきています。

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