月の光
「誰もが入れるボデーガではない」と、宿の旦那ナッチョが言っていた通りだ。リベエラ デル ドゥエロで、いや、スペインでもっとも有名なボデーガ、ヴェガ シシリアの入り口には門番がいた。名を告げると内部と連絡が取られ、戸が開けらる。中に入ると、駐車場の脇に和風に似せた庭園が…。が、屋内は石造りの半円形の通路風の事務所で、まるでスパイ映画の秘密基地を思わせる。その一角の応接所に、隣の部屋から太い男の声が響いていた。やがて大柄な声の主が現れる。代表取締役、パブロ アルヴァレス・メスキリスだ。彼の低く響き渡る声には、壮健で濃縮されウニコの香りがした。
早速ボデーガを案内してもらう。近代的なそのウニコの郷は、大病院の滅菌室の如く、塵一つ無く完璧に管理され、冷たくも圧巻だ。ただ照明だけが、やけに暖かい。イタリア製の照明器具、中でも「太陽」に似たものが気に入った。するとパブロが「月だ」と言う。どうなのだろう、ヴェガ シシリアのイメージは?音の響きからすると、やはり月の光か。まぁ、どちらでもよい。その黄色の灯が、やもすると見落とされがちなパブロの繊細で澄んだ眼差しを、ウニコ グラスに映していたから。
Alejandro Fernandez – Bodega Tinto Pesquera
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