緑色が好きなんだけど
緑色に恋してる。
北海道に住んでると、冬が白ばかりのせいで。
緑色に飢えてる。一面の緑に憧れてる。
だから撮る写真が緑ばっかり。
もう、なんでもいい。緑なら。
好きすぎて緑色の服なんかも試着してみるんだけど、カマキリやキリギリスみたいで似合わないのはなぜなんだろう。
わたしの好きなホンモノの緑は植物。
大地に根づいてるから、いきいきとしたあの色なんだね。
昔からたまに、ゴルフの中継をぼーっと見る。TV画面が緑色。解説の穏やかな声も好き。
ゴルフ自体には興味がないので、優勝が決まるかという大事な瞬間には、いつもこんなことを思ってる。
「あのグリーンの真ん中に大の字に寝っ転がって、青空を見上げたら気持ちいいだろうなぁ」
というわけで、うちの畑に芝生の種をまくことにした。
父は家庭菜園が趣味だった。年とって草取りさえできなくなり雑草が生い茂ると「となりの家の畑に種をとばすわけにいかない」と除草剤を大量にまき始めた。
一緒に住むことになり、連れてきた猫2匹のこともあるので「草取りするからやめてほしい」と頼んだが聞かなかった。
畑の片隅にズッキーニを植えたら見事に枯れた。雑草いっぽん生えていない畑は雨を吸わず、流れてきた除草剤たっぷりの水は庭まで泥だらけにした。
わたしは父が嫌いだった。
昨年、その父が死んだ。
そして1年たって土が甦った。
わたしは緑色で、なにかを塗り潰そうとしているのだと思う。
さて、気を取り直して。
とりあえず、一袋500g入りの西洋芝の種を10袋。25㎡に一袋なので、5㍍ごとに棒を立てる。10袋じゃ足りなかった。けっこう要るのね。
草がとんでもないことになってる。一本ずつひっこ抜いて、小さい草も鎌でガリガリ。
種の袋の裏には「20~30㎝耕せ」とか「肥料や堆肥を入れろ」とか書いてある。けど、べつにゴルフ場の芝じゃないんだからそのままでいいや。
草取りが終わった区画から、順に種まき。
これって、そのへんに生えてる雑草の種にそっくり。そういや芝生ってイネ科の植物。地下茎で広がり、成長点が低いから短く切っても平気。それを「芝生」って呼んでるんだったら、雑草混じっててもいいじゃないの。ゴルフ場の芝じゃないんだから。
あんまり難しく考えない。多少デコボコしてるし、穴ほって草を埋めたとこなんて盛り上がっちゃってるけど、いちいち気にしない。生きるのが楽になるよね。もう、いろんな事、楽しんじゃえ。
!!!冗談じゃないよ!!!
そんなのは雨にまかせとけばいい。
さて、最初の種まきから6週間。
みごとな雑草混じりの芝生ができあがりました!…これはひどい。
グリーンに木やラフ、バンカーまである。ゴルフ場じゃん!←違います。
「子供のくせに」
「女のくせに」
「お前に何がわかる」
「お前に何ができる」
長い草を芝刈りばさみで切っていると、小さい頃からの父の言葉がよみがえる。
空の上から見えますか?
あなたが居なくなった今、これがわたしの答えです。
「また勝手なことして」
笑ってくれますか?
心残りは猫2匹。
こんな芝生の上だけど、いっしょに駆けまわって遊びたかった。
父のあとを追うように、次々と死んじゃった。2匹とも白血球が異常に減少し、黒猫は声が出なくなった。わたしは、除草剤のせいだと思ってる。だから余計に許せない。
人生、思うようにいかないですね。
芝生の種をまいてよかった。少し気が晴れた。父が淋しいから猫たちを連れて行ったんだと思うことにする。猫たちは父に懐いていた。仕事に行くわたしの代わりに可愛がってくれたからね。
今日も青空だ。
だけどまだ、大の字に寝っ転がることはできないでいる。
あの雲の上で猫たちが駆けまわっていると思うと、きっと泣いてしまうから。
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